生存者
ノームの集落からマサルが蟻の繁殖をさせている場所へと足を運ぶと見慣れぬ一団が蟻と死闘を繰り広げていた。
マサルがしばらく来てないせいもあって食料を多く与えられた蟻たちはかなり増えていて、一団の疲労は明らかに限界寸前であった。盾役の人が2名に剣士らしき人、斧を振り回す重戦士に、軽鎧を着た女性メイス持ち、射手の女性は矢がきれて誰かの予備の物だろうか必死にショートソードを振り回している。
「敵ではありません!参加します。下がれると思った時に全員で後退して下さい。」
そう告げ蟻の中に飛び込むと、アイテムボックスから出した剣で手当たり次第に蟻の関節部分を切り飛ばして行動不能にしていく。幾度も繰返してきた作業でマサルにとってはさほど危険なものではない。
しばらくするとこちらを気にしつつも一団は後退していったのを見届け、蟻の死骸を回収しながら、
「ほら、ご飯だよ〜♪」
そう言いながらザーグたちとの行軍中に手に入れた人の食用に向かなかったり素材にならない魔物の死骸を撒いて蟻の注意をそちらに集めてから退散する。
「確かこっちに逃げていったよな?」
行ったと思われる方向に進むが林の中へと入っていったらしくその姿を捉える事が出来ない。
「ちっ…追跡とか探すのは苦手だって言うのに…。」
現代日本に生きてきたマサルにとって風向きで臭いがどうのとか、足跡がどうのとか言われても始めは頭では理解出来ても技術には発展しなかった。現在のマサルはというと………。
「やっぱり分からん…隠れる気で隠れてたら本当に俺にはどうにもならんぞ…。」
助けに入ったと言っても完全に彼らからすればマサルは正体不明の人でしかなく、警戒心が強く相手が身を隠していたりすると技術のないマサルには手も足も出ないのである。
「取り敢えず時間をかけるしかないかな…幸い距離的な限界を考えると探す範囲はそんなに広くないだろう。」
探し始めて約1時間…結局見付からす帰ろうとしていると。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
意外と近くで女性の悲鳴があがった。
「あっちか!まったく隠れていて他の生き物に襲われるとかマジであいつら運が悪いな…。」
駆けつけてみると一団は風切りウズラ4匹に襲われていた。その足元には木の輪がついていてヴィンターリアが過去増えすぎて野に還した個体である事が分かる。風切りウズラは比較的に飼育しやすいし、温厚な性格をしているが元々は魔物である…敵対するモノと出会うと名前通りに風を切る程の速さで突進してくるのである。
「こらっ!お前ら、その人たちから離れろ!」
その一言でまだマサルの事を覚えていたのかマサルの足元へとすり寄ってくるウズラたち。それを警戒を解かずに見守る一団。
「悪いな…コイツらは元々は街で飼われていたんだがあまりに繁殖し過ぎて野生に還した子たちなんだ。…ちょっと!どこつついてるんだ!こら、そこに食べ物はないって………。」
身体の後ろに回した手にアイテムボックスから出した餌を取りだしウズラたちに与えていく。
「貴方は何者?」
射手の女性がやっと声をかけてくる。
「それはこっちの台詞だと思うんだけどな…あの辺りは蟻の繁殖地に使っているから近寄るなと言う意味で『魔物の巣あります近寄るな危険』って看板まで立ててたというのに…見てないのか?」
「見たわ…人を近付けない為の嘘だと思って私たち…。」
蟻の巣の周辺には手作りの看板が10以上もあって危険性を訴えかけているが、どうも文字通りには受け取られていない様だ。
「あぁ、何か良いものを隠してるのか?って………それで死にかけてたのか。命は大事にな…で、怪我してるんだろ?治療するから武器を下ろせよ。」
「治療………してくれるの?」
「あぁ、ほっとくなら助けたりしないし探したりしないだろ?」
「私たちは余所者なのよ?」
「俺だって今でこそこの辺りに住んでいるけど元々は余所者さ。ほら、早くしろ!暗くなる前に集落まで移動したいんだから怪我を見せろ。」
「私たちは集落には行けないわ…。」
「そんな事は治療の後だ、何度も言わせるな!さっさと傷を見せろ。」
やっと武器を下ろした彼らに1人ずつ傷を確認して魔法で治療していく…あまり酷い怪我をしていた者はいなく、むしろ疲労と体臭が気になったくらいだ。
「お前ら…最後に行水したり風呂に入ったのは何時だ?」
「えっと………10日以上前かも。やっぱり臭う?」
「あぁ、かなりな。」
正直な返答に女性2人は本気で落ち込んだ表情を見せる。
「一応聞くけど盗賊とかじゃあないよな?」
「………私たちはバゼラールカの冒険者よ。元だけどね。王都が魔物に襲われてそれで戦いから逃げたの…きっと今頃は追われているわ。」
「まさか…あの王都からここまで逃げて来たのか?まったく運が良いな、お前らは。」
「運が良いだと!オレたちがどんなに酷い目にあってきたと思っている!」
怒鳴ったのは剣士の男だ。
「いや、言い方が悪かった。貴方たちは手配されても追われてもいない。それも間違いなくね。」
「どうしてそんな事が言えるのよ。」
「それは俺がその事件の後にバゼラールカの王都に行ったからだ。言いにくいがバゼラールカの王都は………全滅した。襲われた時に外に逃げていない生き物は全てだ。今は王都のあった場所は更地だ。」
「………そんな。」
「今は逃げ延びた住民たちが他の都市などに逃げ延びて再興を考えているハズだ。一部、継承権のある王族の生存も確認している。」
「生き延びた人がいたのですね!?」
「これから貴方たちは自由に生きて良いと思うよ。取り敢えずはノームたちの集落に来ないか?彼らのところでまずは身体や装備を洗ってさっぱりして美味しいものでも食べないか?かなり疲れているだろ?」
「ノームの?ここはグレイタス王国じゃないのか?」
「グレイタス王国は抜けて今いるここは国の管理が今のところない場所だ。グレイタス王国とも話はついていて現在は協力関係にある。」
彼らは少しボソボソと話あっていたが射手の女性の一言が彼らを動かした。
「ねぇ、わたし…もう疲れたわ。この話が本当がどうかはわからないけど少し休みたいの…。」
「………そうだな。…これ以上無理をしたら誰かが死ぬ事になるかも知れん、ここは彼の提案にのろう。」
こうして冒険者の一団を連れノームの集落へとマサルは帰っていった。