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終わりなき夢を君に捧ぐ─World of the doll─
作:有栖川 咲



21.赤い薔薇の中で



廊下を小走りに進む。静かな廊下にはわたしの足音がやけに大きく響いた。

「……どこ、行ったんだろう…」

進んでも進んでも黎月の姿は一向に見えない。ここの敷地はとても広い。闇雲に捜しても見つけられる可能性は低いだろう。かといって、気まぐれな黎月がどこに行ったかなんて検討もつかなかった。






 †


目的地もなく走り回り、気が付くとある場所にたどり着いた。

一面、赤で覆われたその場所に捜し求めていた後ろ姿を見つけ、わたしはその背中に駆け寄った。

「黎月っ!!」

黎月は振り返り、わたしの姿を捉えると瞳を大きく見開いた。

「芽依…!なん、で……」

美しい赤薔薇が無数に咲き誇る薔薇園。捜し求めていた彼はそこにいた。

少し強めに吹く風が数え切れない程の薔薇とわたし達の髪を揺らす。
驚きを湛えた彼の黒い瞳が風になびく前髪で見え隠れした。

「……黎月に言いたいことがあるの」

「…え?」

「あの、ね…ありがとう……っわ!?」

黎月の瞳を真っ直ぐ見つめ、一言だけそう言うと強い力で引き寄せられ、わたしの身体は黎月の腕の中にすっぽりと収まった。

「な、なっ!?」

こういうことをされたのは初めてで、わたしはひどく驚き、彼の腕の中で暫く意味のない声を出し続けた。

顔を上げれば、すぐ近くに黎月の顔が見え、顔に熱が集まる。

「……芽依…」

ぎゅうっと苦しいくらいに強く抱き締められる。

「…く、苦しいよ、黎月」

「わ、悪ぃ…!」

本当に苦しそうにそう言うと腕の力はすぐに緩められた。だけど、放してくれる気はないようだ。

「……芽依が大人になっても俺らはあんたの側にいるから。だから…」

不安げに揺れる黒い瞳。その瞳からわたしは黎月の言いたいことがわかった。

「忘れないよ。黎月のことも、皆のことも」

わたしがそう言っても、まだ不安げな黎月。無理もないだろう。絶対に忘れないなんて保証はどこにある?

保証なんてどこにもない。どこにもないけれど、わたしは彼らを忘れない。決して忘れたくない。

「絶対に忘れないから」

わたしはポケットの中に入れていたあるものを取り出し、それを黎月の前に掲げ、笑顔を見せた。
その“あるもの”とは黎月から貰ったあのオルゴール。今、わたし達がいるこの場所で受け取ったものだ。

「…ああ、あんたが忘れないでいてくれるって信じてるよ」

黎月はわたしの背中に回していた腕の片方をわたしの前に持っていき、手首にはまったブレスレットを見せ、ぎこちない笑顔を浮かべた。

黎月がわたしに見せたブレスレットはわたしが初めて稼いだお金で買ったもの。

お互いにプレゼントを見せ合い、わたし達は小さく笑い合った。

さぁ、そろそろ帰る時間が訪れる。

わたしはもう一度『ありがとう』と言うと静かに目を閉じた。
黎月の温もりが少しずつ消えてゆく。最後に彼がわたしの名を呼ぶ声が聞こえた気がした。






 †


次に目を開けた時には、そこは自分の部屋だった。黎月達の屋敷で使わせて貰っていたあの部屋ではなく、たくさんの人形が飾られたわたしの部屋。

――戻って来たんだ、元の世界に。

わたしは椅子に座り、膝の上には開いたままの本が乗っていた。

そう、あの日、本を読みながら眠ってしまい、目が覚めた時にはあの国にいた。

どのくらい時間が経ったのだろうか、と時計を見やるとあれだけの日数を過ごしたにもかかわらず、時間はほんの数時間しか進んでいなかった。

一瞬、夢だったのだろうかと思った。
だけど、あの日々が夢ではなかったという証がここにある。わたしの手に握られたオルゴール。それは紛れもなく黎月から貰ったもの。このオルゴールが夢でなかったことを確かに証明してくれている。

わたしは膝の上の本を閉じ、椅子から立ち上がった。

その時、ふと目に留まった黒猫のぬいぐるみ。
わたしは首に赤いリボンを巻いたそのぬいぐるみをそっと抱き上げた。



決して忘れない、貴方達のことを。



心配しないで、わたしはもうひとりで歩いていけるから。



優しく見守っていてくれる?わたしが大人になったとしても。



ありがとう。
心から送るこの言葉。


見苦しい点も多々あったと思いますが、ここまで呼んで下さり、ありがとうございました。













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