13.黒猫からの贈り物
暖かい日差しが降り注ぐ中、わたしは黎月と薔薇園のベンチで過ごしていた。
風が運ぶ薔薇の香りが、わたしの鼻を擽る。
薔薇園には何度か足を運んだけど、以前のようなことは、初めてこの場所に来た時以来、一度も起きていない。
今では記憶すら曖昧で、あの日の出来事は現実に起きたことではなく、夢か何かだったのではないかと思う時さえある。
「気持ちいいなぁ」
黎月が両手を上に挙げ、思いっきり伸びをした。
「そうだね」
わたしも黎月と同じように両手を挙げて大きく伸びをする。
何をするでもなく、のんびりと過ごす。
わたしはこの時間が好きだ。ゆっくりと流れるようなこの時間が。
「なぁ、舞」
「ん?」
黎月に呼ばれ、パッと振り向くと目の前に可愛くラッピングされた小さな箱が差し出されていた。
「プレゼント」
黎月は一言そう言うと、にっこり笑って、わたしにそれを手渡した。
「開けてみて」
「うん」
リボンを解き、そっと包み紙を開ける。
「わぁ、可愛い」
中から出てきたのは小さなオルゴール。薔薇の装飾が施されていて、とても可愛い。
オルゴールの蓋を開くと優しいメロディーが流れた。それはわたしの耳を心地よく刺激する。
「気に入った?」
黎月がわたしの顔を覗き込み、そう聞いてきた。
笑みを浮かべ、小さく頷くと黎月も嬉しそうに笑った。
「それにしても、行き成りどうしたの?」
黎月からプレゼントを貰ったのは、これが初めて。今までプレゼントを貰ったことなんて一度もなかった。
今日はわたしの誕生日って訳でもない。だから多少、疑問に思うのは当然でしょ?
「この前、街で見つけたんだ。あんたが好きそうだと思ってね。ただそれだけ。特に深い意味はないよ」
確かに、このオルゴールはデザインもメロディーもわたし好みだ。
突然のプレゼントで驚いたけど、それ以上に嬉しい。
何よりもわたしの好みを考えて選んでくれたということが嬉しかった。
「ありがとう、黎月。大切にするね」
そう言うと、黎月は、はにかんだように笑った。そんな彼を見たのは初めてで、なんだか可愛く見えた。
†
「ふあ〜」
黎月が大きな欠伸を零した。
わたしも釣られて欠伸をする。
ぽかぽかの陽気の中で寛いでいたら段々、眠くなってきた。
「なぁ、向こうの木陰で昼寝でもしない?」
「いいね、そうしよ」
「じゃあ、行こうぜ」
わたし達は移動するために立ち上がった。
ゴトッ
その時、黎月のポケットから何かが転がり落ちた。
「ん?」
見るとそれは細い鎖が付いたアンティークの懐中時計。
わたしはそれを拾おうとしゃがみ、手を伸ばした。
が、わたしが触れるよりも早く、黎月がそれを乱暴に拾い上げ、ポケットに押し込む。
黎月はひどく慌てた様子で、わたしはそんな彼に訝しげな視線を向ける。
黎月はわたしの視線に気付いたようで、取り繕おうと笑顔を見せたが、その笑顔はぎこちなく、明らかに動揺していることが見て取れた。
「黎月、それは 「は、早く行こうぜ」
何?と言う前にわたしの言葉は遮られた。
黎月はくるりと方向転換し、わたしに背を向け、歩き出す。
「ちょっと、黎月!」
「ほら、早く」
振り向きはするものの、足は止めない。
止まる気はないようだ。
ここに突っ立っていても仕方がない。
わたしは小さく溜息をついた。
オルゴールをポケットにしまい、彼の後を追う。
目的の場所まで残り50メートルくらいのところで黎月に追い付いた。
横に並んで歩きながら懐中時計のことをもう一度聞いてみる。
が、はぐらかされた。
懲りずにもう一度聞いたけど、結果は同じ。
自分でもしつこいと思いながら、意地になって、もう一度聞く。
目的の場所に着くまで何度も聞いてみたけど、悉くはぐらかされてしまった。
そんなこんなで目的の場所──庭で一番大きな木の下に着いた。
黎月は早速、昼寝の体勢に入ろうとしている。
懐中時計のことは諦め、わたしも今は昼寝を楽しむことにした。
ごろんと芝生の上に寝転び、ポケットからオルゴールを取り出す。
蓋を開ければ、心地よいメロディーが流れ出す。
優しいメロディーを聞きながら、わたしは深い眠りに落ちていった。
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