豊かな街と平和な午後
「で、また人を拾って来たのね。」
「そうだな。また拾ってきたんだ。」
そう軽口を叩きあうアデリナとマサルを背後に冒険者たちは街の中を眺めながら言葉をなくしていた。
「何かこの人達固まっているけど?」
「何かおかしいところがあったのかな?」
石畳の綺麗に並べられた道に、石造りと煉瓦作りで統一された街並み。街中にはゴミ一つ落ちておらず、所々から温泉の湯気が立ち込めている。
人も獣人も仲が良さそうに働き、楽しそうな笑い声がどこからか響いてきていた。
「…夢じゃないわよね?」
そう射手の女性が言葉をこぼしたのは仕方ないだろう。生活規模はともかく街並みだけをいうならグレイタスやバゼラールカの王都に負けないのだ。むしろ基本的な規格やデザインを一手にマサル1人で考えている分、統一性がありどこか現実感のないまるで絵のように整い過ぎている街並みは違和感すら覚えるほどだ。
「で、アデリナ。大衆浴場の件だが皆はどう言っている?」
「概ねの人は賛成らしいけど、中にはやはり他の人に肌を晒すのは嫌という人もいるわね。」
「そこは時間帯によって人の多い少ないはあるだろうし、浴槽ごとにある程度の仕切りなどを設置する事で何とかなるんじゃないか?また、反対派の人の意見も直接聞きたいから時間をとって貰ってくれ。」
「分かったわ。他には?」
「街の住民用の浴場とは別に外部から来た人の使う浴場は別に考えた方が良いかも知れない。具体的には外部の人用にはシャワー施設だな。」
「何でわざわざ別に?」
「普通の旅をしてきた人や冒険者はどれくらい身体を洗ったりしてない?念のための衛生対策だよ。」
冒険者の女性2人が少し頬を赤くして顔を反らす。
「病気を持ち込まれない様に街の入り口の周辺にあった方が良いわね。」
「病気なんて持ってないわよ!」
アデリナの言葉に思わず反応したのはメイス使いの女性だ。
「みんなの事を言ってるんじゃないよ。今回が大丈夫だったからと対策を先送りにしていると本当にいつか疫病の危機があった場合に困るって話をしていたんだ。」
「火事だって起きてから早く火を消すより、そもそも火事を出さない方が良いでしょう?それと同じなのよ。」
当たり前の様で簡単ではなく、当たり前だからこそ難しい…だからこそ手を抜くべきではないのだが、人間という生き物は問題が起きないと楽をしたくなるものなのだ。防災対策しかり、安全管理しかり、トイレ掃除など日常業務しかりだ。
「取り敢えず彼らは6人だし、家の手配も3軒くらいしてあげてくれ。男2、男2、女2で住む感じで良いだろ?」
「えっ?3軒も家を用意してくれるの?」
「あそこに見える家と同じタイプの家だけどね。」
「この街の家はみんな同じ規格で作られているの。だから別の形にしろと言われても難しいんだけどね。…マサルの家だけは違うけど。」
「もしかして…この人って偉い人!?1人でうろうろしているからてっきり…。」
「そう偉い人なのよ。この街を造り上げたのは彼のおかげなんだから。」
まさかという顔で驚いている冒険者たちにアデリナが追撃する。
「いや、この街には長がいるし、実質的にはこのアデリナが全体の統括をしているからな。…俺はしがない神殿に住む管理人ってくらいだよ。」
マサルの言葉になぜか冒険者たちが凍り付いた。
「………神殿に住んでいるんですか?…神殿って神の家だから人が住むっていうのは聞いた事がないのですが?」
恐る恐る問い掛ける盾持ちの男の言葉に今度はマサルが凍り付いた。
「………マジで?」
「ふふっ、いい加減にそれくらいの常識は知ってた方が良いわよ?でも、やっぱりマサルは問題なかったじゃないの、大きい家に住めて良かったわねマサル。」
「………その大きい家で俺のお風呂覗いたアデリナさんがそういうならそうなんだろうな。」
「なっ!!あれは事故だって言ったでしょ!」
「きゃあ、えっちぃ〜♪」
「ちょっ、待ちなさいっ!」
からかいながら逃げるマサルと顔を真っ赤にしたアデリナの追い掛けっこが始まる。そしておいてけぼりにされた冒険者たちは穏やかで美しい街並みのこの街をまったりと堪能したのであった。