終わりなき夢を君に捧ぐ─World of the doll─(11/23)縦書き表示RDF


前回の続きです。

今回の話は途中から視点が変わります。最後だけ、黎月視点です。
終わりなき夢を君に捧ぐ─World of the doll─
作:有栖川 咲



10.赤いリボンの理由



「く、黎月…?」

時が止まってしまったかのように彼は動かない。

わたしは黎月の腕の中に閉じ込められたまま。

彼の表情を窺うことは出来ない。


――貴方は今、何を考えているの?


「黎月?」

もう一度、彼の名前を呼んだ。

今度は少しだけ腕の力が緩んだ。


「落ち着いた、舞?」

わたしの顔を覗き込み、いつもの笑顔を見せる。

「へ?…う、うん」

「そっか」

わたしはやっと彼の腕の中から解放された。

声もいつもの調子に戻っている。

さっきまでの黎月は、明らかに、いつもと違う様子だったのに……。

いくら見ても、わたしの瞳に映るのはいつもと変わらない黎月で──。

黎月は何か隠しているんじゃないか。
そんな考えが頭によぎり、わたしは彼を見上げたまま、ピタリと動きを止めた。

そんなわたしを見て、黎月も動きを止める。

自身の瞳に互いの姿を映したまま、わたし達はどちらも動かない。

お互い、何も喋らず、静かな時間が過ぎて行く。

全てのものの時間が止まてしまったかのように、何も動かない。何も聞こえない。



「なぁ、ベンチにでも座ろうぜ。疲れただろ?」

沈黙を破ったのは黎月。
この雰囲気を打ち破るかのように明るい声でそう言った。






 †


わたし達は薔薇園に備え付けられているベンチに移動した。


それにしても、あれは何だったんだろう。

わからない。だけど……
怖かった。
悲しかった。
苦しかった。


あの時、黎月が呼んでくれなかったら──。



「舞、どうしたの?考え事?」

「…えっ?ううん、何でもないよ」

『そう?』と聞いてくる黎月の瞳は、僅かだけど、不安そうに見える。あの時と同じように。


「何でもないから」

明るい声でもう一度『何でもない』と繰り返した。

にっこり笑う。彼の不安を取り除くように。


さっきのことを考えるのは止めよう。

きっと考えない方がいい。そう、自分に言い聞かせる。

何か関係のない話でもして、気を紛らわそう。



「ねぇ、その首に巻いてあるリボン、外したら?」


「……はぁ?」

混乱中の頭で精一杯考えて、出た言葉がこれ。

行き成り、素っ頓狂なことを口走ったわたしに黎月が訝しげな目を向ける。

自分でも、なんでこんなこと言ったのか、よくわからない。

とにかく何か気の紛れる話を、って思って考えた結果、口から出た言葉がこれだったんだ。


「…なんで?しかも、行き成り過ぎるだろ」

「いや、似合わないなぁ、と思って…」


あっ……つい、本音が……。

パッと口を押さえるも、時すでに遅し。
言ってしまった言葉は戻らない。

「…ひっでぇ」

「ご、ごめん…」

俯くと、ぽんっと頭に手が置かれた。


「いいよ、知ってるから」

黎月の思いがけない言葉に、わたしは目を丸くする。

「……えっ?」

「自分でも似合ってないって知ってるんだ」

肩を竦め、苦笑いする。

「でも、これは外さない」

「なんで?」

「これは、大切なものなんだよ」

黎月は話しながら、首に巻かれたリボンの端をくるくると指に巻き付けている。

「これは、──が巻いてくれたものだから」

――えっ…?

黎月の声は小さく、一番大事な部分が聞き取れない。

――貴方は今、誰の名前を呼んだの?


「なぁ、そろそろ屋敷に戻ろうぜ。肌寒くなってきた」

日が沈みかけ、辺りは薄暗くなってきた。
少し肌寒さを感じる。

もうすぐ、夕空から星空へ変わる。

「ほら」

黎月はわたしに手を差し出す。

「うん」

わたしは黎月に手を引かれながら、屋敷への道を歩いた。






 †


俺は部屋に入ると、明かりもつけずにベッドに突っ伏した。

柔らかい枕に顔を埋める。

月明かりが差し込み、部屋の中は仄かに明るい。


「……はぁ」

今日のことが頭の中を駆け巡る。



 思い出さないで。



 忘れたままでいて。



 何も知らないまま



 ずっとここに──。



 それが、君の幸せ。












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