国を作ろう
「今回、みんなに集まったのは相談があったからなんだけど聞いて貰えるだろうか?」
その日は朝から住民の全員を仕事に行くのを呼び止め、見張り等を除いた全員での集会が行われていた。
「先日、グレイタス王国の騎士であるザーグから指摘されたのだが、そろそろ規模からしてもグレイタス王国と話し合い、この一帯を統一して国家にすべきだと思う。」
突然の大きな話に住民たちはざわめきだす。
「静かに!具体的な事をこれから話をしていく。一つずつ丁寧に説明していきたいので暫く話を聞いて欲しい。」
周囲が静かになるのを辛抱強く待ち、話を聞く雰囲気が出来てからやっと話を始める。
「まずは、その理由からだ。交易など様々な理由が持ち上げられるのだが、大きなものを言うと皆さんの安全に関わる事と他の街などに行く事になった時の信用や信頼に関してだ。
まずは、安全からだ。先日、バゼラールカに起きた悲劇は皆さんの耳にも届いているだろう。そこでだ、国家規模の災害などが起きた時に国として繋がりがあるかないかで大きく情報の入り方が違う…つまり対策にかけられる時間が大幅に変わってくるんだ。それに隣接している国がグレイタスのみのこの土地ならグレイタスとの和平協定を結べば安全性はかなり高い土地となる。」
「なるほど…攻めてくる相手は魔物や魔獣だけになると言う事か。」
情報がどうのという話にはピンとこないみたいだが、過去に人族に責められた事のある獣人たちにとっては死活問題の話である。実際に用いた手段が神の名を使っての脅迫的な約束事で下手な国同士の協定より信用出来るのだが、それを知らない彼らからすれば現在は口約束くらいにしか認識されていないのである。
「しかし、グレイタス王国が戦争状態になれば逆に派兵を求められたりするんじゃないのか?」
クックの発した言葉に一斉に視線がマサルへと向く。
「それは無理なんじゃないかなぁ?だって派兵するだけの人口がいないもの。」
マサルの言葉は意外だったのか皆が頭をひねり考え始めるが答えはでるハズがない、この世界には人口調査などないのだから。
「どういう事かを説明するよ。グレイタス王国は人口が全体で今現在52万人くらいらしい。しかし、ここの土地を国にして全ての集落を国民としても人口は2万人もいないんだよ。つまり派兵しろって言われてもねぇ…無理でしょ?」
「つまり戦争をしたら絶対に勝てないという事じゃないか!」
「マサルがいなければね?多分マサルは1人でポータリィムも王都も墜とせるわよ?」
「「「「「「…………………。」」」」」」
「やろうとも思ってないし…やらないけどね?」
「兄ちゃんスゲー!」
「おにいちゃんしゅごい〜の〜ね!」
ジータとメイのキラキラした視線が痛い。こんなものは本来自慢になるものだと思っていないマサルは上手く笑えない…。
「………えっと次に交易についての話ですが、こちらも国という名のブランドで信用や信頼が変わってきて単価がある程度守られると思うのですがいかがでしょうか?」
「まぁ、それは当然あるわよね。」
マサルの無理矢理な会話の進路変更にアデリナが同意していく。
「税金はどうなるんだ?」
やっぱりある程度の教育がされている様でクックがまたしても質問を投げ掛ける。
「じゃあ、グレイタス王国の税金はどれくらいなんだ?」
「だいたい5割だな。仕事によって多少優遇されている職業もあるけど半分を税として納めて、国と街への税金となるって感じか?」
クックの答えにアデリナも頷く。
「鬼の様に高いな…この国なら1割くらいで成立出来ないか?」
どうせ国が保証出来る様な軍隊とかも無いのだから多く取りすぎても問題だと思う。
「1割って………安過ぎない?」
「そもそも貨幣が発行出来る程に金が無いし、狩りをしてる人から何を税金に取る気だ?むしろ最初は実際の税金無しというレベルだぜ?」
「うぐっ…確かに…入手した物はほとんどの場合は全体の運営する事に使用されているものね。輸出は出来ても輸入は殆ど個人でしか出来ない程には資金が無いものね。」
「確かにな…運営する国の代表者は大変だな。」
「そうよね。…頑張ってマサル。」
「んっ?俺はしないよ?頑張れアデリナ。」
「わたしがやる訳が無いじゃないの大体、王は男の席よ!それに神の祝福とかの問題もあるし………まさか!」
「は〜い!皆さん!国の代表はアデリナで良いと思う人は挙手で!」
一斉にアデリナ以外の人のほぼ全員の手が上がる。だいたい街の人のイメージではマサルは街にあんまりいなくて、アデリナが色々と街の運営をしていたのだ。
「やっぱり民主的な解決が後々問題を起こさない決め方だよね。改めて、頑張ってアデリナ。」
「わ…わたし何かには無理よぅ…。」
「ぼそっ…(大丈夫、神様たちへの根回しも終わっているからアデリナが間違いなく指名されるよ)。」
「…酷い出来レースだわ。」
ガックリとうずくまり、アデリナは暫く動けないのであった。