3.Shopping
「暇だなぁ…」
やることが何もなくて、かなり退屈。
無駄に時間をだらだらと過ごす。
「出掛けたいなぁ」
空は雲ひとつなく晴れ渡り、絶好のお出掛け日和。
ここに来たときに見た、あの可愛いい街に行ってみたい。でも……。
道がさっぱりわからない。
そりゃそうだ、ここに来てまだ二日目だもん。
つまり、ひとりで外に出たりなんかしたら迷うのがオチってわけ。
「あー、暇だぁ」
ごろんとベッドに寝転がる。
眠いわけじゃないけど昼寝でもしようかなぁ、なんて考えていたときだった。
コンコンとノック音が響いた。
「舞、いる?開けるわよ?」
ガチャっという音と同時に扉が開く。
そこにいたのは姫桜。
「街に洋服でも買いに行かない?私服がそれだけじゃ大変でしょ?」
それというのは、このワンピースのことだろう。わたしがここに来たときに着ていたものだ。
寝るときは姫桜が用意してくれたネグリジェがあるから大丈夫。
でも、私服がこのワンピースだけっていうのは、結構厳しい。
せめて、もう一着くらいは欲しい。
時間を持て余していたわたしにとって、嬉しすぎるお誘い。
だけど、ひとつ問題が……。
「素敵なお誘いなんだけど……」
「けど?」
「…わたし、お金持ってないよ?」
気が付いたらこの国にいたんだ。お金なんて持ってるわけない。
「あら、お金の心配なんていらないわ。わたしが出してあげるから」
姫桜はさらっとそう言った。
こんなにすごい屋敷に住んでいるくらいだ。きっと、有り余るくらいのお金があるんだろう。
でも、たとえそうだとしても買ってもらうなんて申し訳ない。
「買ってもらうなんて、悪いよ」
「そんなこと気にしなくていいわ。じゃあ、待ってるから早く準備してきてね」
そう言うと姫桜はさっさと部屋を出ていってしまった。
†
二人で街を歩く。
やっぱり可愛い。御伽噺の国を歩いているような気分になる。
結局、わたしは洋服を買ってもらうことになった。
何度も断ったけど、根負けしたのだ。
嬉しいけど、なんだか申し訳ない。
姫桜の話だと、月華というビスクドールと茉莉花というテディベアが二人でブティックを開いているらしい。
二人ともなかなか有名なデザイナーだそうだ。
暫く歩くと、お店が見えてきた。
少し小さめだけど、お洒落なお店。
「いらっしゃいませ〜」
店のドアを開けると間延びした少年の声が聞こえた。
くりくりした黒い瞳にふわふわのパーマがかかった焦げ茶色の髪。
ぶかぶかのニットのセーターと半ズボンを着ている。
そして、頭には丸い耳が二つ。
「……」
なぜか彼はわたしが店に入ってからずっとこっちを見ている。
――何だろう…?
じーっと見られて居心地が悪い。
不意に彼は口を開いた。
「お嬢さん、舞ですよね?」
「えっ、そうですけど…」
「あぁ、やっぱりそうですかぁ。いやぁ、舞が僕らの店に来てくれるなんて嬉しいです〜」
そう言うと、少年はわたし達を店の中に招いた。
その動きがものすごくゆっくり。その上、かなりだるそう。
店員がそんなんでいいのかってツッコミたくなる。
話し方もイライラするくらいゆっくりで、やる気というものを全く感じさせない。
嬉しいって言っているのにあまり嬉しそうに聞こえないのは、きっとその話し方せい。
「相変わらずね、茉莉花」
そんな少年の様子を見て、姫桜が呆れたような声でそう言った。
――えっ?この少年が茉莉花?
こんな人が有名なデザイナーなのかっていうのも疑問だけど、それよりも疑問なことが──
「茉莉花って女の子のことじゃなかったの?」
『茉莉花』なんて名前だからてっきり女の子だと思っていた。
ここの人は皆、ちょっと変わった名前だから何を基準にしたらいいのかよくわからないけど。
でも、この名前は女の子っぽいよね?
「わぁ、ひどいですよ〜」
茉莉花はわかりやすく落胆した。
「名前だけ聞いたらどう考えても女ですものね」
姫桜の一言がさらに彼を落ち込ませる。
やっぱり女の子の名前だったんだ。
そりゃ、誰だって男なのに女みたいな名前だったら嫌だよね。
「茉莉花、ちょっと来て!」
わたし達が彼の名前について話していると、店の奥からハキハキした声が聞こえた。
茉莉花の話し方とは対照的でかなり早口。
「あー、月華が呼んでる」
面倒くさいなぁ、とか言って茉莉花は動こうとしない。
「茉莉花!遅い!」
遅いって言ってもまだ三十秒くらいしか経ってない。
そう言って店の奥から出てきたのは、姫桜より少し背の高い女の子。
オッドアイが印象的だ。右はエメラルドグリーン、左はスカイブルーでとても綺麗。
縦ロールがかかった金髪を耳の下で二つに結び、薔薇の飾りがついたミニハットをリボンで固定している。
彼女は茉莉花と違ってとてもお洒落で流石デザイナーって感じ。
「貴方はいつもそうなんだから!もう少しきびきび動きなさいよ!」
彼女は随分、ご立腹のようだ。
「月華、舞が来ているんだよぉ?舞をほったらかすわけにはいかないよ〜」
……嘘だ。
さっき面倒くさいとか言ってたじゃないか。
絶対そんなこと思ってない。
「えっ──!?」
月華はこっちに視線を向ける。わたしのことを確認すると、再び茉莉花の方を向いた。
「舞が来ているんならしょうがないわね。今回は許してあげるわ。」
今回だけよ、と念を押す。
きっと、毎回こんな感じなんだろう。
そう言うと、月華はわたし達の方に向き直った。
「で、今日はどんな服をお求めで?」
今まで不満そうだった顔が一瞬で笑顔に変わった。
「舞に似合う服を十着ほど戴ける?」
「えっ!?十着って……」
姫桜がどれだけお金持ちかなんて知らないけど、いくらなんでも十着は多い。
ざっと見たけど、この店の服はどれも高い。
庶民のわたしじゃ簡単には手が出せないだろう。
「十着じゃ足りない?じゃあ……」
姫桜は違う意味でとったらしく、さらに枚数を増やそうとする。
「足りなくない!十分だよ!」
わたしはぶんぶん首を振る。
「とりあえず何着か試着してみたら?」
「それもそうね」
月華にそう言われ、わたし達は試着室へ向かった。
その後はとても長かった…。
試着室に閉じ込められ、服を渡されては試着の繰り返し。
姫桜と月華は楽しそうだったけど、はっきり言って疲れた。
何着か選び、支払いを済ませて外に出ると辺りはもう薄暗くなっていた。
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