作戦会議
「第一回森の熊さん討伐会議を始めたいと思います!議長はこの集落のリーダーのキバ君です。よろしくお願いします!」
「えっ?ボクですか!?そんなのボクやった事ないですよぉ〜…。」
しゅんと耳が垂れる狼ボーイ。……多分需要はあるよ!
「…と早くもキバ君ギブアップの為、議長はアデリナ嬢が行います。では、よろしく。」
「相変わらず軽いわね…仕方ないわね。…はい、議長となりましたアデリナです。今回の議題は森の熊さん討伐…って倒す1択なの?」
「別に他に良い案があれば逃走でも良いし、撃退でも良いよ?因みにその熊の事あんまり知らない人もいるかも知れないから知ってる事を教えておくね。2本足で立つと約8mで森の木から頭が出るくらいの大きさで黒い毛皮に腕は左右2本ずつの計4本。目は赤くて向き合うと恐怖に頭の思考が止まって動けなくなり、あまりの緊張感でいなくなったのに気がつかないくらいに錯乱してしまいました。これが昨日ですね。多分走ると馬くらいのスピードは出るんじゃないかと想定しています。」
「「「「「「…………………………………。」」」」」」
皆で黙っちゃった。無理も無いけど。
「はい、では意見が出そうにないので少しの時間、周りの人と少し話ながら出来そうな事を考えてみて下さい。」
アデリナがそういうとポツリポツリと少しずつだが近くにいる者同士で話し合いが始まった。
「ねぇ、マサル?本当に意見が出ると思う?」
「そりゃあ、出ないだろ。例え出ても逃げるか、自殺同然の作戦さ。」
「じゃあ何で話し合いなんかさせるニャ?」
「それはちゃんと問題に向き合って考える事で他人事の意識のままで事に当たって欲しくないのさ。多少でも向き合ってから手順を確認させる事で本番に入った時に避難や誘導が上手くいきやすいのさ。つまり避難訓練前の頭と心の運動さ。」
現代日本でも避難訓練の意識は実際に生存率に関わり、どのように自分の事として見直せるかや防災意識を持って取り組めるかは幼少の教育から重大な課題となっている。正しい知識と正しい心構えで助かる命があるものなのだ。
「と、まぁ周りはおいといてこっちは同じように話してても仕方ない。まず、戦うなら接近戦や弓矢ではどうにもならないのは分かるよな?俺の持っている武器でも刃が通りそうなのは槍が一本だけだ…それも使えるのは一度きりになるだろうな。そこでだ、直接やらないなら方法は2つ。罠と毒だ。」
「確かに剣くらいじゃあ、あの固そうな毛皮に通りそうにないわね。」
「罠と毒か…どちらもボク達獣人ではやらない方法ですね。やはり狩りは弓矢と槍なんかがポピュラーですから。」
「あんだけ大きいと罠も毒も大変そうニャ…。」
そうなんだよな…落とし穴とかは論外だし、ロープなんかじゃあどうにもならない。鎖は短いしやはり強度不足だろう…トラバサミとかはサイズも仕掛けの構造も分からないし…。
毒もあの巨体じゃあ適量が分からないんだよな… どうやって摂取させるのかも問題だしな。
「なぁ、この辺りで入手出来る毒はないか?何でも良いんだが手持ちに毒になりそうなものが無いんだよ。」
「毒で決まりなの?」
「いや、可能なら毒と罠の両方を考えたい。問題の解決に取り組む時は手札は多い方が良いからな。」
そういう考え方を覚えておくれよ、特にアデリナとキバ君。ゴロくんは明後日の方を向いてユズちゃんの事でも考えているのか?…埋めるよ?
「ねぇ、ノームのおじさんの住んでるところとか大丈夫かな?」
「ノームってあの食べられない実のなる森の?」
おっ?知ってるのか!世間は狭いな。
「あの何か偉そうなお爺ちゃんばっかりのトコロかニャ?」
悪い知り合い方してる方でしたか…儘ならないものだな。
「あの実は毒じゃないニャ?」
「あれは本当は食べれるんだよ…食べ方を知らなかっただけで…。」
「それもマサルさんが?…そういえばノームの集落の近くに溶岩の流れる河があるって話を聞きましたけど?」
「火山地帯なのか…低い山ばかりで気がつかなかったけど近くに活火山があるのかもな…。取り敢えずはそのノームの集落の辺りまで全員で移動してみるってのも手だな…この森じゃあハンデにはなっても勝ち目はなさそうだしな、地形にまで不利となるとますます勝ち目が無いからな。」
「木で足止めとかは…無理よね…普通の木じゃあ簡単に折ってしまいそうだもんね。」
あの熊は何トンあるんだろう…シロクマがに2mで450kgくらいだから…突進してきたらダンプカーくらいか?
「そもそも出会わない可能性は?」
「大いにあるけどそれに命をかけるのか?」
「そんなの嫌よ…食べられるくらいならお腹壊す様な物でも持っててやるんだから!」
俺とか食べたら普通にお腹壊したりして…ん?そうか!
「それだ!アデリナに毒を持たせて食べさせれば…。」
「何でよ!嫌よ!」
「嘘だよ。美味しそうな大きい肉に毒を仕込もう!それならやり方次第ではいけるハズだ!」