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皇太子の愛妾は城を出る 作者:小鳥遊 郁
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12 ユーリside



『ユーリ....』

 城下の見廻りも終わり城へ続く道を馬で歩いているとカスリーンが呼ぶ声が聞こえた気がして振り返る。

「「ユーリ殿下~!」」

 数人の若い娘たちが手を振っている。彼女がこんな場所にいるわけがない。私は苦笑いしながら若い娘たちに手を振った。

「「「キャー!!」」」

 カスリーンと同じくらいの歳の娘たちの笑顔が眩しい。カスリーンもあんな風に笑っていた頃もあったのだろうか? 出会った頃は私が声をかけると恥ずかしいそうに微笑んでいた。声をあげて笑う事はなかったけれど私の隣で嬉しそうに微笑んでいたのだ。
 今朝はカスリーンにまた酷いことを言ってしまった。あんな風に言うつもりはなかったのに......。また悲しそうな顔をさせてしまった。
 カスリーンの家を出るとすぐに後悔した。今度こそ出て行ってしまうかも知れない。
 だが、私の結婚話に全く動揺しないカスリーンを見ているとつい意地の悪い事を言ってしまった。一番悪いのが自分だとわかっているのにどうして優しい言葉をかけられないのだろうか。私は彼女に愛されているという自信がない。当たり前だ。未来のない不毛な関係に見切りをつけて去って行かれても文句も言えない関係だ。愛されるわけがない。
 カスリーンに与えた家は二年間何も変わらなかった。カーテンも置き物の配置すら変化がない。まるでいつでも出ていけるかのように生活感がない。
 彼女のことは侍女長に任せているから、何度か尋ねてみたがカスリーンが何も欲しがらないのだと言われた。確かに夜会には出席出来ないから夜会用のドレスは必要ないが、普段着ているドレスすら買おうとしないのはこの関係を早く終わらせたいのかもしれない。
何も欲しがらないカスリーンにお菓子やお花を渡したこともある。花は一度も飾られることもなく、チョコレートもゴミ箱に捨てられていた。てっきり食べてくれていると思っていたからそれを偶然発見した時はショックだった。
カスリーンは自分から別れ話が出来ないから私から言われるのを待っているのかもしれない。ずっとそう思っていたから、今日の彼女の話に戸惑ってキツイ言い方をしてしまった。側室の話や子供の話だ。今まで一度もそんな話はした事がない。誰かに何かを言われてそんな気になったのだろうか? 
 カスリーンに私との子供が出来れば、無理だと分かっているがもしそんな事になれば全てが変わる。だが魔力が少ない彼女との間に子供は出来ないだろう。彼女が子供が欲しいのなら私とは別れることになる。それもあって酷い言い方になった。今すぐ謝りに行きたいが両親から面会の予約が入っていると言う。
 婚約の話だろうか? なんとか断れないだろうか。私は二年前にたった一人の運命の女に出会った。彼女を妃にしたかったのに、別の女性と結婚しなければならないとは.....皇太子なんてなるものじゃないな。



 初めてカスリーンを見た時、そう一目惚れだった。カスリーンはその年のデビュタントの中で一番輝いていた。デビュタントの衣装はみんな白だ。同じような衣装を着ている中で、見たこともないように輝く銀色の髪に宝石のような紺色の瞳のカスリーンから目が離せなかった。
 私は皇太子としてデビュタント全員と一度はダンスをすることが義務付けられており、それもなぜか身分の高い順なので彼女とダンスをする時は最後だった。いつもは最後の方は疲れているから言葉もかけることなく終わるのだが、かスリーンにはずっと話しかけていた。彼女は踊ることに必死なようで私の問いかけには「はい」と答えるだけだったが、それでも嬉しかった。
妃にすると声をかける前から決めていた私はそのまま彼女を庭に誘い

「私の妃になってくれ」

と頼んだ。カスリーンは目を見開いて驚いていた。そう彼女と目を合わせたのはその時が初めてだった。紺色の瞳は私を真っ直ぐ見返して吸い込まれそうなくらい美しかった。

「私は男爵の娘です。とてもあなた様の妃になれるような身分ではありません」

 初めてした直球すぎるプロポーズは断られるのも早かった。だが私は諦めるつもりは露ほどもなかった。

「身分など、どうとでもなる」

 私が自信満々に保証するがカスリーンからは

「本当に? でも.....」

と首を傾げて色よい返事はもらえなかった。私の母も子爵家の家柄だが「愛があれば大丈夫よ」と言って王妃の仕事も難なくこなしている。彼女が出来ないことは私がいくらでもカバーすれば良いことだ。

「私が嫌いか?」

「嫌いだなんて、小さい頃から憧れていました。ですが皇太子様の妃だなんて畏れ多いです」

彼女の目は私への憧れよりも戸惑いの方が強かった。それでも私は諦めずに必死に説得した。正直何を言ったか覚えていない。とにかくカスリーンに頷いてもらおうとそればかり考えていた。だから彼女が

「わかりました。本当に私でよければ妃になります」

と答えてくれた時は舞い上がっていた。彼女に抱きつき

「ありがとう、必ず幸せにする」

とその時は心から彼女を想いそう言ったのだ。
まさかたった二日でプロポーズを撤回する事になるとは思ってもいなかった。
 その時の私は生涯の伴侶を見つけたと舞い上がっていた。皇太子としてもっと慎重に行動しなければならなかったのに何も考えずに動いた結果、幸せにするどころか彼女を悲しませる事になった。










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