ティンカーベル −D‐4 番外編−(1/7)PDFで表示縦書き表示RDF


ティンカーベル −D‐4 番外編−
作:和 貴



第1話 遭遇


此方こちらS‐2、最終防衛空域を通過。現在、異常無し」
 エステル少尉はその日の作戦終了を伝えて安堵あんどした。
 戦況せんきょうの情報収集を完了した後、主翼しゅよくに飛行機雲をきながら、二機の偵察ていさつ戦闘機は低空飛行に移行いこうして空軍基地へと帰還きかんする途中とちゅうであった。
 眼下がんかに一面にひろがる美しい緑の絨緞じゅうたんが、その下部に続く陰鬱いんうつとした奥深いジャングルをつつみ隠している。
 低空飛行の為、今にも機体後部にある二枚のフィン型ファンネル(放熱板)が、異常に成長して伸びた緑に引っ掛りそうだ。
―「おい、下、二時の方向、距離三百!」
 エステル少尉と一緒に行動していた相棒のマーベリック少尉が、付近の異常を察知さっちした。
 一瞬で緊張がはしり、二時の方向をレーダーで確認する。
 反応は無い。
「異常は無……?」
 言いけて言葉を飲み込んだ。あわてて乱暴に酸素マスクの遮光しゃこうシールドをね上げる。
「何だ? あれは……」
 エステルはあおい眼を細めていぶかった。
 二メートル大のまばゆい光源が自分達と並走飛行していた。時折、鋭角に曲がって急降下きゅうこうかしたかと思うと、ジャングルの中に消えては再び現われたり、ジグザグに移動したりしている。
(生物? 戦闘機のS‐2と同じ……いや、それ以上の速度で……?)
 レーダーに機影きえい等確認出来ない。
 IFFも沈黙している。それだけ未確認物体の対象が小さいのだ。
此方こちらS‐1、本機と並走へいそう飛行する未確認物体を捕捉ほそく
 マーベリックが通信回線を開いた。
 驚いた事に、本部からはその未確認物体を捕獲ほかくせよとの指示がくだる。
「了解これより捕獲する」

 マーベリックの指示で、エステルは電磁波の捕縛網ほばくもうを射出した。
 エステルには、光が一瞬その動きをにぶらせて躊躇ちゅうちょしたかの様に思えた。
「やった!」
 マーベリックが散々さんざん苦労しても捕獲出来なかった光源を、エステルは一発で決めた。
 捕縛網ほばくもうは光源をからってジャングルの奥底へと消えて行く。
「やるじゃないか!」
 マーベリックが手放てばなしで喜んだ。
「? ……は……あ」
 しかし、エステルは捕獲出来た成功の喜びよりも猜疑心さいぎしんの方がまさっていた。あまりにも簡単過ぎたからだ。
 容易よういに捕獲出来たのは自分の実力ではなく、故意こいに光源が自分に協力してくれた様に思えて納得出来なかった。

 鬱蒼うっそうしげる木々の間をエア・バイクが駆け抜ける。
 二人はそれぞれに分かれてエア・バイクで落ちた光源を捜索する事にしたのだ。
 このあたりのジャングルは磁気をびた鉱石こうせきが多く岩盤がんばんふくまれているのか、計器類が狂いっ放しだった。もっぱら肉眼での捜索にたよる他無い。
「チイ、チイ、グガガ……」
 すぐそば草叢くさむらけものの鳴き声がした。
 何かがあばれている。
 エステルはエア・バイクの高度を下げてあたりを慎重しんちょう見渡みわたした。自分達は光源を捜しているのだ。簡単に見付かるはずだった。
(鳥かけものか……そういや、古代地球生物に翼竜なんて生き物もあったよなぁ)
 此処ここはその地球からはるか何百光年もへだたった辺境へんきょうの惑星だ。原始の古代生物が生息していても不思議ではない。
 たのむから肉食類は勘弁かんべんしてくれと暢気のんきに思った。
 歩道など皆無かいむたより無いしげみをき分け、一歩、一歩足場を確かめながら慎重にを進めて行く。
 手元でにぎめられている麻痺銃(パラライザー)銃把じゅうはがじっとりと汗ばんで来る――

 身のたけ以上の大きな羊歯しだ類を掻き分けた。
「な……」
 エステルは呆然ぼうぜんとして立ちすくみ、息をんで言葉を失った。
 自分が捕獲した網の中には、小柄な美しい少女が捕らえられていた。
 つややかな長い黒髪に、ける程色素のない白い肌。パッチリとしたみどりの瞳に、興奮してほんのりと赤みがしたほほける様なあまやかなくちびる朝摘あさづみのいちごの様だった。
 すらりとした細いりょうの手足や、ふくらみかけた胸のライン、未成熟さが残っている細いウェスト――
(俺は夢でも見ているのか……?)
 エステルは自分の眼をうたがった。
 この忌々いまいましいジャングルの何処どこをどう捜せばこんな美少女が捕獲出来るのだろうか?
 しかし、地球外惑星だとはいえ、此処ここまぎれも無く危険なジャングルなのだ。豹や虎にそっくりの肉食獣もいれば、アナコンダやカイマンといった爬虫はちゅう類もご丁寧ていねいそろっている。
 何よりもエステルが驚いたのは、このきびしい環境の中でさえ、彼女が一糸纏いっしまとわぬ姿でいる事と、その彼女の白い背中に、身長ほどの蜻蛉かげろうの様な薄いはねった事だった。
 それまで必死で逃れようとしていた少女――は網の中からエステルの姿を見上げると、途端とたんに大人しくなった。かと言って、彼におびえている様子でも無い。
「ひょっとして……これがあの「メーヴ」? 有翅ゆうし族の?」
 少女はだまって小首をかしげると、「チイ」と鳴いた。
「エステル! 見付かったか?」
 マーベリックの声が近付いて来る。エステルはあわてて自分のパイロットスーツの下に着ていた濃紺のうこんのタンクトップを脱いだ。
 兵士にしては少々貧相な彼の赤銅しゃくどう色の上半身があらわになる。
 エステルの銀色の髪と赤銅しゃくどう色の肌、そしてあおい瞳は奴隷どれい難民なんみんのグレネイチャであるあかしだった。肌が浅黒あさぐろい人間はよく見掛みかけるが、エステルの持つ銀髪にあおい瞳はそう滅多にはいない。
 少女は驚いた様に瞳を大きく見開き、エステルをまじまじと見上げる。
 エステルは自分の着ていたタンクトップをその網の中に居る少女に差し出した。
我慢がまんしてこれを着て。さ、早く」
「?」
 少女は、差し出されたエステルの大きな濃紺のタンクトップを手にしたが、用途ようとわからないのか不思議そうにひろげてながめている。彼女には着衣ちゃくい慣習かんしゅうが無い様だ。
「……困ったな」
 裸であってもそれが本人の慣習かんしゅうなのかも知れないのに、此方こちらの勝手な都合で着替えさせようと意識している方がよっぽど卑猥ひわいに思えた。だが、此処ここにはもうじきマーベリックが来る。
 エステルは彼の眼に少女の有りのままの姿は見せたくないと思った。
「エステル? 居るんだろう?」
 マーベリックの声がどんどん近付く。
「ごめんな」
 エステルはそう言って彼女の手からタンクトップをうばうと、無理矢理頭からそれを着せた。少女が身を固くして「ピイ!」と鳴いて拒絶きょぜつしたが、愚図々ぐずぐずしては居られない。
 ぶかぶかのタンクトップは、胸元まで深く開いた濃紺のワンピースの様に見えなくも無かった。
此処ここだ! マーベリック」
「何だよ。そばに居たのなら居るって言え……よ……?」
 マーベリックもエステル同様に、捕獲されたのが少女だと知って呆然ぼうぜんと立ちすくんだ。







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