荷馬車に揺られて
翌日、集落の端っこでオオトカゲの肉の余りを焼いて食べていると騎士小隊と村人達がやってくる。
「取り敢えず解放の流れッスね?」
顔を見ればなんとなく分かりますとも…村人の皆さんは何でそんなに怖がってらっしゃる?一定数は反抗的な表情してると思ったのに…。
「そうですね、しかし他の集落や街などの奴隷に私達が勝手に手を出すというのは問題がありまして…。」
「でしょうね。では街はともかく他の集落などの獣人達の状況は分かりませんか?人数とか種族とか?」
「それも全て我々騎士団の拠点のある街に記録があるはずだ。一応、建前ではあるが奴隷は国の所有となっているから。」
「じゃあ、後の話し合い等はクックさん達に引き継ぎって感じです?で、街に行ったらお偉いさんのとお話という感じですね?」
「えぇ、そうなります。しかし肩の力がだいぶ抜けてますね。昨日なにかありましたか?」
ありましたとも…女神が降臨してコントをして凄く疲れました。
「強いて言えば、交渉が上手くいかなくても戦闘で何とかなりそうなので力が抜けました。」
我ながら酷い脅し文句である。
「それは…ちょっと…是非話し合いで解決を…。」
ヤバいクック隊長の胃に穴が空きそうだ!フォローしてあげなければっ!
「大丈夫ですよ。こっちからは剣を抜く様な事はしないですよ。余程の事がない限りね。ところで街迄ってどれくらいかかります?移動は馬ですか?」
「余程の事…起こらないといいなぁ…。」
「隊長、現実逃避はお止め下さい。…代わりにわたしがお答えします。街までは馬車を出して貰える事になっています、だいたい4時間くらいかかり今日の昼過ぎには着くと思われます。」
「じゃあ、わたしは馬車に揺られて行くんですね。エルダムさんついでに聞きますけどここの国の名前とこれから行く街の名前を教えて下さい。」
「マジッスか!?この国の名前から知らないんッスか…。スパイか国の転覆を狙うテロリストかと少しだけ疑ってたッスけど完全に違うっぽいッスね。」
ガイの放った言葉に一同頭痛がしたようで、みんな頭を抱えてしまうのであった。因みに国の名前はグレイタス王国で街の名前はポータリィムという名前らしい。そういえばグレイタス王国沿岸騎士団とか名乗ってたな…なんて思い出したのは後の話である。
馬車は少しは馬に乗るより楽だろうと思っていた時期がわたしにもありました。
「…うぇっ…無理…なんなのこれ…う…うえっ…。」
木で出来た車輪に木で出来た馬車は揺れや衝撃をもろに受け、お尻は痛痒いし車酔いが尋常じゃないくらい酷かった。ものの30分でギブアップした俺は今は馬車に並走して自力で走っている。
「あんな馬車に乗るくらいなら絶対走った方がマシだ!絶対サスペンション開発して快適な馬車作ってやる!」
思わずこう叫んだ俺を誰が責める事が出来ようか、クック達は馬車が快適に乗れるようになるらしいと嬉しそうにしている。実のところ馬具自体にも問題はある。鞍はあるけど鐙は無いのだ…蹄鉄もなく馬の文化がまだまだ発展途上な事が分かる。しかし、馬具の進歩は戦争へと波及するのは間違いので慎重を期す必要があるだろう。取り敢えず先の話になるだろうから放置しておく事にする。
「休憩とらなくて大丈夫なのかい?ずっと走っているじゃないか。」
「大丈夫ですよ、馬車のペースに合わせて走ってますしね。ほら、凄く揺れるだけあってかなりゆっくり走るじゃないですか。」
「それはそうなんだけど…いや、マサルについて深く考えても無駄だな。思ったよりペース上がってるし昼には街に着きそうだ。最後まで気を引き締めていこう!」
地図に街が見えてきて残り3kmをきった頃にそれは起こった。
「そこの馬車止まれ!俺たちはこの一帯を縄張りにしてい…ぶへしっ!!?」
問答無用でマサルの繰り出した飛び膝蹴りが名乗りを挙げていた盗賊の一人の顔面に突き刺さり地面に力なく横たわる。
「次っ!ほらお前だ!…次はお前!……こら、そこ逃げるな!…そりゃっ!…お前も!ていっ!」
次々に金的を蹴りあげ、鞘ごと顔面を突き倒し、逃げる相手に後ろから頭へと鞘を振り下ろし、回し蹴りで木に叩きつけられていく盗賊たちを呆然と見ている一同。あっという間に6人の盗賊は取り押さえられ捕まってしまった。
「おい騎士団仕事しろ!そっちから縛ってくれ!」
そんな声で我に返り盗賊の男達を拘束していく。僅か五分で縛られ並べられた盗賊達は恐怖に戦いていた。
「なんだこの哀れな連中…騎士のいる馬車襲ったうえに騎士すら出る間もなくやられるとか…実は盗賊のふりをしたお笑い劇団だとか?」
「誰が得するんだよ!間違って殺されても文句言えないわ!」
などとコントをするクックとジャミ。苦笑しながらも残りの騎士のメンバーも聞いている。そんな中…。
「おいっ、しっかりしろ!起きろよ!朝だぞ〜?」
そんな風にマサルは一人の盗賊を起こ始める。
「な…何してるんだ?」
「いや、アジトの殲滅して持ってる物を没収しようかなと…。」
「おいおい、もうすぐ街に着くんだから騎士へと通報すれば…。」
「騎士が盗賊を倒した俺から役得を奪う〜♪…って、おい!酷っ!正義の騎士様が石を投げないの!」
常識と良識で話していたクックが思わず足下の石を拾って投げてしまったのは仕方ないだろう。盗賊の出現により生き生きとし始めたマサルに残った騎士団のメンバーと馬車の御者は諦め顔でそのコントを見ていた。
すいません、まだ街へは着きません。
だらだらしてたらアレなので次回予告!遂に街へとたどり着くマサル、そこで待ち受けたモノはっ!?
…ってなると良いなぁ…期待はしちゃ駄目だぞっ!