【side story】彼の秘密
「何があったんです!?あの決闘の最後、あれは尋常じゃなくおかしいですよ!?」
司令の部屋に飛び込んできたのはクックとその小隊のメンバーだった。
「…………何でもない。」
「何でもない訳が無いじゃないですか!誰もが感じていますよ!」
ランスロットは何と言って良いのか分からず、机に肘をつき顔を乗せてまた黙りこむ。クック達は説明をされないと帰らないと意思表示をするかの様に思い思いに立つ姿勢を整えたり、壁にもたれ掛かったりして待ちの姿勢に入る。
「一体、これは何事ですか?」
暫くして入ってきたのはウェイドだった。もちろん彼も事の真相を聞きにきた1人である。
「要件は多分ウェイド補佐と一緒ですよ…今は司令の回答待ちでしてね。」
ガイの返答に少し困った顔をして言葉を返す、
「一応、君たちは小隊長と平の隊員なのですよ?」
「無礼とでも?マサルは…彼は友人です。少なくとも我々はあの少し困った彼とそうありたいと思っています。」
その言葉にランスロットが言葉を紡ぐ。
「オレもそうありたいと思っている。しかし、あの戦いでオレは彼に恐怖し同情したんだ。」
何を言っているか分からず皆ランスロットの次の言葉を待つ、
「まず感じたのはマサルはオレより明らかに強いという事だ。それはあの戦いを見ていたら誰もが思っただろう…しかしそれは恐怖に結びつかない。オレが怖かったのはアイツは殺しにも戦いとも無縁の暮らしをしていたって事に気付いたからだ…アイツは技量以前に戦士としての訓練を受けていない。だからこそアイツは誰かが下手な事をしでかして心が壊れた時、最悪の敵にも残虐な悪魔にだってなるだろう。そう感じた時に今まで感じた事がない恐怖を感じたんだ。」
一つ一つの言葉を吟味していきマサルの今までの態度や言動を振り返る。
「しかし彼は確か盗賊は斬り殺したと言っていた。」
「でも被害者と加害者の両方が目の前にいたっぽいッス。…多分村人達が襲われた時に必死になって抵抗して戦って何とか盗賊とかを倒すけど、終わると戦えなくなるって事もあるらしいッス。」
「その手で人を殺してから心を病むなんていうのは兵士にも騎士にもよくある事だ…。」
心あたりがあったのは良いが皆が一層の疑問に包まれる。
「でもあの技量だ…殺しや戦いに慣れてはいなくてもズブの素人という訳ではないだろう。」
「確かに司令の剣を向けられて軽く避けたり威圧に身体が硬直しないなんて変ですよ。」
謎が謎をよんでいくなかエルダムは一つの事に気付いた。
「司令、失礼ですが貴方のレベルは幾つでしょうか?」
全員が何を言い出したのかと首を傾げる。レベルやスキル等は本来は本人の生命線でもあり秘匿され他の人に聞いたりするものではない。
「何か理由がありそうだな…オレのレベルは62だ。それで?何か分かったのか?」
「あっ!」
何か分かった風に声をあげるガイに皆が注目する。エルダムはお前が言ってみろと頷き先を促した。
「オレとエルダムはギルドカードを作る時に一度だけ、マサルのステータスを見てるんスよ。その時はスキルとか称号と高い能力に気を取られて疑問に思わなかったんスけど…。」
「確か、称号はなかったと報告があったハズですが?」
ウェイドの言葉にガイは固まり、エルダムは「この馬鹿!」と顔をしかめる
「その事は後だ、続けろ…。」
ランスロットが先を促したので今度はエルダムが言葉を続ける。ガイは「怒られるッス」と頭を抱えている。
「前に話した通りマサルのステータスは司令並みでした。しかし、1つだけ異様な数字があったのですよ…それがレベルです。」
また全員が頭を傾げる、レベルの数値というのはどれ程の経験を積んでいるかという指標であり、直接の強さとは関わりがないものなのだ。
「何が言いたいかと言うとマサルのレベルは16なんですよ。これは少し高めの大人の村人くらいしかないのです。」
「ちょっと待って下さい!確かにレベルはただの目安にしかなりませんが16と62の人が同等のステータスだなんて事はあり得ません!きっとアレですよ…我々の知らないステータスを誤魔化すスキルを持っているとか!」
エルダムの言葉にパニックになるウェイド。
「でもオレ達はスキルも見たッス…多分そういうんじゃないと思うッス。」
「それは…そうです!お二人を誤魔化す為にわざと!」
いつも静かで冷静なウェイドの慌てっぷりに皆が逆に冷静さを取り戻していく。
「見た事を全て話せ、これは命令だ!」
ランスロットの静かな威圧感に息をのみぽつりぽつりとマサルのステータスについて思い出せる事を述べていく。
「…これは間違いないんだな。」
「多分、スキルはかなり穴空きです。見たのはほんの一瞬に近かったもので認識出来てないモノが多数あります。」
「…規格外だと思ってはいたがそこまでとは…。」
ガイとエルダム以外は全員が頭をかかえ唸り始める。
「これは誰か監視をつける必要があるかもな…。」
そう呟くランスロットの言葉に誰も否と答えるものはいなかった。そして翌朝には街を出ていくマサルを思い頭を悩ませるのだった。