ティンカーベル −D‐4 番外編−(3/7)PDFで表示縦書き表示RDF


ティンカーベル −D‐4 番外編−
作:和 貴



第3話 裏切り


 エステルは基地にもどって来るなり、っ先に少女のおりへと急いだ。
 アーヴィンが意味深いみしんに言った言葉の断片だんぺんが頭の中で混濁こんだくする。少女の身をあんじて、不安が彼のあしを急がせる様にき立てた。
 さいわい、兵士達には慰問いもんに来た女達が居る。いくら女の肌にえているとはいえ、まさか子供にまで興味をしめす者は居ないだろうとも思った。
 エステルの手がおりの部屋のセキュリティ・パネルにたたき付けられる。
「あ……」
 ドアを開け放った途端とたん、一種独特な青臭あおくさ異臭いしゅうが立ちめ、エステルを立ちすくめさせた。
 少女の身体は力無くおりの中央に、文字通り仰向あおむけに投げ出されていた。き通るほどに白かった少女の肌は青白く、その小さな身体には無数のり傷やあざきざまれ、「男」の体液がり込められていた。一体、何人にもてあそばれていたのだろうか? 美しかったはね無惨むざんにも千切ちぎられ、その欠片かけらが静かに少女を取り巻く様にして落ちている。
(遅かった……)
 目の前が真っ暗になった。
『神聖な神』――
 アーヴィンの言葉ががねの様に何度も彼を打ちのめす。
 エステルは少女の手首を取ってみゃくさぐった。
 弱々しいが、かすかに脈を打っている。
「! ……まだ生きている」
 けれど、少女はすでに呼吸をしてはいない。原因は少女がのどめた多量の体液だった。
 エステルは急いで少女の口のおくに指を差し入れ、まった体液をき出させる。
 十分にき出させたはずなのに、少女はまだいきき返さない。それどころか、少女の体温が急激きゅうげき低下ていかしている。
 エステルは少女の頚椎けいついを片手で持ち上げ、あごを上げさせる様にして気道きどう確保かくほした。鼻をつまむと直接ちょくせつ口からいきを送る。独特どくとくな体液の残り閉口へいこうするが、それを気にしてかまっている場合では無い。心臓部にこぶしあてがい、規則きそく正しく圧迫あっぱくする。動かされるたびに少女の身体から白濁はくだくした物が流れ出る――
もどれ! もどって来い!」
 何度も何度もいのる様な気持ちで根気良くり返した。
 やがて青白かった少女の肌にほんのりとべにして来る。
「グワッ!」
 少女は綺麗きれい容貌ようぼうとは反対に、家鴨アヒルの様なみにくい声を上げてき込み、呼吸を取りもどした。
「助かった……」
 エステルはほっと安堵あんどめ息をらす。

「あれ? もう見付かったのか」
 れた相棒あいぼう暢気のんきな声に、エステルはいかりをおぼえてり返った。
「マーベリック……お前……」
 声がふるえて戦慄わなないた。
「仕方無いだろ? このおじょうちゃんがコッチをさそったんだから。俺達はそれにこたえてやっただけだ。それにあのシャツ、何処どこかで見た事があったよなーって思ってたら、エステル、お前のじゃないのかよ? けしたのか?」
 マーベリックが腕組みをしたままで軽くあごしゃくって見せた。その先には、エステルが少女に着せたタンクトップが無惨むざんに引き千切ちぎられて落ちている。
 たしかにマーベリックの言う通り、着衣ちゃくい習慣しゅうかんが無い有翅族(メーヴ)は、兵士達の情欲じょうよくき立てるのには十分だった。ましてやそれが幼いとはいえ美しい少女となればなおの事だ。
「クソッ!」
 エステルはアーヴィンの様に口汚くちぎたなくマーベリックをののしった。
「こうなる前に、始めから捕獲ほかくなんかしなければ……」
「もうせぇよ。ソイツは大事な金蔓かねづるになりそうだからな。絶対に逃がさない」
 マーベリックのめた眼がエステルを見据みすえた。
「マーベリック!」
ついでにエステル、お前もだ」
 あやしい目付きでマーベリックはエステルの身体に視線をわせた。
「な? ついで……だって……?」
 マーベリックの言葉の意味がエステルには全く理解出来なかった。

 唐突とうとつにドアが開き、十数人もの兵士達が入って来た。
 入り口に立っているマーベリックにだまって金を払い、ギラギラしたいやらしい目付きと卑猥ひわいな笑みをたたえて少女とエステルを視姦しかんする――
 マーベリックは渡された金をまるで斡旋あっせん仲介ちゅうかい者よろしく当然の様に受け取って行く。
 エステルは背筋に悪寒おかんを感じた。それは一種の殺気さっきだったのかも知れない。
「マーベリック!」
 エステルは叫んだ。
「兵士の中には慰問いもんの女ぐらいじゃ満足出来ないって奴も一杯いるんだ。中にはお前みたいな奴にそそるってのも居るんだよ」
「じょ、冗談は止めてくれ!」
 自分でも信じられないほどの怒りにエステルは激高げきこうした。
「前々から俺はこいつ等から頼まれていたんだ。「エステルを調達してくれ」ってな?」
 頭をハンマーでなぐられた様なショックだった。
「ち、調達……って? 何の事だ? 俺を調達する?」
 マーベリックの言葉が中々理解出来なかった。それだけエステルの思考回路は混乱状態にあった。
うらむんならお前のその女みたいな綺麗きれい(ツラ)うらめよ。多分、殺されたりはしないだろうからさ」
「キイイッ!」
 すぐ後ろでけものの様なするどい鳴き声がした。
 少女が先に何人もの兵士に押さえつけられ、組みかれる。
 エステルはその光景をの当たりにしてひるんだ。
「貴様! こんな事をし……」
「軍法会議にでもけて見るか? お前が証人として立つ事が出来ればの話だが?」
 エステルの言葉をさえぎる様に、マーベリックは先手せんてを打った。
「……」
(コイツ、俺が動けない様に計算して……)
「お前は体調不良で当面とうめん任務にんむからはずされた事になっている」
「何だと?」
「何、ほんのチョッと眼をじて居てくれれば案外楽しめるかも知れないぜ?」
 マーベリックはそう言ってニヤリと笑うとおりの部屋から出て行った。
 非情にも外から施錠せじょうされる。
「マーベリック!」
 エステルは絶叫した。


「殺せッ! 貴様等にれられるくらいなら死んだ方がマシだ!」
 必死に抵抗したが、もとの線が細いエステルに彼等の腕力がかなうものではなかった。
あっという間に羽交はがいめにされ、舌をみ切らせない為に猿轡さるぐつわまされた。
 青ざめたエステルの表情が恐怖におののく――



 室内から兵士達の気配が消えた。
 彼等の暴行は数日続き、その日も一晩中続いた。
「お……い……生きているか?」
 震えながら上体を起こし、歩伏ほふく前進で少女に近寄った。
 とても歩行出来る状態ではなかった。
「……」
 かすかに反応があった。
 抵抗すれば少女を殺すと何度もおどされた。
 エステルの兵士として、男としてのプライドは無惨にも微塵みじんに打ちくだかれてしまった。
 それどころか、いつの間にか肉欲にくよくの快感を覚えてしまったもう一人の自分が居る。そんな自分がみじめで情けなかった。いっその事殺されていた方がマシだと心底しんそこ思った。
 少女の浅く、あえぐ様な速い呼吸が聞える。
 エステルは(うち)捨てられた人形の様な少女の姿を恐る々見上げて、自分の眼を疑った。
 ほんの数日しかっていないのに、なだらかだった身体のラインはメリハリのある豊かな曲線をえがいていた。少女だったその身体がいつの間にか変貌へんぼうしていた。
 自分でさえまともに食事をっていなかった。彼女にいたっては、捕獲ほかくされた時から一切いっさいの食事をってはいない。なのに少女の身体はせるどころか逆に「女」として数年分の成長をげていたのである。
「馬鹿な……」
 エステルは彼女の肢体したいに眼を見張みはって驚いた。
『神聖な神』――
 アーヴィンの言葉が真っ白になったエステルの頭の中でよみがえる。
 しかし、彼女のつややかだった黒髪はすすけ、はじけそうだった甘やかなくちびるはひび割れ、そのはしには血が凝固ぎょうこしていた。背にあった美しいはねは付け根の肩から引きかれ、致死ちし量にいたるほどのおびただしい大量の血が床にべったりとり付いていた。
失血しっけつ……手遅ておくれだ……)
 何もかもが終わったと感じた。
 目頭めがしらが熱くなり、何かがこぼれ出た。
「ごめん……ごめんよ。お前をまもってれなかった……」
 何も出来なかった自分の不甲斐無ふがいなさ、無力さを痛烈つうれつに感じていた。
 肩がふるえ、ゆかに付いたエステルのこぶししずくが落ちる。
 彼女の頭がわずかに動いた。
いの……貴方に……えたから」
「え?」
 エステルは我に返った。
 息も絶え絶えの少女がしゃべった。今まではけものの様な奇声きせいしか出せなかったのに……
「お、俺を知っているのか? お前は一体……?」
「私、シャラ……シャサラ・ナージャ……よ」
 それだけ言って、彼女はわずかにエステルの方に顔を向けた。青白い表情から、彼女が重篤じゅうとくな状態におちいっているのがわかる。
「シャラ……」
 シャラの生気せいきの無いよどんだ視線が泳ぎ、エステルをとらえた。
 はかなげに微笑ほほえむと静かに瞳を閉じる。
 シャラの涙が彼女のほほつたって流れた。
 エステルは彼女の涙に見惚みとれたが、すぐに現実に引き戻される。
「シャラ? おい、しっかりしろ! シャラ?」
 やっと息を吹き返したと思って安心した矢先やさきだった。
 「神」とされあがめられていた種族の彼女は冷たくなって息絶えた。
「うっ……」
 エステルはゆかにひれしたまま声を押し殺して嗚咽おえつする。
「マーベリック……俺はお前を許さない……」







ブログ かずたかの独り言 ちょこっとな?






ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう