騎士団?それって美味しいの?
「こちらはグレイタス王国沿岸騎士団だ!おい、そこのお前!貴様は何者だ!」
出たよ、テンプレの失礼な考えなしの騎士さん。どう対応するのがベストかな?取り敢えず下手に出てみるか?
「おい!聞こえているだろ!答えんか!」
やっぱり無理…。
「うるさいぞ!人の獲物を横から取っておいて馬上から怒鳴るのか!ちゃんと名乗りもせず挨拶も出来ない?騎士が聞いて呆れるわ!それともお前の名前は沿岸騎士団か?」
「何だと!貴様!騎士に向かって!」
「止めんか馬鹿者!そちらの方の言う通りだ。こちらが戦闘に割って入ったのも事実なら礼に欠いていたのも事実だ。」
おぉ、こちらもテンプレの意外に出来た騎士団の上司。馬から降り優雅に一礼すると慌てて他の騎士達も馬から降りる。
「わたし達は先ほども申しましたが沿岸騎士団の者です。わたしが小隊長のクックと言います。後ろの5人は部下で右からハボック、ジャミ、エルダム、ガイ、先ほど失礼を申しましたのがバギーです。」
ふんっと鼻を鳴らすバギー。なんか鼻の穴から飛んだぞ?
「わたし共はゴブリンの集団がこの漁村に近付いているとの報せを受け討伐に来たのですが一足遅かったみたいですね。これはみんな貴方が?」
「えぇまぁ、漁村になんとかたどり着いて入ったらゴブリン達がいて戦闘になったので。申し遅れました、マサルと申します。先ほどは失礼しました。」
「いえいえ、先に失礼を働いたのはこちらですので。」
本当によく出来た小隊長さんだこと。後ろでバギー君は隙あらば殺してやろうって目をしてるけど。
「取り敢えず死体の処分をしてしまおうと思うのですが騎士様達はいかがなされます?」
「死体の処分?何をするのです?」
「放っておけば他の獣や魔物を呼ぶかも知れませんし、腐れば病気の原因になります。なので、穴を堀り燃やしてから埋めるのですよ。」
「なるほど。そういう訳でしたらお手伝いしましょう。」
やっぱり衛生とかそういう概念はあまりないか。または死体の処分なんかは住民なんかの仕事なのか?あ、そうだ住民!
「そう言えばここの住民達は?遺体もなかったですし、誰も姿を見なかったのでおかしいなと思ってたんです。」
「数日前からこの群れは近くを徘徊していたらしいのですが規模が10を超える事が分かり少し先に行ったところにある森の集落へと避難していたのですよ。」
森の集落か…多分そうなんだろうな。この漁村の先にあるのはきっと兎人族の集落があった場所、そっちからこの騎士達が現れたという事はその先に騎士の常駐するような砦が街があるという事だろう。考えを巡らせながら両手にゴブリンを一匹ずつ引きずりながら漁村へと歩いていく。
「難しい顔をしているが何か問題でも?…っ!これはゴブリンライダー!これも貴方が!?しかしこれは…。」
「まずそっちの壊されて崩れそうな小屋の中の道具を外に出して下に穴を堀ります。その穴にゴブリンを入れて小屋の瓦礫を燃料にして燃やしてしまいましょう。」
「その前にこのゴブリンライダーの話を…それにゴブリンが多すぎます?本当に貴方一人で…?」
あぁ、面倒くさいな…。先に手を動かしてくれない?
「早くしないと終わるのが夜になります。話は夜にでも出来るでしょう?わたしは嫌ですよ、ゴブリンの死体と寝るのもゴブリンでキャンプファイヤーするのも。誰か小屋の中の道具を出して下さい。それからゴブリン達をその辺りに集めといて下さい。」
「何でお前が指示を出す!お前は何するって言うんだ!」
バギー君。口は良いから手を動かしてね。
「わたしはそっちの猪の解体をしてしまいます。無駄にするには惜しいですからね。」
「そうか…じゃあ、すまないが皆手を貸してくれ。夜までに片付けてしまおう。」
クック小隊長の言葉でやっと動き出す騎士達。小屋の下の土が踏みかたまっていて掘れないなんて小さなハプニングもあったが小屋の横に穴を掘るという単純な解決方で事は終わった。
燃料用の油壺が見付かったらので思ったより早く作業は終わり、騎士達も疲れた顔で夕食用に起こした焚き火を囲んでゆっくりしている。
じゃあ、夕食にしますかとわざわざ漁村の外に一度出て担いで来たオオトカゲを材料に提供すると少し驚いた顔をしたが疲れているのだろう何も言う者はいない。村の中を漁ると塩があったので皮を剥ぎ内臓を取り出しただけのオオトカゲに豪快に塩を振り丸焼きにする。
「旨そうだな…。」
パチパチと音をたてる焚き火。そして余計な油はその焚き火へと落ち抜群の匂いを周囲に撒き散らしていく。ごくりと聞こえたのは自分の喉の音だったのか?それとも他の誰かのものだったのか?全員が焼ける肉へと視線を集めている。
周囲に警戒は要らないのかって?村の入り口の門は閉めてますとも。魔物のいる様なこの世界では人の住む場所は防衛柵必須だし夜間は門を閉めるのが当たり前なのだ。ゴブリンなど人形の魔物は柵を登ってきたりする事があるが柵の上部は鋭く尖らせてある。怪我をしたりして騒いだりもたもたしていたら見張りに見付かるという事だ。
「もうそろそろ良いだろ?」
焼けたオオトカゲ思い思いにナイフを入れみんな自分の分を取っていく。サイズがサイズなので食べれる量は十分だ。そんな中の、一人がじっとオオトカゲの尻尾を見つめる人がいるバギーだ。どうしようかと周りを見るとみんな苦笑している。獲物を取って来た俺が手をつけないから食べにくいのか…なかなか可愛いところもある様だ。
「バギー。尻尾欲しいんだろ?食べろよ。」
というと驚いた顔をして慌てている。尻尾に恋するような視線をしていたのはどうやら本気で無意識だった様だ。わいわいした夕食も終わりだらけていた所でそろそろかとクックが話を切り出す。
「マサル。本当にあのゴブリン達は君が全部倒したんだね?」
「ああ。最後の一匹以外は。」
ゴブリンと言えど16匹を相手に一人で戦うのは無茶苦茶だったらしい。ましてや猪ロデオことゴブリンライダーは結構ヤバい相手だという。本来なら冒険者や騎士達が安全に殲滅するなら8〜10人くらい集める集団だそうだ。数は力であり、集団というものはそれだけで危険度が上がる要素になる。ゴブリンという弱い魔物が多くいるのは繁殖力があり多いからなのだ。
「ゴブリンライダーはマジでヤバかったけどね。まぁ、ゴブリン自体はホブゴブリンとも戦った事があるし油断さえしなければとは思ってたけど…血糊で剣は切れなくなるし、ゴブリンライダーが突っ込んできた時には本気で顔から血の気がひいたけど。その時握ってた剣はほらこんなになったし。」
と最初に握ってた剣を取り出す。見事に真ん中からくの字に折れ曲がり衝撃の大きさを物語っていた。折れずに曲がっているのは鋳造でもなく況してや焼き入れ等の処理がされているわけでもない軟鉄である事が分かる。鉄工でもかなり技術的にテコ入れの余地がありそうだ。
「そこでだ、それだけの力があるなら騎士団に入らないか?」
ほら来た。そんな事だよねやっぱり。
「お断り致します。わたしには義理を果たさねばならぬ人達が既にいますので。ここに来たのもその為です。」
「もう仕えている所があったか。衣服をみて一般人かと勝手に思っていただけだ。申し訳ない。」
今は兎人族の集落を出る時から元の世界の服は目立つので長から頂いた服を来て行動している。麻袋よりはマシだがごわごわして凄く硬いシンプルな服だ。鑑定で調べたらビージーという謎の生き物の毛をよって出来た糸で作られたらしい。
「いや、一般人ですよ?仕えているんじゃなくて縁があって良くしてくれた人達がいましてね。家族といいますか、そんな風に思って貰えたらなと感じまして…。」
「素晴らしいな!金だ女だと騒ぎ立てる冒険者共や金と名声しか興味のない騎士の一部のヤツ等に聞かせてやりたいぜ。」
お、バギー君キャラ違わねぇ?ありゃ飲んでるな…。塩くらいなら仕方ないとしても村のお酒じゃないでしょうね?別に良いけど。まぁ、騎士なんてものに縛られたって良い事なんかきっと無い。騎士なにそれ美味しいの?って感じだ。
「そう言えば冒険者で思い出したんですが途中で盗賊に会いまして…。」
「…何っ?」
おっ、一気に空気が変わったぞ?やはりこの人達プロなんだな。
「どの辺りで何人だ?」
この人は確かジャミさん。この小隊の斥候の役割なのだろう軽装だし動きがいちいちスマートで音をたてない。
「出会したのが5名。馬車を襲撃した後の現場で遭遇しました。」
「商人の馬車か。それでどうした?」
「最初は一人だけ出て来て襲われたとか言ってたんですが状況がおかしかったんで斬り捨てました。」
あれ?棍棒だったっけ?
「…おいおい。」
と全員ドン引きである。
「そしたら馬車の裏から4人現れて内3名を殺害。一人を尋問の後アジトの場所を吐かせてまた殺害。被害者は護衛らしき冒険者3名と商人。御者と下働きらしき人が3名。計8名です。」
更に引いてね?
「何となく分かるがアジトは…?」
「6名の賊を確認。いずれも殲滅しました。」
あれ?みんなして何で頭かかえてるの?
「一応被害者のギルドカードは持ってきてるのですが役にたちます?あと、接収した物に関して取り扱いがどうなるのか知りたいのですが?」
「ギルドカードは助かる。被害者が特定出来るし家族や知り合いにも伝えなければならないしな、行方不明や多分逃げたとか死んだというだけの扱いよりはずっとマシだ。接収した物に関しては君が貰ってくれて構わない。基本的に盗賊から取り返した物は盗賊を倒した者。もしくは引き取り手が無い場合は国の物となる。問題がなければ接収したという物がどんな物なのかだけ教えて欲しい。」
報告書か何か要るんだろうな騎士なんて言ってみても結局は役人の寄りの軍人だからな。
「馬車と木箱に入ったポーションなど薬が数点。後はお金と数点の武器。酒樽とかですかね?」
「馬車もか…まぁ、無いと荷を接収出来ないか。で、馬車は何処に?」
「近くには無いですよ?馬が殺されていたので馬車は隠してきました。」
本当はアイテムボックスの中だけど。
「で、君は義理を果たす為にここに来たと言ったね?目的は言えるかな?目的次第ではわたし達もきっと力になれるだろう。」
目的次第では敵になるかも知れないけどね?って事ですね。まぁ、知りたいなら話してあげよう。