ティンカーベル −D‐4 番外編−(2/7)PDFで表示縦書き表示RDF


ティンカーベル −D‐4 番外編−
作:和 貴



第2話 少女


「何でお前が連れて行くんだよ? 発見したのは俺だぞ?」
 マーベリックはコクピットで口をとがらせた。
「発見したのなら俺だって同じだ」
 エステルのコクピット後部にあるサブ・シートに、その少女はちょこんと座っていた。
 彼女は眼下がんかに流れるジャングルの景色をきもせずにながめている。その姿はとても捕獲ほかくされている様には見えなかった。
 不平不満のマーベリックだったが、少女はあきらかに自分よりもエステルを選んでいた。
 彼が少女に近付いた途端とたん、少女はあからさまにおびえ、その手はエステルのパイロットスーツのはしをしっかりとにぎめて放さなかったからだ。
「マーベリックがいかつい顔してにらむからだよ」
 そう冗談っぽく言って中性的な物腰ものごしのエステルが笑った。
「別に、にらんだりしてないさ」
 ムッとして言い返す。
(顔やガタイは生まれつきだからどうしようも無いじゃないか……畜生ちくしょう、エステルは女みたいな顔立ちだから女に安心されてけるんだよ……)
 世の中、不平等だとマーベリックはボヤイた。


「おいで、傷をてやるよ」
 エステルは少女に食事と傷の治療薬を持って来てやった。
 おりに入れられた少女は小さくなってすみうずくまっていた。少女の首にはすでに軍の研究員から逃亡防止の首輪がめられている。見た目にはシンプルな銀のチョーカーだが、その機能は遠隔操作えんかくそうさのスタンガンのような物だ。
 エステルは少女にめられた首輪を見て可哀想かわいそうだと思った。
 捕獲ほかくの命令がくだっていたが、自分がわざと取り逃がしていれば、この少女はおりに入れられる事も無かっただろうに……そう思うと少女に対して申し訳なかった。
 視線を少女のあしった。少女の右脹脛(みぎふくらはぎ)には捕獲ほかく後に受けたと思われる大きな裂傷れっしょうがあった。エステルは彼女を発見した直後ちょくご気付きづいていたが、その時は治療薬など所持しょじしていなかったのだ。
(傷の手当ぐらいしてればいのに……)
 一度少女は研究員達にわたっている。彼女が負傷しているかぐらいわかりそうなものだ。
 少女はエステルを見上げると、のそりと緩慢かんまんに反応した。右足をかばう様に引きりながらエステルの居るおりとびらまで寄って来る。
「おなかいているだろう? さ、お食べ」
 エステルは自分達と同様どうようの食事がり付けてあるトレーを少女に差し出した。
「チイ?」
 少女はエステルにける視線を送るだけで、手を出そうとはしなかった。
「そんなに不味まずいとは思わないが……軍のレーションじゃ口に合わないのか?」
駄目だめだな。言葉がまるっきり通じない……)
 それでもエステルの言った言葉には反応を示す。
 言語がつうじなくても何とかアイ・コンタクトでコミュニケーションが取れそうだった。

 すぐとなりの建物から、女のあませつない声が聞こえて来た。兵士達の慰問いもんに来た女達の艶声つやごえだった。
 少女はその声に興味きょうみを持ち、じっと耳をかたむける。
「こ、こら。かなくていい」
 エステルは少女の傷に治療薬をって遣りながらほほを赤らめた。
 少女の右足は片膝かたひざを立てた状態で、エステルが着せたタンクトップが少女の腰までたくし上げられていた。視線の角度さえ変えれば意図いとも簡単に秘所ひしょのぞける。興味が無いと言えばうそになるが、生憎あいにく幼い彼女の身体で興奮こうふんする気にはなれなかった。


「アーヴ! いてくれ! すごい奴を俺達がつかまえた!」
 戦禍せんかで重傷をった少年のアーヴィンのもとを訪ねて、軍の医療キャンプへ来たエステルは息をはずませながらもうれしそうだった。
 アーヴィンもエステルと同じく銀髪に赤銅しゃくどう色の肌。そしてあおい瞳を持つ「グレネイチャ」と呼ばれる奴隷どれい難民なんみんの種族だった。
 十歳になる小柄こがらせた子供はやたらと眼光がんこうするどい少年だった。
 先日せんじつの軍に誤爆ごばく被害者ひがいしゃの一人で、エステルが偶然ぐうぜんにも被災地ひさいちから助け出したのだ。
 同じグレネイチャ同士どうし……とは言っても、品行ひんこう方正ほうせいなエステルとはちがって、見た目がスラムあがりの様なアーヴィンではあったが、不思議と二人の(なか)は良好りょうこうなものだった。
 エステルがその話を切り出すまでは――
「いいか? おどろくなよ? あのな……」
「だから、何だってンだよ?」
 勿体もったいを付けるエステルにアーヴィンは医療ベッドの上でれた。十歳以上も年上のエステルに向かってのタメグチである。此処ここまで来ると、度胸どきょうがあるのだか単なる馬鹿なのだか……
有翅ゆうし人のメーヴをつかまえたんだ。本当に綺麗きれいはねがあるんだぞ? すごいだろう? お前が動ける様になったら見せてるぞ?」
 御伽噺おとぎばなしだとかまぼろしだとか言われていた、はねを持った人間――エステルはその種族を捕獲ほかくしたと伝えた。
 一瞬でアーヴィンの顔色がくもった。ただでさえ悪い目付きが一層いっそうすごみをしてエステルをにらみ付ける。
「可愛い女の子だ。多分、お前と同じ年頃としごろじゃないのかな?」
「ハン! どうせまた何処どこかの村でもおそって捕虜ほりょにした女じゃねーのか?」
 アーヴィンは全くエステルの言葉を信じていない。
「あのS‐2と並走へいそうして飛行していたんだ」
「あー? 夢でも見てんじゃねーのか? フカシてんじゃねーっての」
 アーヴィンの礼をしっした言葉にも、エステルはにこりと余裕よゆう微笑ほほえんだ。
「……?」
 わざと怒らせようとしていたアーヴィンが、彼の態度に一瞬いっしゅんひるむ。
 エステルはアーヴィンのそんな表情を見逃みのがさない。アーヴィンも見掛みかだおしではないエステルのすきの無さには正直驚いていた。
「女の子……って言ってたけど、もうヤッチャッたのか?」
 急にアーヴィンの声調トーンがり、暗くなる。
「え?」
 エステルはアーヴィンの言葉の意味が理解出来なくて首をかしげた。
「その()とヤッたのかっていているんだよ」
 苛々いらいらしながらってかった。
「ヤッた……って? なに言ってる?」
 子供の口からは到底とうていけそうに無い言葉に、エステルは困惑こんわくした。
とぼけるなよ! 俺はいろんな奴等やつらを知っているさ。兵士の全部がそうってワケじゃないけど、アンタ達の一部の奴等には、争いとは関係の無い村を襲って略奪りゃくだつり返しているのも居る。こんな辺境へんきょう惑星(ほし)での内乱でさえ「連邦軍」っていうご大層たいそう大儀たいぎ名文めいぶんげて首をっ込みき回す。挙句あげくに今度は有翅ゆうし人の捕獲ほかくだあ? 有翅族(メーヴ)はこの星での「神」として神聖しんせいあつかわれている生き物なんだ」
「か……「神」? だって?」
「ああ、その神聖しんせいな「神」を面白半分にアンタは地上へ引きり落とした!」
「……」
たのむから、早くその娘をがしてってくれよ」
「……しかし……」
 エステルは言葉を失った。命令は絶対だ。今更いまさらどうやって捕獲ほかくした少女をがす事が出来るだろうか?
たのむよ……「神」が(けが)されないうちにがしてやってよ」
 すがり付く様な眼で身動みうごき一つ取れないアーヴィンは、エステルをベッドから見上げた。
(けが)される……って」
 エステルはアーヴィンの言葉に一抹いちまつの不安をいだいて空軍基地にもどった。







ブログ かずたかの独り言 ちょこっとな?






ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう