あたしの名前は、夕月 春華。かなり男勝りな中学3年生。
もう卒業間近だけど・・・。
あたしは珍しく早く学校に登校して、ある人物の席に座り、愛する姫紗と話をしていた。
「おい、コラ」
頭上から明らかに不機嫌な声が降ってきた。
「あ、亮。オハヨ」
不機嫌な声の主は、この席の主でもある矢吹 亮だ。
顔はかなりカッコよくて、すごくモテる。しかも成績も良くて、スポーツも万能。
自分でモテることを知っているから、かなり態度がデカイ。しかもかなり、いや相当口が悪い。
口が悪いのは、皆に対してじゃなくあたしに対してだけだ。
今でこそわりと仲良く?話したりしているが、出会ったばかりのときは何度もそこはかとない殺意が芽生えた。
「オハヨ、じゃねえ!そこは俺の席だろうが!」
どうやら亮サマ、あたしが勝手に席に座った事にご立腹のご様子。
「いいじゃん!ケチだなぁ!だってここが姫紗の席に一番近いんだもん!」
キレられるのはいつものこと。
だから、あたしも負けずに反撃する。
「テメェなんて座らずに立っとけ。このタコ!」
額に青筋を浮かばせながら、亮サマ殺人光線をあたしに向けてきた。
かなり劣勢になってきたあたしを助けてくれたのは、女神・姫紗だ。
「まぁまぁ、ケンカしないでよ。二人とも。ほんっとに仲が良いんだから!」
助けてくれたのは嬉しいけど、最後の一言が余計だ。
「何言ってんの、姫紗!あたしはあんた一筋なの!」
そういって、あたしは姫紗を抱きしめた。
姫紗は亮と同じあたしの親友(といっても亮は微妙・・・)。
可愛くて、男子からの人気が高い。
でも、そんな害虫どもをのさばらせておくほどあたしは甘くない。
言い寄った奴は、即抹殺!
ちゃっかりそれには亮も加わる。
だから、あたしが思うに亮も姫紗が好きなんじゃないか・・・?
あたしがそれを姫紗に言うと、姫紗は笑いながらそれはないよ、と言った。
そして、その後に
「亮、かわいそう」
とも言った。
どういう意味?なんであの捻くれ亮サマがかわいそうなの?
まぁ、いっか。
結局あたしは亮に床に投げ出され、姫紗の隣の席を奪われた。
しかも、あたしを投げたときのアイツの顔!
言葉に表すと、フフンって顔。
もうムカつく!
「オラ、席つけ。ガキども」
そう言って、乱暴にドアを開けたのは担任の明津 直人先生だ。
若くて、カッコよくて女子生徒に大人気。
授業も面白くて、あたしも亮も姫紗も大好きな先生だ。
「おっはよ〜!アク〜!」
あたしはそう言って、アクに抱きついた。
それはあたしの日課だった。
このクラスでは明津先生のことはアクと呼ばれている。
最初にあたしが、
「明津先生なんて言いにくい!アクでいいじゃん!」
って言ったのが始まり。
それ以来、アクは文句を言いつつもちゃんとアクで返事をしてくれる。
「こら、春華。アク、じゃねぇアク様と呼べ」
「ハハハッ!無理!そんなこと言ったら、あたしの口がどうにかなっちゃうよ!」
「失礼な奴だな。しかも、お前朝から五月蝿い」
「あ、ひどいアク」
「おい、亮。この五月蝿い奴を回収に来てくれ」
「チッ!なんで俺が・・・」
「文句言わない!ほら、早く!」
アクに急かされて、亮は文句を言いつつも渋々とあたしの首根っこを掴んだ。
そして、引き摺る。
「ちょ、亮!まだいくらでも掴むトコはあるでしょうが!しかも、苦しい!ギブギブ!」
「うるせぇ、俺の手を煩わせた罰だ」
「もう!アクも姫紗も助けてよ!」
だが、アクはニヤニヤと姫紗はクスクスと笑って、一向に助ける気配を見せない。
「もういいよ!!」
あたしはそう言うと、亮の手を捻って、その手から逃げ出した。
「いってー!馬鹿春華!てめぇ、何してくれんだよ!」
「あたしを引き摺った罰だよ〜!」
そういって、あたしはアッカンべーをして、逃げた。
鬼のような形相で追ってくる亮をクラスメイトを盾にして、逃げていく。
そんな追いかけっこが数十分ほど続いた。
追いかけっこを止めさせたのは一応、担任のアクだった。
「いい加減にしろ。仲が良いのは分かったから!」
あたしと亮はぴったりと合った息で、反論を始めたが、とうとうアクがキレてあたしたちはコソコソと逃げるように席に戻った。
「亮のせいだ!」
「お前のせいだろぉが」
再びそんな喧嘩が始まったが、アクのチョーク連発攻撃で、あたしたちは黙った。
クラスメイトからは笑われ、アクにはキレられ・・・。
災難だが、これがあたしの日常だ。
ホームルームもそろそろ終わり。
アクは最後に今日の日程を告げた。
「今日は、卒業式の練習とちょっとした進路の面談があるからな。あ、ちなみに面談は春華と亮と姫紗だけ」
「はぁ〜?!なにそれ!」
「はぁ〜?!じゃねえ!お前ら、受けた高校3つとも受かってんじゃねえか!私立!それのどこに行くかを今日俺と決めなきゃなんねえんだよ!お前らの親に頼まれてんだから!」
あたしたちの親は結構、そういうところは適当だ。
だから、どの高校にも行っていいとあたしたちは言われている。
だが、まさか今日最終決断をしなきゃなんないだなんて!
あたしたちの反論も空しく、アクは一応ホームルーム終了の挨拶をして、出て行った。
ちなみにあたしたちはこの県でトップ3の頭脳を持っている。
トップは悔しいけど亮。
次があたし。
そして、その次が姫紗だ。
あたしたちは三校の私立を受けた。
かなり優秀な生徒ばかりが集まる名高い高校ばかりだ。
そのうちの一校は日本トップの学校だったりする。
あたしたちは見事、その三校に合格した。
ひとつの高校に至っては、特待で受かってしまった。
あたしたちの家は裕福ではないけれど、貧乏でもない。
だから、どの高校に行ってもいいのだがあたしたちには夢がある。
その夢を叶えられる学校に行く。
それを参考にして選び出したのが、見事合格した3校なのだ。
あたしの夢は医者。亮の夢も医者。姫紗の夢は・・・実は知らない。
姫紗は教えてくれないのだ。
恥ずかしいとか言って。
夢が実現したら教えてくれるという約束だ。
でも姫紗が行くと言っている高校はあたしが行きたい高校と違う。
だから、あたしたちは別々の学校に行くことになるだろう。
でも、あたしたちの友情は無敵。
だからなにも心配しない。
そんなに離れているわけでもないし、会おうと思えばいつでも会える。
けれど、問題は亮だ。
亮とあたしは同じ夢だけど、私が考えている進路と亮が考えている進路は違う。
亮の家はもともと病院だから、亮は高校までは普通科に言って、卒業してから大学なりなんなり言って、医師免許をとるそうだ。
でもあたしは高校を卒業したら外国で医学について勉強したいと思っている。
だから、あたしたちがどうなるのかはまだ分からない。
亮に同じ高校に行こうなんて言ったって、
「は?おまえ、ウザい」
の一言で片付けられそうだし・・・。
そして、時間は経ち、あたしたちは進路相談室というなにもない殺風景な部屋に呼ばれ、
冷たいパイプ椅子に座らされ、アクと面談することになった。
この時間までにどこへ行くか決めろと言われていたので、あたしは悩んだ結果、一番レベルの高い蓬印高校に行く事にした。
亮も姫紗も決めたようだ。
「んじゃ、春華お前からだ。どこ行く?言え」
「あたし蓬印行くよ!」
「ん、あぁそっか。よし、俺、説得せずにすみそうだな。じゃあ、次」
「俺は、天未に行く」
「あ゛ぁ?!お前も蓬印じゃねえのか?!」
「いや、俺は天未に行く。蓬印じゃあ、息抜きができねえし、息が詰まって死んじまうよ」
「そっか・・・まぁ、天未も蓬印ほどじゃねえがレベルはそれなり高いしな。まあ、いいだろ。
じゃあ、最後、姫紗」
「あたしの進路は知ってるくせに・・・。一応、水葉高校に行くよ」
「え゛っ!アク、知ってるの?!」
「ん・・・まぁな」
「教えてよ〜」
「あ〜うるせぇ。黙ってろ」
「だって・・・亮・・・」
「じゃあ、もうこれでいいんだな?」
「ああ」
「いいよ」
アクも亮も姫紗も見事にあたしをスルーした。
あたしもこれ以上は取り合ってもらえないと思い、渋々と頷いた。
「分かった。じゃ、もう行っていいぞ」
アクに言われて、あたしたちは進路指導室をあとにした。
そして、卒業式の練習に参加して、一日を終えた。
それから数日が経ち、あたしたちはとうとう卒業の日を迎えた。
絶対に泣かないと決めていたけど、やっぱりあたしも涙を流してしまった。
女子はほとんど泣いた。
姫紗も例外ではなかった。
男子も数人泣いていた。
でも亮は泣いていなかった。
ただ毅然とした態度で真っ直ぐ前を見ていた。
その姿にちょっぴりだけドキッとしたりして・・・。
卒業式を終えると、卒業証書を手に、あたしたち3人は一本の桜の木の前に集まった。
黒い卒業証書の筒をクロスさせて、あたしたち笑いあった。
「卒業、おめでとー!」
あたしたちは肩を抱き合って、3年間過ごした高校の門を潜った。
この3人でいることがあたしは大好きだった。
この時間が永遠だったらいいのに・・・・・。
春休みに入り、あたしたちは何度か会ったりもしたけれど、それぞれの高校から出た宿題が多すぎて、中々会えないまま、始業式が刻一刻と近づいていた。
あたしの行く蓬印だけが少し離れたところにあり、あたしは飛行機でこの生まれ育った街を出て行くことになった。
明日はとうとう旅立つ日だ。
それであたしは亮に最後のイタズラをすることにした。
偶然にも今日はエイプリールフール。
嘘をついて誰かを驚かせる日。
あたしは亮が最も驚きそうな嘘をつくことにした。
あたしがしようとしているのは、ずばり愛の告白。
しかも、古風なラブレターという手段を使って。
好きです。ずっとずっと好きでした。
いつも可愛くない態度でごめんね。
そんなかんじの内容。
あたしはその手紙を亮の家のポストに入れて、荷物の準備をして、眠った。
次の日、空港にはあたしの友達がたくさん集まってくれた。
その中には亮もいた。
あたしはにやりと笑って、
「驚いた?」
と言いにいこうとした。
その瞬間、亮が先に口を開いた。
「俺も好きだ・・・。ずっと好きだった・・・」
え?
嘘?だよね?
でも亮の目は本気だった。
お互いに顔が赤い。
林檎のように真っ赤。
亮は歩み寄ってきて、あたしを抱きしめた。
「またな・・・」
亮はそう言って、離れていった。
すぐに背を向けてしまったので、あたしは亮の表情を見ることができなかった。
でも、なんとなくだけど亮は泣いていたような気がした。
搭乗を促すアナウンスが流れ、あたしはぼーっとした意識の中で、搭乗口へ行って、
ゲートを潜った。
皆の、
「頑張れー!」
とか
「またねー!」
などという応援の言葉が聞こえて、あたしはまた泣きそうになってしまった。
あたしは皆に見送られながら、飛行機に乗り込んで、シートに腰を落ち着けた。
電源を切ろうとするとメールが来ていることに気付いた。
姫紗からだった。
『亮に告白したんだって?
春華のことだから、また冗談とかでなんじゃないの?
亮はずっと春華のことが好きだったんだよ。あたしの害虫駆除(笑)のとき、亮まで参加してたのは、春華が怪我しないようになんだよ。
ちゃんと考えてあげるんだよ。あたしが見たところ、あんたも結構、亮のこと気に入ってたんじゃない?』
あたしが怪我しない・・・ように・・・?
あたしの頬を涙が伝った。
悲しくてじゃない。亮の優しさに。
あたしがまだ亮を好きになるかは分からない。
でも、次に会うときはきっとその答えが出てる。
悪いけど、亮。
それまで待っててね。
あたしたちの進む道は違うけど、絶対にまた会えると思うから。
ありがとう、亮。
また会おうね。
あたしは涙を拭って、笑顔で皆に手を振った。
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