終わりなき夢を君に捧ぐ─World of the doll─(7/23)縦書き表示RDF


終わりなき夢を君に捧ぐ─World of the doll─
作:有栖川 咲



6.星空の下のお茶会



「舞、今夜あいているかしら?」

昼食を終えると、姫桜にそう尋ねられた。

「ん?あいてるよ」

「双子にお茶会に招待されたんだけど、彼女達が是非、舞にも来てもらいたいんですって」

「えっ?夜にお茶会?」

お茶会っていうのは普通、昼にするものだ。夜にするものじゃない。

紅茶はカフェインが多く含まれている。夜に飲むには不適切な飲み物だ。

紅茶に詳しい姫桜がこのことを知らないはずはないけど……。

「あら、お茶会を夜にやっちゃいけないなんて決まりはないわ」

いや、確かにそんな決まりはないかもしれないけどさ、常識で考えたらお茶会は昼でしょ。
いいのか?そんなんでいいのか?

「それで、一緒に行ってくれる?」

夜にお茶会っていうのはどうかと思うけど、その双子には逢ってみたい。

ここに来て結構時間が経ったけど、知り合いはまだまだ少ない。

ここの人は皆、わたしのことを一方的に知っているから知り合いというより、わたしが知っている人って言った方が正しいかな?

まぁ、どっちでもいっか。

とにかく、もっと多くの人と交流してみたい。

「うん、行く!」

わたしは快く承諾した。






 †


太陽が沈み、空には無数の星が輝く。

姫桜と街を歩くのはこれで二回目だ。


暫く歩くと、二つの人影が見えた。

「「いらっしゃい」」

わたし達を迎えてくれたのは二人のそっくりな少女。
言われなくても双子だということがわかるくらい、本当にそっくり。

腰のあたりまで伸ばされた銀髪は先の方だけウェーブがかかり、二人ともそれをツーサイドアップにしている。

ひとりは薄い桃色の瞳。
苺がモチーフの髪飾りを付け、自身の瞳と同じ色のドレスを着ている。

もうひとりはワインレッドの瞳。
林檎がモチーフの髪飾りを付け、彼女も自身の瞳と同じ色のドレスを着ている。

二人が着ているドレスは色が違うだけで、デザインは全く同じだ。

薄い桃色の瞳の方が雪苺(ゆきいちご)、ワインレッドの瞳の方が雪林檎(ゆきりんご)だと姫桜が教えてくれた。

二人とも姫桜や月華と同じビスクドールらしい。

「もう準備はできてるよ」

「早くおいで」

声までそっくり。
瞳の色や服装までも同じだったら絶対に見分けがつかないだろう。

双子はわたし達の手を引き、テーブルが置かれた庭へ案内した。

テーブルの上にはティーセットと“桃色のもの”が並んでいる。

「今日も凄いわね」

姫桜の声は感心というより呆れに近い。

「ふふっ、凄いでしょ?」

嬉しそうに笑うのは雪苺。

桃色のクッキー、桃色のシフォンケーキ、桃色のワッフル……。

食べきれない程並んだお菓子は全て桃色。

「今日のお菓子は全部、苺のお菓子なの♪」

雪苺は本当に嬉しそうに笑っている。

なるほど。
桃色の正体は苺だったんだ。それにしても全部、苺って……。

「紅茶はアップルティーだよ♪」

今度は雪林檎が嬉しそうに笑う。

「この前は林檎のお菓子に苺風味のフレーバーティーだったわよね」

姫桜は相当呆れているようだ。
思いっきり顔に出ているにもかかわらず、双子は全く気にする様子がない。

「ほらほら、早く座って」

「お茶会を始めましょ」

双子に促され、わたし達は席に着いた。

「舞が来てくれて嬉しいわ」

「遠慮しないでいっぱい食べてね」

二人はお茶とお菓子を次々に勧めてくる。
思わず苦笑いを漏らしてしまった。

最初にアップルティーを口に運んだ。
ほんのり甘い紅茶が口いっぱいに広がる。

姫桜が出してくれる紅茶は基本、ストレートティー。他が嫌いってわけじゃないみたいだから偶にレモンティーやミルクティーを出してくれることもあるけど、それは滅多にない。
アップルティーを飲んだのは久しぶりだ。

――ストレートティーもいいけど、アップルティーもいいかも。

紅茶にうるさい姫桜も満足している様子だ。

次にお菓子に手を伸ばした。

甘酸っぱく、とても美味しい。
全て苺味なのに全然飽きないのが不思議だ。いくらでも食べられそう。

たわいないお喋りをしながらお茶会を楽しんでいると、唐突に雪苺がこんなことを聞いてきた。

「ねぇ、舞は苺と林檎どっちが好き?」

「えっ?」

なんで行き成り苺と林檎?今の会話の流れからするとおかしいでしょ。
ついさっきまでしていた話は全く関係のないものだ。

わたしがきょとんとしていると、雪苺が詰め寄ってきた。

「苺でしょ?苺だよね?」

「えー、何言ってるの、雪苺。林檎でしょ?林檎だよね?」

雪林檎まで詰め寄ってくる。二人とも満面の笑顔で逆にそれが怖い。

「え、えーと…」

わたしは言葉を濁す。

察するに雪苺は苺好き、雪林檎は林檎好きだ。それも、姫桜の紅茶好きと同じくらいのレベルで。

えっ?どういう意味かって?
つまり、相当好きだってこと。他人には理解できないくらいに。

きっと、どっちかを選べば間違いなく喧嘩になる。

「「どっち?」」

二人は更に詰め寄ってくる。

「えーと…り、両方好きだよ」

我ながら気の利かない答えだと思う。こんなの誰だって思いつく答えじゃん。

「えー、どっちか選んでよ」

「そうだよ。両方じゃなくてどっちか」

双子は引かない。
引くどころかもっと詰め寄ってくる。

「えーと……」

さっきから『えーと』ばっかり言ってるよね。
でも、他に言葉が出て来ないんだ。

――どうしよう…。

姫桜に目で助けを求めてみたけど、彼女はわたし達には目もくれず、紅茶を飲んでいる。
助けは期待できそうにない。

平和的解決法を必死で考える。
なんで、わたしは苺と林檎のどっちが好きかなんてどうでもいいことで悩まされているんだ!!


「もう、いい加減にしたら?」

助け船を出してくれたのは、なんと先程まで全く興味がなさそうだった姫桜。

双子はえー、と不機嫌そうに頬を膨らます。

「そんなのどっちだっていいわ。大差ないじゃない。馬鹿馬鹿しい」

姫桜はバッサリと切り捨てる。
その言葉に余程、衝撃を受けたのか二人は固まってしまった。

二人にとっては大事な問題だったんだろう。あくまでも二人にとっては、だ。

やっと解放してもらえたわたしは、姫桜に心から感謝したのだった。












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