再会に向けて
「ライム!貴様っ!人族をこの集落に連れてくるとは何を考えている!」
怒涛の勢いで怒っているのは集落にいた猫人族の男だ。あぁ、やっと集落に入って拒否される普通なパターン来たな…これまでが幸運過ぎたんだな。などと明後日な感動を覚えたマサル…本当にどうでも良い感動である。
「だって…だって…。」
ライムの耳がぺたんとして怯えている。
「だってじゃない!だいたい貴様は狩りをしに行ってたんじゃないのか!獲物も弓も持たず何をしている!」
「人族のアホな貴族みたいな事言ってないでちゃんとライムの話を聞いてやれ。」
「何だと貴様!だいたい人族が獣人の集落にのこのこ来ておいて生きて帰れると思うなよ!」
そう言って男は腰の後ろに下げていたダガーを抜き構える。
「刃物抜いたんだ…お前も覚悟はあるんだな?」
こちらも身体の後ろから相手に見えない様にアイテムボックスから刃渡り70cmくらいのショートソードを鞘ごと引き抜く。
「何処から出てきた!まぁ良い!これでも喰らえっ!」
懐から出した投げナイフは視線をマサルに固定したままアデリナに向かい飛んでいく。
「てめぇ!」
慌てて腕を伸ばして鞘ごと投げナイフを払い鞘は何処に飛んでいってしまう。それと同時に時間差でマサルの身体にも投げナイフが飛んでくるがアイテムボックスから出した蟻の甲を盾にし何とか攻撃を反らした。
「危ねぇな!よく分かったよお前は少し痛い目にあって貰わないといけないようだな。…アデリナ!ほら剣だ、一応警戒しとけよ!」
自分の身体を影にしてアイテムボックスから出した細身の護身用の剣をアデリナに渡し、獣人の男に向き直る。チラリとライムを見たが完全に怯えて身体が硬直してしまっている。
「何処に武器をそんなに隠し持っていた!道化師風情が俺様に楯突いた事後悔して死ね!」
今度はダガーを構えてステップを踏みながら不規則な動きで距離を詰めてくる。
「道化師か…上手いな…じゃあこんなのはどうかな?」
今度はアイテムボックスから余っていた鎖を剣を持っていない左手で引き抜いて凪ぎ払う。鎖は鞭のように上手くしなり獣人の男の身体に当たり身体に巻き付いていく。
「ぐはっ…なんだこれは…貴様卑怯だぞ!」
鎖の攻撃は思った以上に効いていて拘束された身体はガタガタと震えている。
「卑怯?女性にナイフを不意打ちで投げる男の台詞とは思えんな!」
言葉を吐き捨てるのと同時に容赦なく鎖の上から蹴りを放つ!衝撃で木っ端のように身体は弾き飛ばされるが鎖がそれを許さない!すぐに引き戻されサンドバックの様に何度も何度も鎖の上から蹴りを当てていき男の意識が途切れるまでそれは続いた。
「…大丈夫?やり過ぎじゃない?」
「アデリナこそ大丈夫か?さっきの投げナイフには毒が塗ってあったんだぞ?」
「えっ?思った以上にこいつゲスね…騎士団のお馬鹿な奴ら思い出しちゃった。」
「もしかしたらアドルフ君かな?」
「やっぱりあの馬鹿やらかしてたのね…。」
「いや、こいつよりはある意味マシさ…ランスロットと一緒にハメて決闘でボコボコにしようと思ってたのに直前で怖じ気付いてギブアップしたからな。」
アデリナさん?………何で黙る。
この間にも周りには獣人達が騒ぎを聞きつけて集まってきているが誰も武器を構えたりもしない代わりに声もかけて来ない。
「ほら、ライム!まずは熊の話だ!」
「え?…あっ、分かったニャ!みんな聞いてニャ!この近くであの4本腕の熊がいたらしいニャ!場所は…えっと…どこかニャ?聞いてなかったのニャ…。」
「ライム…君は言葉使いを直していたんじゃなかったのかい?」
出てきた来たのは狼人族の青年。多分ライムと親しい仲なんだろう。
「まずは謝らせて下さい。この猫人族のゴロは以前に人族との戦いで婚約者のユズを亡くしてから荒れているんです。もともとはそんなに悪いヤツじゃあなかったんですけど…許して頂けませんか?」
ほぅ?そんな経緯が…しかし…。
「ユズは生きてぞ?」「ユズは生きてるわよ?」「ユズは生きてるらしいニャ!」
その言葉に気を失っていたはずのゴロが目を覚ました。
「ユズが生きてるだと!嘘を言うな!ユズは人間との戦いで…。」
「死んだりしたのを見たのか?」
「…いや見てないが…本当に生きている?」
「戦いに負けた獣人達は人族の元で働いていたんだけど彼が解放したのよ…一応は公的には彼が主ってなっているけど元気にしてるわよ?」
「!!…本当に戦士達は生きているんですか?本当ならこれほど喜ばしい事はないんですが…。」
「だから生きてるっての!今はここと同じ様に逃げ延びた兎人族の集落で生活していて獣人達の街を作ろうって事で頑張っているんだ。」
「だ、か、ら!そんな事より熊が先ニャ!」
おぉ、ライムさんがお怒りですぞ?
「そんな事って…まぁそうだね。えっと、あの熊が近くにいるんですか?」
「昨日遭遇したんだ…あれにはちょっと勝てないからヤバいなぁと思ってたんだよ。で、何か対処方法があったりしないかな?」
やっと本題だよ…まったく…ゴロちゃんのせいでとんだ遠回りだ。
「昨日ですか…それは逃げるしかないですね。あの熊に対処する戦力があれば人族との戦いに逃げたりなんかしてないですよ。」
ごもっともです。
「逃亡先の目星は?…ってか無いわなぁ…ここが既に逃亡先だものな。」
「という事です。お2人はどうやってあの熊から逃げ延びたので?」
「んっ?お腹空いてなかったみたいで見逃してくれただけだよ?どんなに走っても競争したら向こうのが早いだろうし無理だね。…取り敢えずは何か戦える準備がいると思ってるんだけど…。」
「あれと戦うんですか…あははっ、想像が出来ませんね。」
現実逃避気味に笑うマサルと狼人族の青年。
「………何をのほほんと笑ってるのよ。早くどうするか決めてよね!」
アデリナさん?今決定権を丸投げましたね?…まあ、良いけど。
「あ、遅くなりましたけどキバと言います。一応、ココのリーダーをやらせて貰ってます。と言っても皆で力比べして運良く勝ち残ってリーダーになっただけですけどね。」
「じゃあ、ヤツと戦う事になったら一緒に前線だな!よろしくなキバ!」
「あちゃ〜っ!ボク今凄く要らない事言っちゃたみたいですね。」
「手遅れだ、諦めてくれ。ゴロくんも元気そうだから一緒に頑張ろうな!」
こうして獣人たちとの対熊用装備の準備が始まった。
焦ったって良い事なんて起きません。
さて、獣人たちの感動の再会はどうなるのやら!?
…神様も作者も知りません(笑)