材料探しの旅に
「おはようございます長様。今少しお時間宜しいでしょうか?」
長といってもこの集落の長は37歳と若い。他に高齢の兎人族が何人もいるのに彼が代表をしているのは特別な力があるか、そういう血筋なのだろう。来たばかりの自分が詮索する様な事ではないのでその辺りはスルーさせて貰う。
「率直に言います。実はこの集落に少し新しい施設や家を建てたり、周囲の防衛柵の改善などを考えてみたのですが。ご相談にのって頂けないでしょうか?」
長は片方の眉だけを器用に上げ興味深そうに顔をじっと見つめる。
「で、どの様なところに問題を感じ、どの様な施設が必要と感じましたかな?貴方が思い付きで話している様には感じはしないが昨日来たばかりの客人に住む場所に手を入れたいと言われても不安に思う者もいると思うのだが。その辺りにも少々気を使っては頂けないものかな?」
「勿論その気持ちは分かります。しかしですね。信頼というものは時間がかかります。その故に何かあった時の為の備えや将来を見据えた行動を
遅らせるわけにはならないと思っています。あの時にこれをしていればと後悔する事こそ皆さんの信頼を手放す行為だと思うからです。何が出来るかは分かりませんが私の為にも努力させては頂けないでしょうか?」
取り敢えずやってみる!これが田舎暮らしのホームセンター勤務で覚えた信念だ。気が付いたのにやらずにお年寄りや子供が怪我をした事もある。仕事の管轄を超えていると上司に怒られた事もある。しかし、そうやってしか自分は納得出来ない不器用な人間だ。こればかりはこれからも怒られたって直らないだろう、そしてそれは自分にとっての信念なのだから。
「で、まず何から手をつける?」
「えっ?良いんですか?」
「まあ良いだろう。本当にここを良くしたいと目が語っておったわ。」
目は口程に語るというアレだろうか?それとも試されているのか?まぁ、いいや。気にしても分からんし。
「取り敢えず私は一人で南西の海へと行って来ようと思います。理由は材料集めですね。」
「誰かに聞いたか?」
「はい、住んでた場所を人族に追われた事は聞きました。皆さんにとって不快な旅になると思いませんですから…。」
そこまで話した所で大人しく聞いていた後ろの二人が話へと乱入する。
「オレも一緒に行く!」
「わたしも一緒に行くから!」
力強い目を向けるジータとメイ。絶対についていくと言わんばかりの目だ。仕方ないな…。
「ジータ、メイ。…却下だ。お前らを連れては行けない。というか連れていく気は微塵も無い。」
「「なんで!」」
「ルルさんを一人にする気か?それにお前らは弱い。せめて大人になって、ホブゴブリンが倒せるくらいになってからかな〜足手纏いは要らん!」
膨れっ面をする二人。何をしても連れていく気はありませんけどね。
「…にいちゃんだって、ホブゴブリンが自分で転けたから倒せた癖に。」
憎まれ口を叩いても無駄無駄!
「運も実力のうちさ。俺はあの時立ち向かい戦った。それを出来るだけの最低限の力があり、運が起きるだけの何かがあったから勝ったんだ。」
大嘘である。むしろ戦ったと一番感じてないのは自分なのだ。
「その通りだ!お前達にはまだ戦う資格すら無い。自分の力を過信する者は死ぬといつも言っているだろう。」
声をかけてきたのは昨日助けに駆けつけてくれた狩人の中の一人だった。
「「ハイトさん!」」
この人が噂の狩人のハイトさんか!
「という事で俺が行く!」
「却下で!」
「なんでだ!」
「ここの防衛戦力減らしてどうすんですか!それにここ一番の狩人のハイトさん連れていったら皆の生活苦しくなるでしょうよ。という訳で連れていきませんよ?人族の中に潜入も要るかも知れないし今回は絶対一人で行きますからね。」
ジータとメイと並び落ち込むハイトも置いておいて、長と旅の準備について話し合うのであった。
「という事で今日は準備して明日から行ってくるんで。」
「「「えっ?」」」
さぁ、どうなるやら。