再戦
「表に出ろや!決闘だ!マサル!」
そう言ったランスロットの顔には期待と興奮で充ち溢れていた。明らかにアデリナをダシにして暴れてみたいだけなのが見てとれた。
「分かった。じゃあ、ランスロットが勝ったら一度アデリナをポータリィムに戻して本人の意見が聞ける様に手配しよう。だが俺が勝ったら…クック小隊とクックの弟の大工と仲間を暫く借りる。」
「決まりだ!さぁ、訓練所に行くぞ!」
「なんで俺たちや弟たちが!?」
クックは文句を言うが勿論聞き入れられる訳がない。
「なんだ、オレが敗けると思っているのか?」
と上司に睨まれ、
「隊長、無謀な挑戦は止めた方が良いッス…。」
と部下に見捨てられ、
「おっと乱入ですか?」
と外野のウェイドに贄にされてしまう。
「わたしが悪いのか?…わたしがおかしいんだろうか…。」
「まぁ、諦めろ隊長。自分のが終われば引っ越しの手伝いくらいならするからな。」
落ち込むクックに、謎のフォローをするエルダム。仕方ないのでトボトボと皆について歩いてはいるが足取りは重かった。
訓練所に着く頃には何故かギャラリーが増えていて、周りはちょっとしたお祭り状態になってしまう。
「なぁ、マサル…本当に大丈夫なのか?ランスロットさんって言えばグレイタス王国の英雄と呼ばれる1人なんだぞ…。こういうノリで決闘するような相手じゃないと思うんだが。」
不安そうに話かけて来たのはザーグだ。
「マサルが強いのは知ってるけど、弓術や魔術が得意な罠や戦術を得意とするタイプだろ…決闘みたいなのはやはり不利なんじゃないのか?」
「………はい?」
何を言われているのか分からず過去を振り返る。………そう言えば、過去に正面から戦ってたのってゴブリンと蟻くらいだな。どうしても大型の生き物は怖いし接近戦挑んだりしてないから変な誤解されてるのか。魔獣も弓と毒で戦ったしな…。
「はい?って…お前…もしかして何も考えてなかったのか?」
「い、いや…何とかなるかな。」
では、ちょっと驚いて貰いますか。前にランスロットと戦った時は身体的な能力は俺の方が上だったけど、技術なんかを総合すると同じくらいで、武器を人に向けるのも加減も出来る自信が無くて怖かった。しかし、あの頃からレベルはかなり上がり肉体的には差がかなり空いたハズだし、武器の扱いにも慣れた…前の時の様に泥沼にはならないだろう。
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鳴海 優(20)
職業《冒険者》
所属《冒険者ギルド》
称号《爆弾魔》new《使徒》《強運》《魔獣の狩人》《虫の天敵》《開発者》《開拓者》《無類の生産好き》《スキル収集家》《賭けの景品》《転移者》
レベル 49→52
生命力 347→359
魔力 404→416
力 160→164
体力 130→133
精神 114→117
素早さ 121→124
運 53
スキル《剣術4》《体術4》《弓術3》《治癒魔法3》《鑑定4→6》《探索4》《解体6》《採掘4》《伐採3》《農業6》《鍛冶6》《石工8》《木工6》《革細工5》《調合4》《土木5》《建築4》《算術4》《美術4》《歌唱3》《言語翻訳》《収納空間》《地図》
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「さて、そろそろ戦るか…ランスロット準備は出来てるか?」
「あぁ、準備は出来てる。…戦ろうか。」
以前の戦いと同じで武器はマサルが棍で、ランスロットが大剣だ。無言で互いに離れて構える。
「………ふぅ…いくぞっ!」
まるで片手剣の様に軽く振るわれたランスロットの大剣は以前より鋭く洗練されていた。それをギリギリの位置まで下がり回避するマサル…ただそれだけの動きに周囲はお祭り気分の浮わついていた感情を吹き飛ばされ息を飲む。
「…今の…殺しにいってたんじゃないか?」
…誰かが呟く。
お返しにとマサルが1/3を持ち手にして右から大きく薙ぐ。これはマサルが棍を使う時の癖みたいなもので、最初の一振りで間合いの確認とその日の調子をみるのだ。勿論、ランスロットは危なげなく回避する。
「…なかなか様になるようになったじゃないか。これなら気兼ねなく本気でいけるな。」
「そっちこそ、前とは太刀筋が全然違いますよ。かなり鍛えたみたいですね。」
「あぁ、あのままだったら次は絶対勝てないのが見えてたからな。………知識はともかく戦いで負けてやる訳にはいかねぇんだよ!」
地を蹴り間合いを詰めて刃を下に向け身体の前で両手で武器を構えたまま体当たりを仕掛けるランスロットに正面から力で受け止めるマサル。頭がぶつかり合いそうな距離で両者の武器が胸の前でぶつかり、反動で少し空いた距離で大剣の持ち手で額を殴りつけるランスロット。
「…ちっ!」
間一髪、マサルが手を入れて衝撃を逃がす。マサルはそのまま舌打ちするランスロットの足を払い態勢を崩しにかかるが…バンッ!と大きな音をたてて派手なローキックになってしまう。
「くそっ、蹴りになった!」
「どうやら足癖も悪いようだな。蹴っておいて文句は言うし…って危ねっ!?」
喋っている隙に棍を突き出して上半身を仰け反らせて態勢を崩すとそのまま連撃へと入る。
「突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀、杖はかくにも外れざりけり…。」
マサルが目指しているのは真道夢想流棒術と呼ばれる日本の江戸時代の武芸者、夢想権之助が創始した武術で警杖術の母体ともなっている古武術だ。
勿論、マサルは習った事もみた事もないし概要を古本で読んだ事があるくらいだが、長く持てば長く、短く持てば短く間合いを変え、使い手の技量次第で変幻自在の型を持つ棒術や杖術に対し憧れがあったのだ。それが少しずつ形になってきている。
「突く…払う…薙ぐ…足の運びは丁寧に…芯がぶれない様に一つずつを大事に。」
ぶつぶつと何やら呟きながら次から次へと棍を振るうマサルに、元々の肉体的な力の差もあって防戦一方になっていくランスロット。3分もそれが続くとランスロットには明確に異変が起きていた、息は荒くただ必死に攻撃を回避する事だけになってしまう。
「突く…突く…払う…薙ぐ………小さく丁寧に…。」
一心不乱に少しずつ形になっていく攻撃を反復し、繰り出していく。もはや、ランスロットとの対戦は頭になく動きの洗練にのみを追求している。
「おい、アレはヤバいぞ!誰かマサルを止めろ!司令が見えてない!」
「止めろって…アレをどうやって止めろって…。」
誰の目にも消耗しきってしまって限界なランスロットに時間がたつ毎に鋭くなっていくマサル…勝利は明らかであるが既にマサルには声が届いていない。
「誰でも良いから盾を持ってこい!全員で押さえるぞ!」
慌ただしく皆が駆け回り始めた頃、遂にマサルの攻撃がランスロットの身体を捉える。
「ぐはっ!!」
上下左右に全くぶれず突き出された棍はとても認識しにくく回避が難しい。繰り返し反復して身体に染み込みつつあるその突きはランスロットの右の肩を捉え、肩当てに大きく凹みを作る。芯で捉えたその攻撃は肩当ての中の肉体にも大きなダメージを与え右腕が動かなくなってしまう。
「「「「司令っ!」」」」
周りから悲鳴が上がるがやはりマサルは気付いていない。何事もなかったかの様に続けられるマサルの攻撃に冷や汗をかきながら命からがら回避を続けていく。
「もう限界だ!いくぞっ!」
「隊長はこちらから、わたしは向こうからいきます。ガイは後ろからだ!訓練用の槍だ、本気でやって構わん!」
「オレ達も行きます。この訓練用の槍をお借りします。」
クック小隊とスレイ、ナックルは覚悟を決め訓練用の槍を握りしめマサルを取り囲む。
「同時にいくぞっ!」
「「「「「「「応っ!!!」」」」」」
「3…2…1…だぁ!」
8本の訓練用の長槍が同時にマサルに向かって振るわれる。その瞬間、視界に入った異物に対し反射的に本気の最速の棍が繰り出され5本が半ばから砕け散ってしまうが残り3本がマサルの背中に届き弾き飛ばす事に成功した。
「なっ、くばっ!?!?」
妙な声をあげながら倒れるマサル。
「な、何が…。」
マサルが背中を擦りながら起き上がる一方で、ランスロットはその場に崩れる様に両膝をつき、何とか大剣で身体を支える。
「お前っ!司令を殺す気か!」
「えっ?殺すって…何が…ってえぇ!?ランスロットどうしたんだ!?」
怒鳴るクックにやっと周囲の状況が見え始めたマサル。
「取り敢えず治療をするからちょっと待て!」
まだ怒ろうとするクックを制してランスロットに治癒魔法を施していく姿に怒ろうとしていた言葉が何処かに迷子となってしまう。
「いや、悪いな…どんどん動きが良くなっていると思ったら夢中になってたみたいだ。スマン。」
「謝るな…そこまで力を引き出せてた事を誇りに思っていても、今ので恨んだりするようなウツケではないわ。それより最後の…アレが本気か。まだまだオレも鍛練が足りないようだな…。」
何だか2人で解りあって納得してしまい。周りが何故か怒るに怒れない状況に…なまじ全員が騎士に通じる者達ばかりなので、マサルの言った自身が成長しているという感覚が逃れられない最高の快楽である事も察してしまったのだ。
「取り敢えず、その大剣は修理が要るから貰っていくな。」
「そうだな、クック小隊と弟達の準備が出来る迄に直してくれたら問題ない。」
そんな2人のやり取りに自分たちが賭けの対象にされていたのを思い出し、落ち込むのだった。
「………状況が状況ですし、引き分けって事にはなりません?」
そんなクックの呟きを拾ってくれる者はいない。