終わりなき夢を君に捧ぐ─World of the doll─(3/23)縦書き表示RDF


終わりなき夢を君に捧ぐ─World of the doll─
作:有栖川 咲



2.ビスクドールと白兎



わたしが連れて来られたのは大きなお屋敷。

庭があまりにも広くて、門を通ってから屋敷に着くまでかなり時間がかかった。

玄関の前まで来ると黎月はやっと手を放してくれた。


「…ここ、本当に貴方の家なの?」

「あぁ、そうだぜ」

「……嘘…」

信じられない。

だって、こんなにすごい大豪邸、見たことない。

庭の広さだって相当なものだ。



「舞?」

屋敷を見上げていると、すぐ後ろから鈴を転がしたような声が聞こえた。

振り返ると、わたし達の後ろには、いつの間にか少女が立っていた。

大きな瞳は薄い紫。
地面に付きそうなくらい長い髪は淡い桃色で、ゆるいウェーブがかかっている。

レースやフリルが惜しみなく使われた黒いドレスを着て、頭にはヘッドドレスをつけている。

身長はわたしの胸くらいまでしかないのに、とても大人びて見える。

かなり可愛い。
等身大のお人形みたい。

――絶世の美女ってこういう子のことを言うんだろうなぁ。

そう思うくらいに彼女の美しさは完璧だ。

わたしと目が合うと少女はニコッと笑った。

「あぁ、やっぱり。お帰りなさい、舞」

そう言うと少女はわたしに抱きついた。

「えっ!?な、何!?えぇ!?」

予想外な彼女の行動にあたふたする。

そんなわたしの様子がおかしかったのか、少女がくすくす笑う声が聞こえてきた。

「舞が困ってるぜ。からかうのも程々にしなよ、姫桜(ひめざくら)

口ではそう言う黎月だが、彼はニヤニヤ笑いながらわたしを見ている。

――絶対、楽しんでる…。

「あら、ごめんなさい♪」

姫桜と呼ばれた少女はやっとわたしを放してくれた。

「舞に会えて、嬉しかったんだもの」

ふわりと微笑む。
とても可愛くて、つい、見惚れてしまった。


「ねぇ、黎月。せっかく舞が帰ってきたのだから、これからみんなでお茶会でもしない?」

「おっ、いいね。じゃあ、真白(ましろ)も呼んでくるか」

「……真白?」

――誰だろ?

「白兎のぬいぐるみよ。この屋敷には、わたしと黎月と真白の三人で住んでいるの」

首を傾げていると姫桜がそう説明をしてくれた。


「じゃあ、俺が呼んでくるから、準備の方は頼むな」

「ええ、わかったわ」

黎月は玄関の扉を開け、中に入っていった。

「わたし達も行きましょうか」






 †


案内されたのはテーブルと椅子が備え付けられた庭の一角。

テーブルには真っ白なテーブルクロスがかけられ、その上には上品なデザインのティーセットや美味しそうな茶菓子が並べられていく。


だいたい用意が終わった頃、二人の青年がこっちに向かってくるのが見えた。

ひとりは黒い猫耳。
もうひとりは白い兎耳。

猫耳の方はもちろん黎月。
ということは、兎耳の人が真白か。

さらさらした銀髪にルビーのような赤い瞳。
白いワイシャツに黒いネクタイを締め、黒いズボンをはいている。

「お待たせしてしまいましたか?」

「今、用意し終わったところよ」

「舞と姫桜が用意してくれたんですか?」

「えぇ」

……わたしはほとんど何もしてないのよね。

わたしはほんの少し手伝っただけで、大部分は姫桜が用意してくれた。

「ありがとうございます」

そう言って、真白はにっこり笑った。

――誠実そうな人だなぁ。

それが真白の第一印象。

「構わないわ。みんな揃ったことだし、始めましょうか」


全員が席に着くと、姫桜が紅茶を煎れてくれた。ティーカップに温かい紅茶が注がれていく。

「どうぞ」

姫桜はにっこり笑って、わたしに紅茶を注いだティーカップを差し出す。

「ありがと──ん?」

姫桜からティーカップを受け取ったとき、“あるもの”がドレスの袖から、ちらっと見えた。

その“あるもの”っていうのは──


「球体関節!?」

そう、それは球体関節。

「あはは、驚き過ぎだろ。姫桜はビスクドールなんだ。だから、関節の部分は全部、球体関節なんだよ」

――えっ!?

ぬいぐるみの次はビスクドール。
確かに人形並に可愛いって思ったけど、本物の人形なんて……。


暫く呆然としていると、不意に姫桜に名前を呼ばれた。

「舞」

「な、何!?」

名前を呼ばれたことがすぐにわからなくて、慌てて返事をしたら声が裏返ってしまった。

「紅茶が冷めるわ」

姫桜はちょんとティーカップを軽くつついた。

「あっ、ごめん」

わたしはカップを手に取り、口に運んだ。

「わぁ、おいしい」

姫桜が煎れてくれた紅茶はとても美味しかった。

――今まで飲んだ中で一番美味しいかも。

「気に入ってくれた?」

気に入ったと答えると、姫桜は嬉しそうに笑った。






 †


それから暫くみんなでお茶を楽しんだ後、わたしは黎月に客室に案内された。

「ここ、自由に使っていいから」

――ここに滞在することは、もう決定事項なんだ…。

わたしの意志なんてお構いなし。

まぁ、帰り方がわからない今、ここに滞在しないっていう選択肢なんてないんだけどね。


ビスケットのような扉を開け、部屋に入る。

白い壁、大きな窓、ふかふかの絨毯。
家具はハートをモチーフにしたものでとても可愛い。

そして広い。
わたしの部屋なんか比べものにならないくらい広い。


部屋に入るとベッドの前まで行き、勢いよく倒れ込んだ。
ベッドは柔らかく、とても気持ちいい。

寝転がりながら、今日のことを思い出す。


――姫桜と真白もわたしのこと知ってたなぁ。


【ここの住人はみんな、舞のこと知ってるぜ】

黎月の言葉が思い出される。

わたしは知らないのに、相手はわたしのことを知っている。

なんだか不思議な感じがした。


わたしはベッドに寝そべったまま、窓越しに赤く染まった空を眺め、暫く何も考えずにボーっとして過ごした。



やがて、空は赤から黒に変わり、この国での一日目は終わりを迎えた。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう