12.貴女のために
「舞、後ろ向いて貰ってもいいかしら?」
「うん」
わたしはくるりと回り、後ろを向いた。
「ここのフリルをひとつ減らした方がいいんじゃない?」
「そうだねぇ。ここにリボンを付けるのはどうかなぁ?」
「そうねぇ。舞、もう一回、前向いて」
言われた通りに、前を向く。
えっ?何をしてるのかって?
実は今、モデルをしているんだ。
モデルっていってもファッションショーに出たり雑誌に載ったりするような、そういう凄いのじゃなくて、月華と茉莉花の新作の試着係みたいなもの。
なんで、こんなことしているかって?
それは、二時間前に遡る──。
。*゜★。*゜
わたしが物凄く暇そうにしていると、それを見かねた姫桜が声をかけてきた。
「舞、お使いを頼んでもいいかしら?」
姫桜に頼まれたお使いの内容は、月華と茉莉花のブティックに注文していた品を取りに行くこと。
余ったお金は好きに使っていいから、と商品の代金を遙かに上回るお金を渡され、それを持って、わたしは街に向かった。
これは姫桜なりの優しさだったみたい。
わたしは無償で何か買って貰うことを気にしていた。
そのため、お金を持っていないわたしは街に買い物に行くことなんて、ほとんどなかったのだ。
そのことを知っていた姫桜は、お使いと称して、わたしを買い物に行かせてくれようとしたみたい。
ブティックに着くと、月華と茉莉花が何やら話し合いをしていた。
その話し合いの内容が今度出す新作について。
「あっ、舞。丁度いいところに来てくれたわ」
「新作の試作品を実際に着て貰いたいんです〜」
。*゜★。*゜
という訳で、今に至る。
「次はこれをお願いします〜」
「はーい」
茉莉花から渡された服を持って、試着室に入る。
カーテンを閉め、綺麗に畳まれた服を広げた。
「わぁ……」
――可愛い。可愛いけど…。
可愛い過ぎて着るのが恥ずかしい。
フリルやレースがたっぷり使われた乙女チックなフリフリドレス。
――衣装みたい…。
さっき着ていた服もフリフリしていたけど、これはその上をいく。
そっと腕を通し、鏡に全身を映した。
着心地は、なかなかいい。
でも……
「服に負けてる気がする…。」
想像はついたけど、やっぱりショックだ。
ひとり、ガックリと肩を落とす。
きっと、姫桜なら似合うんだろうな。姫桜だけじゃなくて双子や雛菊、勿論、月華も。
彼女達の私服は、わたしが今、着ているようなフリルやレースがたっぷり使われたドレス。
勿論、服に負けているなんてことはなく、皆、バッチリ着こなしている。
──って、ビスクドールと比べてどうする、わたし!!
あの子達は人形なんだからフリフリのドレスが似合うのは当たり前じゃないか!!
「舞、まだかしら?」
いつまでも試着室の中にいると、月華の待ちくたびれたような声が聞こえた。
せっかちな彼女は待たされるのが大嫌い。
わたしは急いで試着室のカーテンを開けた。
「あぁ、似合います〜。舞は何を着ても似合いますねぇ」
茉莉花がわたしに近づき、よれたリボンを整えながら、誉め言葉を並べる。
「お世辞をありがとう、茉莉花」
「お世辞じゃないですよ〜」
せっかく誉めてくれたのに、こんなことしか言えないわたしって、ひねくれ者なのかな。
二人は話し合いを始め、わたしは彼らの指示通りに動く。
後ろを向いたり、腕を上げたりと単調な動きの繰り返し。
「ありがとう。次はこれをお願い」
また、新しい服を渡された。
――いつまで続くんだろう…。
これで10着目。嫌な訳じゃないけど、そろそろ疲れてきた。
そんな気持ちが顔に出てしまったのか、これで終わりよ、と月華が苦笑いを浮かべた。
渡された服を抱え、もう一度試着室に入る。
今度の服は、シンプルで大人っぽいワンピース。
――わぁ、可愛い♪
今、着ている服も可愛いけど、これくらいシンプルな方が好き。
さりげなく付けられたサテンのリボンが、大人っぽさの中に可愛さもプラスしている。
ワンピースに着替え、試着室から出ると、先程と同じように茉莉花にこれでもかってくらい誉められた。
何を着てもわたしを誉める茉莉花。
さっきまでは、『お世辞をありがとう』と可愛げのないことを言っていたけど、ここまで来ると、もう苦笑いしかできなかった。
「ちょっとシンプル過ぎるかしら?舞はどう思う?」
10着目にして初めて意見を聞かれた。
「そんなことないと思うよ。わたしはこういうの好きだなぁ。とっても可愛い」
──って、わたしが好きとか関係ないよね。せっかく意見を聞いてくれたのに、こんなのじゃ役に立たないかも…。
「そう?じゃあ、これはこのままでいいわね」
勝手に落ち込んでいたわたしは、月華の意外な発言に目を丸くする。
「この服は舞のためにデザインしたものなんです〜」
「えっ!?」
茉莉花の言葉がわたしを更に驚かせた。
「そういうことよ。貴女が好きって言ってくれるなら、デザインを変える必要はないわ。お疲れ様。その服は協力してくれたお礼よ。受け取って」
「わぁ、ありがとう!」
結局、買い物はできなかったけど、こんなに素敵なワンピースをプレゼントして貰えて大満足。
自分のために服をデザインして貰えるなんて、滅多にないことだ。
貰ったワンピースと姫桜に頼まれていた品を抱え、わたしは上機嫌で屋敷に戻った。
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