5.Bath time
お風呂に入りに行く。
この屋敷にはとても広い大浴場がある。個別のシャワーもあるけど、広々とした大浴場の方が好きだ。
ここは何でも広くて、毎回驚かされている。庭を見た時も、部屋を見た時も。もちろん初めて大浴場を見た時も、だ。
脱衣場で服を脱ぎ、タオルを体に巻き付ける。
大浴場のドアを開けると熱気がわたしの身体を包み込んだ。
「あれっ?舞じゃん」
ここにいるはずのない人の声が聞こえた。
ここは風呂だ。
あいつの声が聞こえるはずない。聞こえちゃいけない。
幻聴かな?幻聴だよね?幻聴であってくれ!!
湯気で視界が遮られ、その人の姿は確認できない。
淡い期待を抱きつつ、浴槽に近づく。
「よっ!」
あいつは浴槽にもたれかかりながら片手を挙げた。
「……」
わたしの期待は見事に裏切られた。
「なんであんたがいるのよ、黎月!」
黎月だけじゃない。姫桜と真白もいる。
「俺もここに住んでんだからいるのは当たり前だろ?」
「そうじゃない!なんでこんな場所にいるのって言ってるの!」
しつこいようだが、ここは風呂だ。
「ここは混浴よ。脱衣場だけ別なの。知らなかった?」
姫桜に呆れたようにそう言われた。
そんなの初耳だ。
大浴場で姫桜になら会ったことがあるが、黎月や真白に出会したことは一度もなかった。
――タオルをしっかり巻いていてよかったぁ。
心からそう思った。
「いつまでもそんなところに突っ立てないで早く入ったら?」
姫桜に促され、浴槽に入った。ふわりと香る花の香りが鼻を擽る。
気持ちいい。疲れがスッと抜けていく。
………。
わたし、さっきから気になっていることがあるんだ。
何かって?それはね──
「…ねぇ、黎月。なんでお酒飲んでんのよ。あんた、未成年じゃないの?」
黎月が持っているのはブランデー。
彼はどう見ても18歳くらいにしか見えない。
そして、なんでわざわざ風呂で酒を飲むんだ。
ちゃっかり姫桜まで飲んでいることがさらに驚きだ。
「未成年?あはは、ドールには年齢なんてものはないんだよ。だから、飲んでも問題なし♪舞も飲む?うまいよ?」
黎月はへらへら笑いながら、わたしにブランデーを差し出す。
「いらないよ。わたし、まだ17歳だし」
キッパリと断る。
堅いなぁ、と黎月は不満そうな顔をした。
いやいや、立派な犯罪だから。
まぁ、正月に酎ハイ飲んだけどね。でも、親の許可あったし、これは特別ってことで。
「真白は飲まないの?」
二人が飲んでいるのに彼は一口もブランデーに口をつけない。
「僕はいいんです」
そう言って、苦笑いを浮かべる。
「真白はねぇ、酔うとすごいんだよ」
黎月はニヤニヤと笑いながらそう言った。
「すごいって?」
わたしは首を傾げる。
それがさぁ、と話し始めようとした黎月が突然、口を噤んだ。
背後にヒシヒシと殺気のよいなものを感じる。
「黎月、それ以上言ったらどうなるか、わかっていますか」
にっこりと笑みを湛える真白の後ろに黒いオーラが見える。
――こ、怖い…。
普段の穏やかな真白と同一人物だとは思えない。
笑顔が怖い。
目が全然笑ってない。
お願いだからいつもの真白、カムバック!!
「い、言わねぇよ!言わねぇから!俺が悪かったって!」
黎月はものすごい慌てようだ。
この場から今すぐにでも逃げ出したい。
今の真白は怖すぎる。
「舞、このことは忘れて下さいね」
真白はわたしの方に向き直り、にっこりと黒い笑みを浮かべる。
「は、はい!」
思いっきり声が裏返った。
真白が酔うとどうなるのか、かなり気になる。
でも、とてもじゃないが聞けそうにない。
真白の意外過ぎる一面を見てしまい、かなり後悔した。
――知らない方がよかった…。
本気でそう思う。
そして、あの凍り付くような空気の中で平然とブランデーに口を付けていた姫桜は、この屋敷で一番最強かもしれないと思った。
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