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インギア
作:秋之



第十話:填る歯車◇私と貴方


当たらない。当たらない。

繰り出しても繰り出しても、双方の攻撃は当たらないし当てられない。

力量の差はない。ないからこそ、当てられない。


「……ん〜」


後ろに大きく退いたジャックが、顎に手を当て首を捻る。


「黒いお兄さんは、ただの人柄だって分かったけど…青いお兄さんはどうして僕にちょっかい出すかな?」


起用に片足でバランスをとりながら、金髪と目隠しの赤い布の合間から僅かに除く、青の瞳が、不思議そうに問掛ける。

それにルークは隠すことなく言ってのけた。


「この街の人間を殺されては困るんだ。私は、ここの街長だからな」


腰に剣をくっつけるように構え、ルークはジャックを睨む。

ジャックは、図ったように間合いに入ってこない。


「へぇ……青のお兄さんは街長さんなんだ」

「そう言った」

「だったらさぁ」


顎に当てていた手を、笑う口を隠すのに使って、ジャックは小さくうつ向く。


「この街の女をさ、全員、閉め出してくれればいいよ。そうしたら僕は誰も殺さないから……一人ぐらいは多目に見てよ?」


くすくす笑うジャック。

ルークは一瞬思考し、結論をだした。


「無理だ」

「何でぇ?」

「大昔の戦争の影響で、住める場所など、ここ以外にはない。……あるとしたら、別大陸になる」

「んふふ……知ってる」

「!」


真面目に答えたルークを嘲笑うように、ジャックは体をくの字におる。

声を出さない笑い。

そして上げた顔に張り付いた表情は、やはり笑い。


「だから僕はここにいるのさぁ。ここは逃げ場のない籠だからね…うふふ」

「お前……っ」

「ここには全部揃ってる。僕がなしえたい望みは全部ね!」


そして、指折り数えるようにつらつらと望みを並べる。


「女を一人残らず殺して、次に男。順々に、ゆっくり確実に殺してくんだよ。ジワジワいためつけた後に、魔女に捧げるんだ。そうして逃げた人形を少しずつ弱らせて、そうだな僕が手を下さなくても、勝手に死んでくれるようになるまで、ずぅっと見てようかな。楽しみ」

「……理解できないな」

「温室育ちのおぼっちゃんには分かんないよ〜だ。……ね、君は諦めていたものが戻ってくるんでしょ」

「?」


手をくるくると回しながら、ジャックは月を背にしてにやりと笑う。青い目が、まるで血が滲んでいくように、不気味に赤い輝きを放つ。

ルークは思わず、後退さる。


「とぼけないで。君の弟だよ。嫌な父親もいなくなって、弟だって普通に暮らせるようになるんだよね? いいよね、願いが叶って。……そこのお兄さんもだよ。一度は両目とも使い物にならないくらいに焼けたのに、機械の目を付けてずっとずっとよくなった。やりたい事はやってきたし、やれないことなんてないもんね!」


ゆら、と踏み出した足にすら、何らかの威力がありそうで、ルークは表情を険しくした。ここまで如実な恐怖を感じたのは、初めてかもしれない。


「でも僕は違うんだよ全然違う。君らの想像つかない事を体験して、想像つかないだけの思いをして、それで、ここにいるんだ。僕を止めるなんて無理だよ」


うふふ、と笑うジャック。

冷や汗の伝う額に、ルークは手が震えていることに気が付いた。力のこもりすぎた腕が、悲鳴を上げている。

けれども、ここで動く別けにもいかなかった。

動いたら、殺される。そんな予感があった。

しかし、そんな時間も永遠な訳はない。

二つの金色が、ルークとスゴウの前で向かい合ったのは、一瞬での出来事だった。


「………やめなさい、ジャック」


静かに言ったのは、《イン・ギア》のリーダー、ゼオンだった。

金髪で、目が青くて、優しく温かな印象を受ける、そのままの彼が、静かに言った。

金髪で、青い目をしていた、刃物のような、ジャックに。

二人は、似ていた。とても。


「ジャック、やめなさい」


たじろいた様子のジャックに、追い討ちをかけるように言うゼオンはひたすらに静かだ。

いつものほやほやしたような雰囲気はない。

日が上ったばかりの、温かな静寂のような彼。夜には似合わない。


「なんで出てくるかな!」

「この二人は、私の友です」


明らかにジャックはゼオンと知り合いであるようだった。しかも、ゼオンの方が有利な立場にある。

なんの武力も持たない彼が、どうして殺人狂を従えられるのか疑問だ。

だが、それは紛れもない事実。


「どうなってんだよ」


その呟きに答えるものはいない。

闇に吸いとられるように、その問いはきえる。


「貴方は間違っています。そんなやり方ではいけない」

「……」

「目標を一つに定めなさい。ジャック」


何に対するどんな会話なのか、想像もつかない。

ただ、ジャックが不服そうなのだけは理解できた。眉を寄せ、子供のように唇を尖らせる。


「一つになんて絞れるもんか! 僕はこの街に……」

「ジャック」


何かを言おうとしたジャックを遮るかたちでゼオンはピシャリと止める。

はっとしたジャックは、小さく唇を噛むと、逃げるように走っていってしまった。親に怒られたかのような、泣きそうな顔をした後に。


「………」

「………」


後には、月明かりと静寂、そして痛みと動悸だけがのこる。

痛みを誤魔化しながら、ゼオンの肩を叩こうとしたスゴウの耳は、小さな呟きを聞いた。


「……プログラム・1、起動停止」

「…………は?」


プログラム? 起動停止? 戸惑いに手が止まってしまったスゴウ。

そしてゼオンが振り返った。


「さ、帰りましょうか」


ニコリと笑った顔で、ゼオンは少しだけずれた眼鏡を直した。

結果、スゴウの家に行き、それからルークを屋敷まで送った後に、ゼオンは自宅へと帰る事となった。

あの場面で、どうしてゼオンがその場所にきたのかは、今はまだ分からない。



















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