4.読書好き
どんッ!
「きゃあ!」
「うわぁ!」
廊下の角を曲がったところで誰かとぶつかった。
勢い余って後ろに倒れ、思いっきり尻餅をついてしまった。
「…いったぁ」
「大丈夫ですか!?」
顔を上げると、わたしの瞳に白い兎耳が映った。
わたしの目の前に立っていたのはたくさんの本を抱えた真白。
勢いよくぶつかったにもかかわらず、積み上げられた本が彼の手から一冊も落ちなかったことは奇跡に近いと思う。
「すいません。前をよく見ていませんでした。もっと注意すべきでした」
真白はものすごく申し訳なさそうな顔をした。それと同時にしゅんっと兎耳が垂れる。
――“見てなくて”じゃなくて“見えなくて”の間違いじゃないかしら?
真白は顔がほとんど隠れてしまうくらい多くの本を持っている。
彼はその大量の本を床に置き、わたしに手を差し出してくれた。
「ありがとう」
彼の手を借りて立ち上がる。
わたしが乱れたスカートを直していると、真白は床に置いた本を再び持ち上げようとしていた。
「真白、運ぶの手伝うよ」
ひとりで運ぶのは大変そうなので、わたしは手伝いを申し出た。
「本当ですか?実は結構大変だったんですよ。助かります」
真白から何冊か本を受け取る。
彼が運んでいた本は厚いものが多い。ずしりと腕に重みがかかる。
これをひとりで運ぶのはかなりの負担だ。
「どこまで運ぶの?」
「僕の部屋までお願いできますか?」
――真白の部屋かぁ。見たことないからちょっと気になるかも。
「うん、わかった」
「ありがとうございます」
†
「ここです」
真白の部屋は、わたしが使わせてもらっている部屋からそう遠くない場所にあった。
真白は本を床に置き、部屋の扉を開けた。
わたしの部屋と違って、落ち着いた雰囲気の部屋だ。家具はアンティーク風でとてもお洒落。
そして、壁一面に書籍がぎっしり並んででいる。
「わぁ、すごい。この本、全部真白のもの?」
わたしの声は少し弾んでいたかもしれない。
読書好きのわたしにとってこの部屋はかなり魅力的だ。
「そうですよ。読みますか?よければ貸しますよ」
「ほんと!?ありがとう!」
真白がそう言うと、わたしはに本棚に一直線。
――どれも面白そう♪
ここに来てから一冊も本を読んでいない。
久しぶりに読書ができることが嬉しくてつい、笑みが零れた。
†
コンコン
「はい?」
扉が開き、真白が顔を出した。
「舞、もう読み終わったんですか?」
「うん。違うの貸してもらえる?」
真白はどうぞ、と中に入れてくれた。
真白の部屋へ本を借りに通うのはわたしの日課となっていた。
――今日はどれにしようかな♪
彼の部屋には数え切れない程の本がある。
ジャンルも豊富なため、全く飽きない。
――これにしよっ♪
何冊か選び、それを持って部屋を出ようとすると、珍しく真白に呼び止められた。
「舞、一緒にお茶でもどうですか?」
「珍しいね。どうしたの?」
何度も本を借りに真白の部屋に来たけど、ど、お茶しようなんて初めて言われた。
「たまには舞と二人で話でもしたいと思ったんですよ。ダメですか?」
「そんなことないよ」
わたしはにっこり笑い、そう言った。
真白が用意してくれたのはダージリンとシンプルなスコーン。
「これ、あのお店のスコーンだよね?」
「そうですよ」
このスコーンは姫桜のお気に入りであり、わたしのお気に入りでもある。
「あそこのスコーン、美味しいんだよね」
姫桜曰く、とても人気のスコーンらしく、売り切れてしまうこともしょっちゅうだとか。
「舞、ミルクとレモンはどうしますか?」
「ん?いいや。ダージリンはストレートティーが一番だよ」
紅茶の中でも特に香りを重視されるダージリンは香りを楽しむためにストレートティーで飲むのが一番だ。
「前より紅茶のこと詳しくなりましたよね。」
「姫桜にいろいろ(強制的に)聞かされたからね」
「あー…彼女は紅茶のことを話し出すと止まりませんからね」
二人で苦笑いを浮かべる。
姫桜の紅茶好きは異常な程。
紅茶だけでなく、茶菓子のことも詳しく、こだわりもすごい。
紅茶のことを話し出すと常に冷静な彼女はどこへやら。
こうなった姫桜は誰にも止められない。
これさえなければ非の打ち所のない完璧な美少女なのに…。
冷めてしまう前に真白が煎れてくれた紅茶に口をつける。美味しいけど姫桜が煎れてくれた方が美味しいかな、と失礼なことを考えてしまった。
その後、たわいない会話をしながら静かに二人だけのお茶会を楽しんだ。
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