【side story】村人と騎士小隊の憂鬱
突然来た一人の若者にかつての自分達の行いを責められ、決断を迫られた我々は誰もが言葉を無くし罪へと向き合う事になった。
時間は流れても誰も何も言えず硬直していると彼はそっと剣を鞘へと戻し「少し待ちますので覚悟を決めて下さい。」と言って集落の外へと歩いてしまった。
その覚悟とは獣人を解放し罪を償う事なのか、彼と敵対する覚悟なのか、それとも別の何かなのかは誰も答える事が出来なかった。
村人達の話し合いは最初こそ誰もが口を開かなかったのだが一人が話始めるとポツポツとだが色々な意見が出てくる様になっていった。
「我々の村にいる獣人の数は兎人族の男が二人と猫人族の男が二人と女が一人、妖狐族の女が二人だな。それくらいなら渡してしまえば…。」
「馬鹿っ、あいつが言っているのはここで住んでいた獣人で我々人が奴隷にした者の解放だ!それだけで済む訳がないだろ!」
「じゃあ、どうすんだよ!村や集落の獣人なら交渉次第では何とかなるかも知れんが街の獣人奴隷には我々には手が出せんぞ!」
「じゃあ、どうにもならないだろ!」
「…なら、言う事を聞いたと思わせてあいつを始末してしまうか。 」
「それなら全員で囲んでしまえば何とかなるかも」
「さっき男共がのされたのをもう忘れたのかい?今度は殺されるよ!」
「だが今回は騎士様達がいる!相手が一人くらいなら…。」
保身の為に好き勝手な事を言い出した村人に今度は騎士達が冷や水を浴びせかける。
「わたしはパスだな。そもそも勝負にならん。」
「俺も要求をのみ、死ぬ程苦労した方がマシッス。」
「死にに行くなら自分たちだけでしてくれ。」
「三人と同じく戦いは無謀だな。」
「ガーヴ止めとけ、最初から少しも勝機のない戦など笑い話の種にもならん。」
「後で交渉するのに印象を悪くしてもらいたくはないんだけど。」
騎士達のそれぞれの言葉に全員が呆気にとられる。
「それほどに彼は強いのでしょうか?」
「中規模のゴブリンの群れとゴブリンライダーを一人で全滅させたり、一人で武器も持たず武器持ちの相手を何人も殺す事なく制圧したりする戦士がどれだけいると思っているんだ?制圧された男達の中にも問題になっている戦に参加した者だっているんだろ?」
「何とかなったにしてもこっちが立て直せない程に死人が出れば何の為に戦うのかという話になる。一戦やるなら策を練れば誰も死人が出ないくらいじゃないと割に合わないって事だ。」
「しかし、どうやって街から獣人達を解放する気ですか…わたし達一般人が何を言っても聞き入れられる訳がないですか。」
どんよりと空気が淀む村人達。
「そっちの交渉は我々がするしかあるまい…人が多いとか相手の地位が少々上がったくらいで彼が止まるとは思えないしな…むしろある程度無理をしてでも信用を得ておかないといけないだろう。この御時世、人との繋がりこそが何より大切だと知っているだろう?何より死にたくはないしな。」
乾いた笑いとも何とも言えない微妙な空気が周囲へと蔓延していき、やるしかないかという空気で話し合いは終わるのだった。