ノームの集落とザーグ
ノームの集落に近付くと見知らぬ軍勢に危機を感じたノームたちが武装して待ち構えていたが、
「お久しぶりです!皆さん元気してましたか?」
とあっけらかんに良い放つマサルに武装を解除して歓迎してくれた。
「そろそろこの辺りの土地をまとめて国とかにしないと各集落の防衛が大変だそ?こんな風に誰か来る度に全てに警戒しなきゃならなくなる。」
「確かにな…で、誰が国を起こすんだ?」
「そりゃあ………マサルじゃないのか?」
「だが、断る!っていうか俺みたいな小市民が国の代表になれる訳がないだろ!」
「小市民って何だっけと言いたくなるのはオレだけか?」
呆れ顔でザーグがぼやく中、ボッツ爺が集落の中から小走りで現れる。
「久しいのぅ、ちと見なかったかと思えばこんな風に変わった者を連れてきたりして、相変わらず 良い意味で非常識じゃのぅ。」
「この小市民に向かって何て言い種だ!」
「マサル…小市民ネタはもう良いぞ?」
「なるほど…じゃあ、次のネタ考えておくよ。」
「いや、考えなくて良いからな!?」
「お主らはまったく…で、この集団は一体なんなんじゃ?」
ザーグとのやり取りにボッツ爺にまで呆れられてしまった。
「この集団はグレイタス王国の部隊で、少し前までバゼラールカの王都に派遣されていたんだよ。」
「っ!まさか戦争か!?」
「違うよ。バゼラールカの王都は魔物によって墜ちた。逃げ遅れた人は全滅だ。」
「まさか!一国の王都が堕ちるなんて…それで、その魔物は!」
「マサルが全部殺したよ…王都の建物ごと全部な。今は王都は荒れ地どころか更地だ。」
「それは………マサルよ。やり過ぎはよくないぞ?」
「………うるさい。」
マサルはそっぽを向いて会話を拒絶する。
「まぁ、生存者はいなかった様ですし、王都を滅ぼす様な魔物が逃げ延びたりしなかっただけでマサルの行いには意味があったと思われますよ。」
一応、フォローを入れておくのも忘れないザーグ。
「それでお前さん達の部隊はここに何をしに来たんじゃ?」
「それはマサルが…………って、機嫌直せよ…まったく。何だ、実は意外と気にしていたのか?」
「当たり前だ!一応は安全面にも気を使っていたのにまるで魔王でも通ったかの様な言い方をされ続けて気分悪くならないわけないだろ!」
「お?安全面に気は使ってたのか…例えば?」
意外だと言わんばかりにザーグが問うと、ボッツ爺までもが興味深気に覗き込む。
「それはな、まず第一条件は敵性生物を逃さない事だ。その為に一斉に全ての魔物を倒す術を考えた…それが新しく構築した魔法での広範囲に爆発を起こして相手を倒す方法だ。」
「…安全面に配慮した結果だよな?」
「逃した時の危険性を考えてみろ、多少の被害は仕方ないとは思わないか?しかも中には生存者はいないんだぞ?配慮して逃がすのと、少し過剰でも確実にトドメを刺しにいくのを考えたら答えは出るだろう?どっちが危険性が高い?」
「そう言われると過剰な攻撃の方が良い気がしてくるな…。」
「しかも、王都の建物が崩壊したのは間違いないのだがそこに高い技術が使われていたのを考えた事はないのか?」
「高い技術?そもそも王都を城下町ごと崩壊させるのは高い技術が必要だが…。」
「ちょっと待て…王都を城下町ごと崩壊?魔獣でもそこまでせんぞ!?」
驚愕の表情で固まるボッツ爺。
「しかもご老人…一撃で全てが崩れ去ったらしいですよ。」
「一撃っ!?」
まさに開いた口が広がらないとばかりに大口を開けたままフリーズしてしまった。
「しかしだな、本来なら起こるハズの現象が起きてなかったんだな…崩れた王都や城下町にはただ瓦礫と埃のみが舞い、後には瓦礫だけが残ったんだ。」
「………起こるハズの現象………?」
「あぁ、グレイタス王国にも宮廷魔導師がいるんだろ?その魔導師は爆発の魔法が得意だと聞いたが?想像してみろその魔導師が家を爆発させるとどうなる?」
「吹き飛ぶんだろ?それで家は焼け落ち………そうか!炎か!」
「その通り!その規模で一撃で対象の魔物を倒した上で炎上などの二次被害を出していない!(建物は全部崩壊したが…ボソッ)」
「どうやったらそんな事が………。」
2人が驚き、ちゃんと安全に配慮していましたよというのが伝わり、ほっとするマサル。マサルだって批判されるのは嫌いだし、我が身が可愛いただの人なのである。
「それでだ、ザーグはちゃんとこのボッツ爺との顔合わせと挨拶しとけよ。ここはここらの農業の基点となる集落だからな。交易する時に知らない相手と交渉するのは大変だからな。」
「ちょっと待て!なんでオレが!?オレはただの騎士だぞ!?」
「まぁ、こういう集落があって俺が手をかけていて交易のチャンスがあるってのは王に報告しないといけないんだろ?」
「そうだが…。」
「じゃあ、宜しく!それで挨拶が終わったら王都に移動で良いが、帰る前にザーグに個人的にお土産やるから忘れずに来いよ。俺は長に挨拶してくるから。」
「…何か嫌な予感がするんだが…。」
「気のせいだ!必ず来いよ!」
立ち去るマサルの背中に不安を感じながら、まだ固まっているボッツ爺を正気に戻し挨拶を行うのであった。
「マサル…顔合わせ終わったぞ?」
「おぅ、こっちに来いよ。ちゃんとお土産の準備は出来てるぞ。」
「お土産って………これは!?」
「そう!これは蟻の甲殻1年分?とワームの弦を使ったトレント材の弓だ。」
「…オチはどこだ?マサルのお土産にしてはマトモ過ぎるし嬉し過ぎるんだが…。」
「…………………置いていくか?」
「いやいや!めっちゃ嬉しいです!ありがたく貰います!」
ジト目のマサルに慌てて感謝を述べる。
「で…この甲殻って………1年分?って何枚あるんだ?」
「えっと………600枚くらい?ざっと200匹分くらいかな。」
「1年に何枚この甲殻を使う気なんだよ…5〜6枚あれば簡単な軽鎧が出来るんだぞ…。」
「知ってる…まぁ、余ったら適当に遠征費用の足しにでもしてやれよ。」
「………そっちが本命なんだな。でもまぁ助かるよ…これで帰りの馬車の空間は狭くなるが少しくらいはボーナスが出そうだよ。」
「………あと、外に樽で3個分のオリーブ漬けがあるから持っていきな!酒のお供にいい感じに出来たからな。」
「オリーブ漬け?あぁ、ここの新しい名産品だ。塩漬けにしたオリーブの実をオリーブオイルに漬けてあるんだ、きっと気に入るぞ!」
さりげなく帰りの馬車の空間の話を聞いたマサルは更に不可をかけるかの様にお土産を追加したのだがザーグは好意を疑いもせず荷を馬車に積む様に部下に指示する。
「じゃあな!また会おう!」
「そうだな、次に会う時はきっとザーグは大使だな!よっ、出世頭!あと、これアクシオンに手紙だから間違いなく直接渡してくれ。頼まれていた女神像とかに関しての報告もあるから忘れずにな!」
「おっ、おう………なんでこっちがついでみたいなのかは分からんが間違いなく直接渡すよ。」
「じゃあ、無事につけるように祈ってる…気を付けて帰れよ!」
「おう、じゃあな!」
手を大きく振りながらドンドン遠ざかっていくザーグたちをずっと小さくなるまで見送るマサルとノームの長。
「のぅ、マサルよ…あの手紙の中身はなんじゃ?」
「もちろん、ザーグの大使の推薦状ですよ。」
「お主も悪よのぅ。」
「気付いていて何も言わない長も一緒ですよ。」
はっはっは、と笑い合う2人の思惑をザーグが知るのはまだまだ先の話である。