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終わりなき夢を君に捧ぐ─World of the doll─
作:有栖川 咲



20.真実



「舞……いいえ、芽依。真実はすぐそこに。さぁ、選ぶのは貴女よ」

選ぶまでもない。わたしの答えは決まっている。

「……教えて、全てを」

「マイマスター、貴女が望むなら」

全てを受け入れる覚悟?そんな大層なもの持ち合わせてない。ただ、知りたいの。本当の自分を。






 。*゜★。*゜


何から話しましょうか?わたし達が貴女のことを知っている理由?そうね…。じゃあ、この国のことから話しましょう。

少女は誰でも自分だけの世界を持っているの。少女の頃だけ訪れることを許された人形の国。大人になるとその国での記憶が曖昧になり、誰もが夢だったと思い込むことから“夢の国”なんて呼ばれているわ。ここは無数に存在する夢の国のひとつ。そして、わたし達は貴女のお人形。

ドールの持ち主である少女はそのドール達が暮らす夢の国の主でもあるわ。わたし達は自分の主をマスターと呼ぶの。マスターは絶対の存在よ。その世界の全てなの。

貴女がわたし達のマスター。ここは貴女のためにだけ存在する世界。

わたし達はずっと貴女の側にいたわ。人形としてずっと貴女の側に。これが貴女のことを知っている理由よ。わかってくれたかしら?そう。それじゃあ、そろそろ本題に入りましょうか。貴女の過去をお話しするわ。


貴女は自分の名前を捨てたの。無意識の自己防衛だったようね。

事故が起きたあの日、貴女は自分を責めた。本当は自分が死ぬはずだったと。彼女を失うことになったのは自分のせいだと。

その日以来、貴女は彼女の名を名乗った。双子の姉の名を。“芽依”の存在を消し、“舞”になろうとした。

どこへ行くのも、何をするのも一緒だったとても仲の良い双子の姉を失ったんだもの。ショックは他人にはわからない程大きかったはずだわ。
これはそのショックから自分自身を守るための自己防衛。無意識に行ったこと。貴女は自分の名と双子であったことを忘れた。自分を責めることはないわ。こうしなければ貴女は壊れていたかもしれない。

貴女は自分の名を捨てたあの日からこの世界との繋がりを切った。ここは“芽依”の世界、“舞”の世界じゃないから。

貴女が再びここを訪れてくれる可能性は低かったわ。だけど、もし貴女がもう一度ここに来てくれたならその時は、わたし達は貴女を“舞”として迎えることに決めたの。貴女が真実を望むまで。






 。*゜★。*゜


わたしは黙って姫桜の言葉のひとつひとつを聞いていた。一言も聞き漏らすことがないように。

姫桜が話し終えると部屋は静寂に包まれた。

――全てを知った今、わたしはどんな表情をしているのだろう?

静かな時間が過ぎてゆく。ここにいる誰もが一言も発しない。



 カチカチカチカチ



突如、静寂を破ったもの、それはあの懐中時計。

止まっていたはずの針が再び動き始めた。ただ今回は先程のように逆回りではなく、正常な方向に。


「く、黎月……っ?」

黎月は突然、ガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がり、そのまま部屋から出て行ってしまった。

バタンと乱暴にドアが閉められ、黎月の姿は完全に見えなくなった。

「……?」

黎月の行動が理解できないわたしは、ただ呆然と彼が出て行ったドアを見つめた。

「……全く、黎月ったら…」

姫桜は呆れたようにドアの方を見やった。その時、彼女の薄紫色の瞳に同情のようなものが見え隠れしていたように感じたのはわたしの気のせいだったのだろうか?


また、暫しの沈黙が訪れた。その間も懐中時計は止まることなく時を刻んでゆく。部屋に響くのは懐中時計の音だけ。
耳障りなその音はまるでわたしを急かしているかのようで──。


「芽依、黎月を追ってあげて下さい」

今までずっと黙っていた真白が突然口を開き、真剣な表情でそう言った。真白があまりにも真剣なことと状況がいまいち理解できないこととでわたしは少したじろいた。

「貴女が帰る時が近づいているんです」

「……え?」

「さっき言ったでしょう?ここは少女のための世界だって。17歳は少女から大人へなる時期。貴女は大人に近づいているの。貴女が“舞”として生きている間は“芽依”の時計は止まっていたわ。だから、貴女はここにいられた。だけど、時計は動き出してしまったわ。もう帰らなくてはならない。そして、もう二度とここに来ることはできないでしょう」

「黎月は貴女に初めて贈られたぬいぐるみだったんです。だから、他の誰よりも長い間芽依の側にいました。僕らも貴女との別れはつらいですが、一番つらいのは黎月でしょう。追いかけてあげて下さい」

わたしは小さく頷き、立ち上がった。姫桜と真白に背を向け、ドアに向かう。

ドアのところまで行くと振り返り、精一杯の笑顔でこう言った。

「ありがとう。皆のこと忘れないから」

彼らも笑顔を返してくれた。でも、その笑顔はどことなく悲しそうで……。

わたしは再び彼らに背を向け、廊下を駆け出した。












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