虫の恐怖1
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「なんなのよコレぇぇえぇぇぇっ!?」
そこには死屍累々と続く死骸の山々…どう数えても100や200ではないそれは通称『黒き悪魔』と呼ばれる体長60cmを超える巨大な黒蟻であった。それなりの硬度と軽さから歩兵や冒険者の中でもかなり人気のある素材で主に軽装の鎧などに使われるのである。
「まだ出てくるから周りには気を付けてね。」
そういって振り回すのはいつぞやのモーニングスターである。最初こそ素材が傷付かないように頭や胸、腹の間に剣の刃を振り下ろしながら戦っていたのだが昆虫特有の生命力で頭や腹が千切れていても動いているのをみて、どうせ数がいるのだからと力業に移行したのだ。
丸びを帯びているせいもあって中途半端な場所を叩いたりすれば攻撃が滑るし、そもそも刀剣は硬い甲に刃が入りにくいし数もやたら多いので一般的にかなり危険度の高い魔物なのであるがマサルに常識は通じなかった。
「うりゃあ!そりゃあ!」
そんな掛け声と共に振り回されるモーニングスターの前には軽い蟻の身体は当たった場所を粉砕させながら吹き飛んでいくのである。それが蟻を惹き付けているとも知らずに…。
「いくら殺っても減らないんだけと…蟻ってこんなにいるものなの!?」
それはそうだろう…過剰ともいえる攻撃によって戦いに入ると大量に分泌するフェロモンが辺り一帯の空気中に撒き散らされていたのだから。
地球の蟻は種類にもよるが一般的に1つの巣に数千〜数万匹くらい住んでいる。この蟻はサイズがサイズだけにそれほどはいないがそれでも約600匹が地下に帝国を築いているのだ。
「逃げよう!逃げようよ!」
泣きそうになりながらも討ちもらしの蟻を一匹ずつ丁寧に倒していくアデリナは既に息をきらし酸欠気味で青白い表情をしている。
「もう少しだけ我慢してくれ、少しだけでも蟻を回収するから…。」
足場が不安になるごとにアイテムボックスに少しずつ蟻を回収していたのだがまだ周りには小山がいくつも出来る程に蟻の死骸が転がっている。マサルは意を決してその小山の1つに狙いを定め頭から飛び込むと同時に触れた蟻の死骸が次々とアイテムボックスの中へと消えていく。それを何度か繰り返して半分程の蟻を回収してから戦っているアデリナを横から拐う様に担ぎ上げる。
「ちょっといきなり!?メイス落としちゃったじゃない!」
「他の出してあげるから諦めろ!また蟻の中に戻りたいのか!」
「…嫌…さっさと逃げよ…。」
走る事15分…蟻と戦闘した場所からはかなり離れたので一息つく事にした。アデリナはかなり限界といった表情をしている。
「取り敢えず水を飲んで少し身体を休めてくれ…周りには何もないから急襲される事はないけど逆に何か来たら見付かりやすいしな。」
「もう何なのよ!何であんだけ戦って走って息も切らしてないのよ…。」
「良いから休め…足が震えてるぞ。」
ぷくっと可愛く頬を膨らませて不満を露にしながらも身体は本当に休みを欲しており地面に大の字になって休み始める。
「何で今解体なのよ…今はもう見たくないわ。」
「いや…凄い生命力してたなぁと思ってね。ちょっとこいつらどうやっているんだろうって…見てみろよ甲の厚みが1cm以上あるぞ!こりゃ剣じゃあ厳しいわけだ。蟻酸とかは吐いたりしてなかったな…そういう器官も見当たらないし…ん?甘い匂いがするな…戦ってる時には気付けなかったけど…え!?」
「どうしたのよ?」
「ほら見てみろよ、あっち…。」
指を指したのは蟻と戦っていた方…遠くで黒い何かが蠢きながら少しずつ大きくなっている。
「何なのよ!なんで追いかけてくるわけ!?」
「やっぱりこの甘い匂いだろうな…たぶん特殊なフェロモンで戦いの時についた俺たちを追いかけてきたんだ。確か蜂なんかもそうやって獲物を追いかけてくるのがいたハズだ。」
「冷静な分析してないでどうすんのよ!」
「見えているだけでさっきと同じくらいいるな…しかも今見えているのは働き蟻ばかりだから、まだ巣には兵隊や女王蟻がいる訳だ。」
「兵隊!?あれより強いって事!?」
「働き蟻は基本的にはメスなんだよ、兵隊ってのはオスの蟻になるわけだけど…こればっかりは種類によって差があるからどんな個体かは分からない。」
昆虫の世界は個性強い癖に本当に合理的で無駄が少ない恐ろしい進化をするしな。この世界の環境の何がどうやって影響を与えて進化したのか分からない。
「ここで戦っても幾らでも周りこまれてピンチになるしまた走るぞ!」
「走るって何処に!?」
「隣を通り抜けて巣穴の方から対処する!巣穴を見付けて入り口に火をかけて火と煙で援軍から潰してやる!」
「朝に人に武器を向けるのが怖いって言ってたのは同じ人なの…。」
それはそれコレはコレなのですよ…なんにでも不殺や同情をしてたんじゃあ生きていけないじゃないですか!殺す気満々の蟻さん相手に慈愛の心持てるほど馬鹿じゃないのさ。
「さぁ、走るぞ!しっかり掴まれよ!」
「左側よ!匂いで追いかけてくるんなら風下の左側を走るのよ!」
別に間違ってはいないけど多分既に見えてるよねなんて事は思っていても言わないマサルは気を引き締めてまた蟻と遭遇した場所に戻るので遭った。
ちょっと蟻の観察ってやってみたくありません?