16.アルバイト
「「「バイト?」」」
三人の声が綺麗に重なり合った。
今、屋敷の庭にあるティーテーブルで黎月、姫桜、真白、わたしの四人はお茶会をしている。
そんな中、わたしが発した一言。
【バイトがしたい】
それを聞いた三人は不意を突かれたような顔をした。
これは前々から考えていたことだった。
この屋敷に住まわせて貰い、随分と豪華な食事まで食べさせて貰っている。その上、姫桜から結構な額をお小遣いとして貰っている。
かなりのお金持ちだってことはこの屋敷と庭を見れば、庶民のわたしにだってわかる。
住み込みではないけど、家政婦も雇っているみたいだし。
お金には困ってないんだろうけど、お世話になりっぱなしじゃわたし自身が気になるし、落ち着かない。
だから、どこかでバイトを募集してないか探してみたけど、なかなかいい所が見つからなかった。
そこで、皆が揃っている今がいい機会だと思って、バイトのことを聞いてみた。どこかいい所を紹介して貰えるんじゃないかと思ってね。
「なんでまた行き成り?」
姫桜は優雅に紅茶を飲みながら不思議そうに聞いてきた。
「やっぱりお世話になりっぱなしていうのも……ね」
「そんなこと気にしなくていいのよ?」
「そうだぜ。気にする必要なんてねぇよ」
「でも、わたしが気になるのよ」
皆がそう言ってくれたとしてもやっぱり気になるものは気になる。
「だから、どこかいい所知らない?」
自分勝手な理由かもしれないけど、やっぱり働きたい。
「舞が働く必要ねぇって」
「大した稼ぎのない黎月がよく言います。でも、その通りです。舞が働く必要なんて全くありませんよ」
にっこりとわたしに笑いかけながら真白はさらりと酷いことを言った。
「なッ!お、お前なんて酔って暴走して前の職場、首になったくせに!」
黎月はビシッと真白を指差し、反撃に出た。
「あぁ、そんなこともありましたね。でも、その日の内に別の仕事を見つけたのだから問題ないでしょう?そんな負け惜しみを舞の前で言わないで下さい。舞が誤解したらどうするんです?」
にっこりと笑ったままの真白。だけど、目は笑っていない。こういう時の彼は、はっきり言って怖い。
「ま、負け惜しみじゃねぇ!ていうか、誤解もなにも事実だろ、じ・じ・つ!」
「何を言ってるんです?負け惜しみでしょう?」
「お、俺だってやればできるんだッ!」
「じゃあ、僕より稼いできてみたらどうです?」
「うッ……!」
黎月は頑張って言い返しているけど、少々押され気味だ。
そもそも、この屋敷の人達ってどんな仕事をしているんだろう?
ギャーギャーワーワーと言い争いは続き、わたしは完全に置いてかれてしまった。
「単純でバカな黒猫にそんなこと言われたくないです!」
「なんだとッ!腹黒白兎!!」
言い争いの内容はどんどん逸れて、今では最初の内容と全く違うものになっていた。
――こんなつもりじゃなかったのに…。
この様子じゃ彼らの頭の中から『バイト』のことは綺麗サッパリ消えていそうだ。
「うるさいわ!少し静かにして頂戴ッ!」
今までずっと黙っていた姫桜がピシャリとそう言うと騒がしかった黎月と真白は一瞬の内に静かになった。
「「すいません」」
縮こまって謝る彼らを見て、この中で一番強いのはやっぱり姫桜だと改めて思った。
「舞、バイト先のことだけど、適当に知り合いをあたってみるわ」
「本当?ありがとう!」
†
翌日、わたしのバイト先が決まった。
それは、月華と茉莉花のブティック。
「あの子達、二人でお店やってるでしょう?今までは二人でもどうにかなっていたみたいだけど、最近は忙しくて人手が足りないみたいなの。舞のことを話したら喜んで承諾してくれたわ」
「ありがとう!やっぱり姫桜が一番頼りになるよ。ほんとにありがとう!」
何度も『ありがとう』と言いながら姫桜の小さな手を握ると彼女は小さくはにかんだ。
「月華達のところに挨拶にでも行って来たら?明日から早速、お願いしたいみたいよ」
「じゃあ、行って来るね!」
姫桜に手を振り、わたしは屋敷を飛び出した。
ブティックに向かうわたしの足取りはとても軽かった。
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