17.夢
可愛らしいぬいぐるみやビスクドール。部屋のあちこちにたくさんの人形が置かれている。
――わたしの部屋…?
この部屋の主であろう少女は椅子に腰掛け、手の中にある黒猫のぬいぐるみを優しく撫でた。
――あれは…わたし?
少女は髪を結っていた真っ赤なリボンをはずし、黒猫のぬいぐるみの首に結び付けた。
真っ黒だった猫に色がつく。
「こんなもんかな」
リボンを整え終えると少女は満足げな柔らかい笑みを浮かべた。
コンコン
不意に誰かが扉を叩いた。
少女の『どうぞ』という声を合図にガチャリと音を立てて扉が開いた。
姿を見せたのは、この部屋の主である少女ととてもよく似た容姿を持つ少女。
その少女もまた、赤いリボンで髪を結っていた。
――あの子は…誰?
「そろそろ行こう」
「うん」
少女は椅子から立ち上がり、代わりに黒猫のぬいぐるみをその椅子の上に置いた。
髪を結っていた赤いリボンは黒猫のぬいぐるみの首に結び付けてしまったので、代わりに桃色のリボンを引き出しから引っ張り出し、それで髪を結んだ。
少女達はその部屋を後にし、玄関へ向かった。
玄関の扉を開けるといつもより少しだけ強い風が少女達の長い髪を揺らした。
たわいないお喋りをしながら歩いて行くとやがて、交差点にさしかかった。
少女達は立ち止まり、信号が赤から青に変わるのを待った。
信号が青に変わり、桃色のリボンの少女が足を踏み出した。
――お願い。これ以上見せないで…!!
。*゜★。*゜
「いやああぁあぁぁ!!」
ガバッと布団をはねのけ、勢い良く起き上がった。
じっとりと汗が滲み、頬には涙の痕が残っている。
今の夢は何?
わからない。
思いだそうとすると頭の奥にズキリとした痛みが走った。
「――舞ッ!?」
バンッと勢い良く扉が開き、黎月が飛び込んで来た。
「何かあったッ!?」
黎月の表情には驚きと心配が入り混じっている。
きっとわたしの声が聞こえたんだろう。
あれだけ大きな声で叫べば誰だって驚く。
「…何でもないよ」
心配をかけたくないと思い、誤魔化そうとしたら笑顔が引きつってしまった。
そのせいで却って黎月を心配させてしまったようで、本当に?と真剣な顔で覗き込まれた。
「ちょっと怖い夢を見ただけ。それだけだから。本当に何でもないよ」
精一杯の笑顔で言ったはずだけど、ちゃんと笑えた自信がない。
それに今のわたしの状態で何でもないというのは少々無理がある。
じっとりと滲む汗。頬に残る涙の痕。そして、部屋の外にまで聞こえる声で叫んだのだ。
これで怖い夢を見ただけなんて誰が思う?
「……そっか。夢なんか気にすんなよ。そんなのさっさと忘れちまえ」
黎月はわたしの頭をくしゃりと軽く撫でた。
更に理由を追及されるかと思ったけど、意外にもそれ以上は何も聞かれなかった。
†
舞が夢を見た。
勿論ただの夢じゃない。
あれは彼女の忘れられし過去。
舞の本能が真実を求めている。
「そろそろだとは思っていましたが……」
「もうすぐ時間のようね」
俺達は舞を部屋に残し、今朝のことについて話していた。
動揺を隠しきれない俺と違い、姫桜と真白は冷静だった。
「何も知らないままここにいる方が舞のためだ。そうすれば、傷つかなくて済む……」
俺はポケットから懐中時計を取り出し、それを強く強く握り締めた。
「黎月、それはあの子が決めることよ」
俺の手の上に、正確に言えば懐中時計の上に俺を宥めるように姫桜の小さな手が重ねられた。
「わたし達はドール。優先すべきはマスターの意志。貴方もわかってるでしょう?」
俺を見上げる少女は表情も変えずに淡々と話し続ける。
「でもよ……っ!」
「あの子が決めることよ」
俺の言葉は姫桜に遮られた。もう一度繰り返されたその言葉はグサリと俺に突き刺さる。
そんなことわかってる。わかってるから何もできない。それがもどかしく感じるんだ。
俺は下唇を強く噛み締め、俯いた。
舞、あんたはどっちの道を選ぶんだ?
|