ルルルルル・・・・ルルルルル・・・・・。
私の耳元で、電話が鳴った。
今までは、雄大な海が、静かな波を立てて目の前に広がっていたのに。
今までは、心地よい海の波の音が、私の耳の中に広がっていたのに。
その音は、あまりにあっけなく、私の夢を壊した。
パッと目を開けると、白い天井が私の頭上にかかっていた。
「・・・どんな夢だったっけ・・・?」
たしか、とてもいい夢だった。
それなのに思い出せない。海が、見えていた事以外は。
「あっ、電話・・・・・・」
誰に言うともなくつぶやき、電話を取る。
「もしもし・・・」
『おはようございます。ただいまの時刻は6:30です』
モーニングコールか・・・。頼んでおいたのを忘れていた。
「あ、どうも・・・」
言ってから、くすっと笑ってしまった。
相手がいないのは分かっているのに。返事をしてしまった。
電話を切ると、起き上がり、部屋を横切って洗面所に行った。
蛇口をひねって水を出し、顔を洗う。
朝の寝ぼけた意識には、冷たい水が一番いい。と私は思う。
口をゆすいで、洗いたての、ふわふわのタオルで顔を拭く。
「はぁ・・・」
ため息をひとつつくと、私は再び部屋を横切ってカーテンを開ける。
「あっ・・・」
思わず目をつぶりたくなるほど眩しい朝日が、私の部屋をさっと照らした。
私は窓を開けてふかふかのソファに座った。
そして朝日にきらめく美しい海をじっくりと見た。
私は今、とある小さな島に来ている。
この島は、大切な、私の大切な人から受け継いだ、宝物。
今はこの島は私のものだ。
きれいな海と自然を売りにして、ホテルをたてて、観光スポットにしている。
私の部屋は、広大な海がよく見える、一番の人気部屋。
思う存分海を眺めてから、シャワーを浴びようとバスルームに行った。
服を脱いで、湯気の立つお湯の下に立つと、
朝の空気にさらされて冷えていた素肌があたたまっていく。
シャワーを終えて身体を拭き、バスローブを着た。
私は今度は窓を閉めて、何をしようか考えようと、ソファに戻った。
さて、何をしようか?
ここには昨日の夕方ついたばかりである。
一週間しかない滞在期間。
少しでも無駄にしたくないと思って早起きをしたはいいが、
何をすればいいのか?
時刻は7:00。
泳ごうか? それにはまだ寒すぎる時間帯だ。
散歩かな? それもあまり気が進まない。
とりあえず私はロビーに降りてぶらぶらする事にした。
着替えて、一階に降りていった。
ロビーにもまだほとんど客はいない。
フロント係がぺこりとこちらにお辞儀をした。
わたしも笑顔で会釈し、廊下を歩いていった。
どうしようかと周りを見わたすと、売店がある。
ちょうどのどが渇いていたところだ。
飲み物と・・・サンドイッチでも買おうか?
私はふらりと売店に立ち寄った。
けして広いとは言えない店の中を見回した後、
ゆっくりと、店の中を見て回った。
冷たく冷えたペットボトルのお茶を手にして、
好物のツナサンドを見つけると、レジへと向かった。
品物をレジにおいて、財布を出そうとすると、
ふと、レジの横に並んでいるポストカードに目が行った。
『久しぶりに、手紙でも出そうかしら?』
私は、海が写っているポストカードを選んで、買った。
十分後、私はロビーのテーブルで、
サンドイッチ片手に手紙を書いていた。
〜レオへ〜
私が今どこから手紙を書いているかお分かりですか?
あなたが知ったらとても、とても喜んでくださるでしょう。
それは、それは素敵な所です。きれいな海も見えます。
私はここに一週間ほど滞在するつもりです。
私たちが、前々からよく来ていたところですよ?
さて、どこだか分かるでしょうか??
〜リカより〜
私は見ただけで走り書きと分かるような字で、長さで、手紙を書き上げた。
レオ・・・。レオ・・・。
私が愛した人。
私を愛してくれた人。
返事が、来るかしら?
来ないかもしれないわね。
この島は、レオから譲り受けた、大切な宝物。
私には以前、もっと大切な宝物が一つ在った。
でも、それは海に沈んでしまった。
10年前の、太平洋客船沈没事故で。
それこそが、本当の、本当の宝物。
私は、泣きながらサンドイッチを食べ終え、お茶を飲み干した。
空のペットボトルに、ポストカードを丸めて入れた。
この手紙がレオに届くように、海に流す。
辛い時はいつもそうして、悲しみをまぎらわせた。
今度もそうしよう。私は、浜辺に向かって歩き出した。
涙を、点々と歩道に残しながら。
私は、いつも手紙に質問を残す。疑問文を。
そうすれば、返事が帰ってくるような気がするから。
返事と一緒に大切な宝物も帰ってくるような気がするから。
浜辺に着くと、私は、思いっきりペットボトルを投げた。
潮の流れが急だから、手紙はどんどん沖に流されてゆく。
その場に立って、ペットボトルが見えなくなるまで。ずっと、ずっと。
見守っていた。
見えなくなっても、沖を見つめていた。
返事が、来るかもしない。
・・・・・・。
しばらく待っていると・・・。
きた。
大きな波。これが彼からの返事。これが彼の分身。
ザパァーン!
大きな音を立てて、波打ち際にせまって来ると、私を、抱きしめてくれる。
『大丈夫だよ。泣かないで。』
あの頃の声でそう言ってくれる。
私の腰の辺りを、やんわりと、しっかりと抱いて、一瞬だけ抱いて。
そして、また海に戻っていく。
いつも、彼を待っていると、いつの間にか涙が止まる。
抱きしめてくれる頃には、いつもの私。強い私。
でも、泣きたい時にはまた来てもいい?
大好きだよ。レオ。
愛してるよ。レオ。 |