馬車を改良しよう
早朝から井戸の1つの使用を止めさせ、マサルはロープに吊るされ騎士4人がかりで井戸の中にいた。勿論、ポンプを設置する為である。朝目が覚めて井戸に取り付けをしようと考えるとパイプを井戸の中に固定設置する為の方法がなく慌ててスキルを使い青銅のパーツを作り上げてから、同時にポンプ自体を取り付けるパーツがないのにも気付いて朝から大忙しだった。
「よっと…パイプはこの辺で、このパーツで動いたりパイプが下に抜け落ちたりしない様にだけ気をつけてっと…おし、出来た!お〜い上げてくれ!」
騎士を何人も使って早朝から井戸の中に入って何かしている不審人物に街の皆も興味津々で井戸から出ると人だかりが出来ていた。わざと一般の人がよく使う井戸を選んだせいもあって街の奥様方は朝食の準備が出来ないと明らかにご機嫌斜めな人達もいる。そんな人達は見てみぬフリをしながらポンプの設置が終わったのは井戸から出て10分程が経ってからの事だった。
「桶に最初に動かすのに呼び水は汲んであるっと…あとは…誰か女性の方!ご協力下さいませんか!これから水を汲む道具の実演をします!皆さんも一緒に覚えて下さいね!」
大きな声で周囲に呼び掛けると「わたしでも出来るかしら?」とふくよかな女性が立候補してくれる。
「使い方は簡単です。このポンプの上の穴に桶の水を入れます。そしてこのハンドルを上下に動かすだけです!はい、動かして下さい。この様に女性でも簡単にハンドルは動きます。」
なんて言ってるうちにポンプからは盛大に水が吹き出し周囲の人達が驚きに目を見張る。
「勿論、簡単に子供でも動かす事が出来ます。これを街中の主要な井戸に設置していきますので、皆様ご利用下さい。設置した日に言うのも何ですが調子が悪くなったりした場合には鍛冶場の方へ連絡して下さいますと修理や調整等の手配をさせて頂きます。どうぞご気軽に申し付け下さい。」
このポンプには盗難などを防止する為に沿岸騎士団の紋章がついている。騎士団の町で騎士団の紋章がついた物を故意に破損したり盗難する愚かさくらいは分かるだろうとのウェイドの発案だ。
「あと4箇所頑張って取り付けにいきましょう!ほら、騎士の皆さんそこのパーツ持って!さぁ、元気にいきましょうね!」
早朝から起こされ強制連行されてきた若手の騎士達はげんなりした表情をしながら、金属製のポンプやパイプを肩に担ぐのだった。
「おい、面白い物を井戸に付けてるじゃねぇか!ウチの近くの井戸にも付けてくれよ!あと、このシャベルとか言ったっけ?凄いな!楽に地面が掘れるぞ!気に入った!」
何故か騎士団司令ランスロットの手の中には昨日作業員達に渡したシャベルが握られていた。
「すぐにシャベルを返して来なさい。作業員達が楽に作業するのに作ったんですよ。貴方のオモチャじゃありません!武器作りませんよ…まったく…。」
武器を作らないという言葉にたまたま廊下を歩いていた騎士を捕まえ返却しておく様に言い付けるランスロット。
「ついでにそこの騎士さん、シャベルの返却のついでにそれを含めて全部で15本あるのですが間違いなく全部あるか確認をお願いします。誰かが持っていったとかいう話があれば司令が対処しますのでご報告お願いしますね。」
というと「オレがやるのか!?」と叫ぶ司令を華麗にスルーして騎士さんは行ってしまう。
「ところで決闘の日付はどうなりました?今日から馬車の改良に入るので獣人の人達の解放も近いですよ?」
「それならあと3日はかかる。他の集落の獣人達を連れてくるのにそれくらいかかるのだ。ついでに決闘の様子を獣人達にも見せてマサルが次の主だと見せ付けてやろうと思ってな。」
「別に主ではありませんけどね。まぁ、彼らを率いて街から出るのにある程度は解放の立役者って肩書き以外にも強者であると思わせた方が良いかも知れないですね。移動の途中に面倒を起こされたりしたらお互いに嫌な思いをしますし。」
「獣人は強い者、優れた指導者に従うからな。という事で決闘は4日後って感じだな。殺しは無しで頼むぞ。じゃあ、オレは修練に行ってくる!」
「ちょっと待って下さい。こちらの書類がウェイドさんが提出したわたしへの追加報酬に関するモノです。具体的には幾らか鉱石等を貰いますね。という事ですね。あと、改良型馬車やこっちはもう勝手に付けたんですがポンプに沿岸騎士団の紋章を付けようと思うのでそれに関する書類です。明日までにこちらも検討をお願いします。」
がっくりと膝を地面に着き書類を呆然とみるランスロットを置いて自分は鍛冶場へと向かうのだった。どれだけ身体動かしたいんだよ…。
「では、これより馬車の改良を行います!こちらに届いた馬車を改良していって揺れの少ない乗り心地の良い馬車にする事を目標とします。」
現在この世界にある馬車は箱に金属の軸を通し車輪を付けただけの簡易で馬車というより荷車って感じの構造だ。
「取り敢えず、改良型と言ってもこのスプリングで簡易なサスペンションの実現を目指していきます!」
ウェイドとドワーフ二人の前で堂々と宣言するも何言ってんだ?もっと説明しやがれという感じで見ている。
「つまりはこのスプリング…バネですね。これで衝撃の吸収をして揺れを抑えようという事です。OK?」
「いや、意味分からんけど…なんだこりゃ!?これは鉄なのか…どうやって曲げた!?これをどうやって使うんだ?」
そうかバネ自体がないのか…面倒だから作り方だけ教えておくか。
「作り方を簡単に教えるぞ。まず鉄の棒を火で熱します…そうしてこの棒に冷える前にこうやってグルグルっと巻いていきます。巻いていく時に適度に間隔をあけて巻くのがポイントだぞ。そうして芯にしていた棒から外してその辺に置いておいて冷やせば完成っと。芯を代えたり巻く金属の径を変えれば違うサイズのも作れます。あ、冷す時に水や油につけて冷やさないようにな!折れやすくなるぞっと。」
「具体的にこの馬車の改良の方法は考えているのですか?」
「よく聞いてくれました!まずは馬車の人の乗る座席部分と車輪を別々にして、車輪の上にフレームを作りチェーンで座席部分吊り、前後と下にスプリングを入れて左右に座席が抜けない様にフレームをいれたらと思っています。」
昔に紐や鎖で座席を吊り下げた懸架式という物があったらしい。実物は当然見た事ないので適当にアレンジして組み上げていく。本当なら車軸にはベアリングとか使いたいがあまり流通技術が急激に発展すると戦争したがる輩が出てくるし、面倒なので止めた。
「何か乗れるスペースが小さくなったな…。」
と文句を言うガストンは何だか微妙な表情だ。
「あのなぁ、今回の重要な点は揺れが大き過ぎて馬車に乗れない人や貨物を馬車で扱える様に揺れを小さくした事にあるんだよ。こうやって様々な技術を取り入れていき改善をしていく事で将来大きな改良になっていくんだ。一度で全てが変わるなんて思わない事だな。」
「そんなものか…。そうだな全部が何もかも変わったりしないよな!次に繋がる一歩だ!」
「良し取り敢えず乗って確かめてみようぜ!」
と嬉しそうにドワーフコンビは喜び期待の眼差しを馬車に向けるが、
「残念だがこれは3人乗りだ。御者1人に乗客2人とその荷物くらいにだな。一度には乗れないから2人は後だな。馬と御者の用意だけ宜しく!」
あまりに残酷な言葉に2人はがっくりと肩を落とし御者を呼びにとぼとぼと出掛けていくのであった。
「2人を乗せてあげませんか?わたしは後からでも…。彼らが先に乗って報告書を書いてくれるなら譲りますよ?わたしもウェイドさんも書かないといけないですよね?」
その言葉に、
「彼らは明日にしましょう。」
あっさり前言を撤回し馬車の座席にクッションを並べ始めるのであった。改良型は揺れが7割以上を減らしウェイドが異常な興奮をみせる程に成功を納めた事をここに記す。まぁ、最初が酷かったからね…。