出立と出逢い
「じゃあ、お世話になりました。また生活が落ち着いたり困ったりしたら来ますね。」
遂に見送りに来ていたクック達を始め騎士達やドワーフコンビとポータリィムから獣人達と出立の挨拶を交わしていると遠くからランスロットの声が聞こえてくる。
「おぉ〜い、待ってくれぇ〜!」
通りの角から数人の騎士や街の人達を連れ鎧をガチャガチャ音をたてながら走ってくる。
「ま…間に合った…。」
結構速いペースで走って来たのか後ろの騎士は今にも吐きそうな顔をしている…よく見るとアドルフ君達じゃないですか!決闘騒ぎの時には名前すら出ずにギブアップしたので影の薄さは折り紙付きの残念な騎士さんだ。実は名門の貴族の次男で中隊長らしい。
「もう出ていくんだな…早いものだ。マサルが来てから数日だというのに街は以前より綺麗になり、多少雇用も増えて活気が出てきた。本当に今までのオレは何にも知らずに街の代表面をしてたんだなと思うと恥ずかしいよ。」
「それでしたら5年後くらい先までの大まかな計画の草案を文書にしておきましたのでご検討下さい。ウェイドさんには徹底的に議会を開きちゃんと本人達に考えさせてから実行するようにと言っておきましたので頑張って下さいね。」
「ちょっと!?そんなにあったら訓練も何も出来ないじゃないか!ああいうのは苦手なの知ってるのに酷いぞ!」
「ちゃんとご褒美に武器を幾つか用意しておいたので頑張って下さい。決められただけしないと決して渡してはならないと釘を刺しておいたので安心して下さいね。」
「どこに安心があるんだ!?」
こういう趣味一直線の男にはご褒美のオモチャをちらつかせて働かせるに限る。先にご褒美を渡すと遊びに一生懸命になるので管理はしっかりしないと動かないのだ。
「…おっと馬鹿な話をしてる場合じゃなかったな。マサルに紹介したいヤツがいるんだ。」
別れ際に紹介?なんだか非常に面倒事の香りがする。
「こいつは俺の姪でアデリナだ。歳は17で跳ねっ返りのお転婆で嫁入り先もなくて…ぐふっ!」
「年頃の女性を紹介するのに年齢から入ってまるで人がモテないみたいな言い方するとは良い度胸ね、叔父様?」
鋭く腰の回転の効いたフックブローは見事に鎧の金属部分を避けてボディへと入り地面と仲良くするランスロット。
「ご紹介に与りましたアデリナと申します。弓と剣を少々嗜んでおります。今回はご一緒させて頂けるという事で出来る限りお役にたてる様に努めさせていただきたいと思ってます。」
「ご一緒させてもらう?…聞いてないんだけど…。」
ピクピクするランスロットの鎧に手をかけ無理矢理起こすとアデリナは明らかに怒りに満ちた瞳でランスロットに追い討ちの蹴りをいれる。
「どういう事ですの?やっと街の外へと出る許可を出したと思いきや先方に話も通してらっしゃらないのですか?蹴りますよ?」
もう蹴ったじゃん!とツッコミは入れない方が良いだろう…こういう時は正論のツッコミは何故か腹が立つものだ。
「…もう…蹴っ…ぐはっ!」
「アデリナ嬢、話が進まないのでそのあたりで。」
「そうですね、失礼しました。」
ほら獣人の皆さんが引いてるじゃないか。
「で、どういう事情なのでしょうかランスロット指令?」
「実はな前からアデリナは見聞を広げたいと言っていたのだがな、世も世だ、女の旅というのは大きな危険を伴う。訓練された騎士や冒険者でもいつ死ぬか分からんのだ。」
「それでわたしにと?幾らなんでも女性1人を連れていく環境とは思えませんよ?野宿よりは良いかも?くらいの環境で楽しく生きていけるくらいじゃないとかなり厳しいかと思いますが…。」
「大丈夫よ!野宿好きだもん。それに今回を逃したら旅なんて出来るチャンスきっとないわ!」
あっけらかんと言うが他の獣人達が受け入れてくれるのかすら分からないのだ。
「御手洗いやお風呂もないですよ?」
「お風呂なんて王都のお城や大きな貴族の館にくらいしかないわよ。水を汲むのも大変だし薪代も馬鹿にならないもの、御手洗いは早めに頑張って作れば良いじゃない。」
このお嬢さんは絶対についてくる気だな…保護者が公認なら兎人族でした様な手は使えないし、置いていくと危険も省みずついてくるだろう。そうなると自分1人ならまだしも獣人達も一緒だとどうしても置いていくという訳にはならないだろう。
「まぁ、良いか。具体的にはどうなるか分からないけど数年帰ってこれなくても良いならどうぞ。」
「ちょっと待て!数年だと!?近いんじゃないのか!?数日で戻って来れるんだろ?」
今度は思ってもいない所から待ったがかかる。
「街を築くんだから数年はかかるだろ?この街の規模でもこの人数で2年かかってるんだ。遥かに少ない人数でやろうと思うと何年かかる?その間に往復2週間も3週間もかけて往復して1人を送って連れてくるなんて事が出来ると思うか?何か買い付けがあったりして、そのついでなら問題が無いだろうけど魔物や盗賊の危険を考えるとあり得ないね。」
「アデリナ…やっぱり…。」
「止めないわよ?止めろっていうなら絶交だからね。」
「…うぐっ…仕方ない。マサル…アデリナを頼んだぞ。くれぐれも手を出したり…いや、良いのか?…ぐはっ!」
素晴らしい軌道を描いたアデリナのアッパーカットは見事ランスロットの顎を打ち抜いたのであった。
「じゃあ、叔父と姪のコントはそのへんにして行こうか。じゃあ、みんな幸運を!またな!」
ポータリィムを出た一行が漁村を周り貝殻や海水を入手して兎人族の集落に着くのはその8日後の昼だった。
あまりにも長くかかるので最後は一気に帰還させてしまいました。
遂にヒロイン登場か!?