終わりなき夢を君に捧ぐ─World of the doll─(6/23)縦書き表示RDF


終わりなき夢を君に捧ぐ─World of the doll─
作:有栖川 咲



5.Bath time



お風呂に入りに行く。

この屋敷にはとても広い大浴場がある。個別のシャワーもあるけど、広々とした大浴場の方が好きだ。

ここは何でも広くて、毎回驚かされている。庭を見た時も、部屋を見た時も。もちろん初めて大浴場を見た時も、だ。


脱衣場で服を脱ぎ、タオルを体に巻き付ける。

大浴場のドアを開けると熱気がわたしの身体を包み込んだ。


「あれっ?舞じゃん」

ここにいるはずのない人の声が聞こえた。

ここは風呂だ。
あいつの声が聞こえるはずない。聞こえちゃいけない。

幻聴かな?幻聴だよね?幻聴であってくれ!!

湯気で視界が遮られ、その人の姿は確認できない。

淡い期待を抱きつつ、浴槽に近づく。

「よっ!」

あいつは浴槽にもたれかかりながら片手を挙げた。

「……」

わたしの期待は見事に裏切られた。

「なんであんたがいるのよ、黎月!」

黎月だけじゃない。姫桜と真白もいる。

「俺もここに住んでんだからいるのは当たり前だろ?」

「そうじゃない!なんでこんな場所にいるのって言ってるの!」

しつこいようだが、ここは風呂だ。

「ここは混浴よ。脱衣場だけ別なの。知らなかった?」

姫桜に呆れたようにそう言われた。

そんなの初耳だ。
大浴場で姫桜になら会ったことがあるが、黎月や真白に出会したことは一度もなかった。

――タオルをしっかり巻いていてよかったぁ。

心からそう思った。

「いつまでもそんなところに突っ立てないで早く入ったら?」

姫桜に促され、浴槽に入った。ふわりと香る花の香りが鼻を擽る。

気持ちいい。疲れがスッと抜けていく。



………。

わたし、さっきから気になっていることがあるんだ。

何かって?それはね──


「…ねぇ、黎月。なんでお酒飲んでんのよ。あんた、未成年じゃないの?」

黎月が持っているのはブランデー。
彼はどう見ても18歳くらいにしか見えない。

そして、なんでわざわざ風呂で酒を飲むんだ。
ちゃっかり姫桜まで飲んでいることがさらに驚きだ。

「未成年?あはは、ドールには年齢なんてものはないんだよ。だから、飲んでも問題なし♪舞も飲む?うまいよ?」

黎月はへらへら笑いながら、わたしにブランデーを差し出す。

「いらないよ。わたし、まだ17歳だし」

キッパリと断る。

堅いなぁ、と黎月は不満そうな顔をした。

いやいや、立派な犯罪だから。
まぁ、正月に酎ハイ飲んだけどね。でも、親の許可あったし、これは特別ってことで。


「真白は飲まないの?」

二人が飲んでいるのに彼は一口もブランデーに口をつけない。

「僕はいいんです」

そう言って、苦笑いを浮かべる。

「真白はねぇ、酔うとすごいんだよ」

黎月はニヤニヤと笑いながらそう言った。

「すごいって?」

わたしは首を傾げる。

それがさぁ、と話し始めようとした黎月が突然、口を噤んだ。

背後にヒシヒシと殺気のよいなものを感じる。

「黎月、それ以上言ったらどうなるか、わかっていますか」

にっこりと笑みを湛える真白の後ろに黒いオーラが見える。

――こ、怖い…。

普段の穏やかな真白と同一人物だとは思えない。

笑顔が怖い。
目が全然笑ってない。

お願いだからいつもの真白、カムバック!!

「い、言わねぇよ!言わねぇから!俺が悪かったって!」

黎月はものすごい慌てようだ。

この場から今すぐにでも逃げ出したい。
今の真白は怖すぎる。

「舞、このことは忘れて下さいね」

真白はわたしの方に向き直り、にっこりと黒い笑みを浮かべる。

「は、はい!」

思いっきり声が裏返った。

真白が酔うとどうなるのか、かなり気になる。
でも、とてもじゃないが聞けそうにない。

真白の意外過ぎる一面を見てしまい、かなり後悔した。

――知らない方がよかった…。

本気でそう思う。


そして、あの凍り付くような空気の中で平然とブランデーに口を付けていた姫桜は、この屋敷で一番最強かもしれないと思った。


舞の黎月の呼び方が『貴方』から『あんた』に変わったのは、舞が彼らと親しくなり、この世界に馴染んできた表れです。

人形がお風呂に入っていいのか、というツッコミはしないで下さい(汗











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