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パピヨンジャープロジェクト 作者:南兎カナル
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6/8

実に素晴らしいよお嬢さんたち!

翌日。
ゴールデンウィークを間近に控えた、春うららかな休日。
ここ久茂市蝶々商工会館入り口前に、美羽を除いた湯楽たち四人の姿はあった。
プレゼンを目前に控え、緊張の面持ちでその時を待つ四人の少女たち。
中でもとりわけて硬い表情をしているのが、ビジネススーツに身を包んだ寧々であった。
「はわわわわ、自由研究の発表より緊張するよ-!」
そんな大きな体をガクプルさせている妹のお尻を、瑠璃がペチっと叩いて言う。
「大丈夫だって! その見た目だけで、もう勝ってるし!」
「意味分かんなーい!」
励ましになってない励ましに、涙ぐむ寧々。
「そうだよ! 瑠璃ちゃんの言う通り、どこからどう見ても大人の女だよ!」
「湯楽ちゃんそれ全然励ましになってないし、嬉しくないよー!」
そんな中、プレゼン資料の最終確認を一人黙々としていた静莉が時計に目をやった。
「そろそろ時間ですね。みんなで考え抜いた企画です! きっと……きっと上手くいきます!」
そう言って明るい笑顔を見せる静莉。
「そうだね! ボクたちならやれるよね!」
「アハハ、大丈夫大丈夫! 緊張なんてしてないし!」
「み、みんなのためにもプレゼン頑張るね!」
その笑顔に応えるように、それぞれ気合いを入れる三人。
「それでは……行きましょう!」
そして静莉は、気合いと共に先頭を切って商工会館の扉を開いた。
だが……
「静莉ちゃん静莉ちゃん! 荷物置きっぱなしだよ!」
手ぶらで中に入ろうとする彼女に、湯楽が慌てて資料と機材の入ったカバンを手渡す。
「だ、大丈夫です! きっと、きっと、きっと上手くいきます!」
一番緊張していることが露呈してしまった静莉は、気恥ずかしそうに気合いを入れ直した。
「はわわわわ、本当に大丈夫かなー?」
そんな頼りないお姉さんたちの姿に、寧々の不安は益々大きくなるのであった……

中に入ると、長身で渋いダンディーなおじさん……蝶々商工会会長を務める藤森孝一郎、五十六歳が笑顔で出迎えてくれた。
「良く来てくれたね。ささ、こちらへ」
そう言って案内されたのは築二十五年、木造二階建ての商工会館一階奥に位置する会議室であった。
ひんやりと冷えた廊下を進み、緊張の中会議室の扉の前までやってきた四人。
静莉が《会議室》と書かれたプレートを見てゴクリと唾を飲み込んだその時、藤森会長が扉に手をかけた。
会議室に入ると、まず目に飛び込んできたのは、壁に貼られたデビュー当時、久茂警察署の一日署長をした時に作られた美羽のポスターだった。
そして蝶々祭り実行委員会メンバーと思われる大人たちが、ロの字に並べらたテーブルをぐるりと取り囲むように座っていた。
一斉に立ち上がり拍手で湯楽たちを出迎える実行委員会メンバーたち。
十名の大人の視線が、四人の少女たちに注がれる。
そんな中、普段と違う慣れない雰囲気に飲まれたのか、必要以上にペコペコとお辞儀を繰り返しながら、湯楽たちは巨大な八○インチの液晶テレビが置かれている部屋の奥へと向かった。
「それじゃあ、このテレビにパソコン繋がるからね。やり方はわかりますか?」
PCバッグを持っている静莉に藤森会長が尋ねた。
しかし極度の緊張から、頭の中が真っ白になっている静莉には言っていることの半分も伝わっていなかった。
「え!? 繋ぐって……どど、どこに繋げるんですか!?」
青白い顔で、足をガタガタと振るわせる静莉。
そんな彼女の元へさっと瑠璃が寄り添う。
「アハハ、大丈夫です! わかります! 心配ないです!」
そう言うと瑠璃は小声で湯楽に囁いた。
「あたしが静莉のそばにいるから、湯楽は資料を配ってきて!」
「よっしゃ! まかせて!」
湯楽も瑠璃に合わせて小声で答えると、プリントアウトしてきた企画書を取り出しサムズアップした。
「静莉! 静莉! しっかりしてホラ、あそこでぱぴこも見てるよ!」
「え、美羽!? って……ポスターじゃないですか!」
瑠璃が指さした方向を見て、静莉は思わず叫んでしまった。
そしてそんな自分が無性に可笑しくなった。
「うふふふふっ……あ、ありがとうございます。もう大丈夫です!」
「ま、これで一応あたしら五人全員揃ったわけだし『きっと上手くいきます!』そうでしょ?」
途中、静莉の声マネをしながら瑠璃は静莉にウインクを飛ばした。
瑠璃のお陰で、静莉はようやく正気を取り戻し、なんとかパソコンのセットアップに取りかかることが出来た。
着々と準備が行われる中、寧々は一人目を閉じて集中力を高めていた。
その表情は徐々に、いつもの『はわわわ』言っている彼女とは別人のような、キリリと引き締まった凛々しいものに変わっていった。
そして……

全ての準備が整い、藤森会長の挨拶からプレゼンテーションはスタートした。

「商工会会長の藤森です。本日はお忙しい中お集まり頂き、誠にありがとうございます」
「さて、我々が毎年実行委員会として開催してきた蝶々祭りですが、この不況で協賛金が集まらず、ここ七年ほど市から開催費の三分の二を補助してもらっております」
「今年、参加者が二千人を下回る時には、来年から補助を取りやめるというお達しが届いたことは皆さんもご存じだと思います。もしそうなれば来年以降、三十三年続いてきた蝶々祭りも、続けていくことは出来なくなるでしょう……」
そこで会長は、会議室の壁に貼られている美羽のポスターに目をやった。
「いざという時の頼みの綱として考えていた、我が町が生んだスーパーアイドル美羽ちゃんにも、祭りと5thライブ開催の日が重なっているという……悪魔の仕業か、はたまた神の悪戯かという所行により『ちょっとでいいから故郷の祭りに出てくれませんか?』とお声をかけるこも出来ませんでした……」
「……そもそも、美羽ちゃん私設ファンクラブ会長であるこの私が、ライブに参加出来ないなどあってはならいないことであり、こうなればもうBlu-rayを買って、ここにある大型液晶テレビに映して擬似ライブをやるしかありません!」
挨拶の途中……美羽の話題になってから思わずヒートアップし、話が脱線してしまった藤森会長。
拳を握りしめ荒ぶるその姿に、一人、目頭を押さえて『うんうん』とうなずいている静莉を除いた全員が口を半開きにしていた。
その反応を見て我に返る藤森会長。
『ゴホン……』と一つ咳払いして、話を再開させた。
「失礼……ここ数年集客数は減る一方で、去年はついに五百人を下回ってしまいました。そんな寂れゆく町のお祭りです……久茂市も財政難ゆえ、この決定もやむなし……そう我々も半ばあきらめておりました……」
「ですが今日、ここにおいで下さったお嬢さんたちは、蝶々祭りが大好きだという、中止を反対する方たちです! しかもそのための秘策をこうして我々にプレゼンしにきて下さいました!」
そう言うと藤森会長は、湯楽たちの方に向かってバっと手を広げた。
「それでは、朱楽さん、藍場さん、黒木さん、えっと……黒木寧々さん! よろしくお願いします!」
会長の挨拶が終わり、八○インチの巨大液晶テレビにはでかでかと『パピヨンジャー計画(プロジェクト)』の文字が映し出された。

こうして始まったプレゼンが、後に《プレゼンの女神降臨》と蝶々商工会で長きにわたって語り継がれることとなる伝説の始まりだった……

……ビジネススーツに身を包み、威風堂々と企画内容を発表する寧々のプレゼントークは、まさに完璧だった。

時に、祭りに参加する事を楽しみにしている人々の生活とその思いを情緒たっぷりのエピソードで語り、時に他の地方で大人気になったご当地キャラがもたらした経済効果を具体的な数字で提示し……

その姿はまさに、湯楽のお婆ちゃんが言っていた通り、プロの仕事ぶりを紹介する番組に出ていた、凄腕ビジネスマンのようだった。

二十分があっという間に感じるほど充実したプレゼンが終了し、会議室に拍手喝采の音が鳴り響いた。

「はわわわわ、の……喉渇いたー……」
緊張から解放された寧々が、ヘナヘナと力なくその場にへたり込む。
そんな大役を見事に果たした彼女の元に湯楽、瑠璃、静莉が駆け寄る。
「凄いカッコよかったよ寧々ちゃん!」
「寧々ーっ! ギューっとさせてー!」
「私、寧々ちゃんのこと尊敬しちゃいます!」
それぞれ感動と感謝の気持ちを口にした三人は、その目に涙を浮かべながら寧々に抱きついた。
そして鳴り止まない拍手の中、プレゼンを視聴していた実行委員会の一人が興奮冷めやらぬ様子で寧々たち四人のところへとやってきた。
「本当に素晴らしい! 実に素晴らしいよお嬢さんたち! おじさん、こういう者なんだけどね……」
そう言って慣れた手つきで四人に名刺を配る小柄の中年男性。
受け取った名刺には《木場模型店 店長 木場衛》と書かれていた。
「まさか君たちのような今時のトレンディーなお嬢さんたちが、ヒーローのなんたるかをここまで理解していようとは……興奮だよ! 感動だよ! 感激だよ! これはもうおじさんとしても、その熱い魂には本気をもって応えるしかないと思うわけだがどうかね!?」
凄まじいハイテンションで四人に語りかける木場店長。
「は……はいぃ……」
その勢いに気圧されながら、たまたま店長の目の前にいた静莉がおどおどと答えた。
「そうか、そうか、そうこなくちゃな! ならばあえて言わせてもらうよっ! 君たちのパピヨンジャー! 最高にキュートで最高にカッコイイのだが、一つだけ! そう決定的に足りないものが一つだけあるんだよ!」
「えー!? ボクたちのパピヨンジャーに足りないものなんてあるんですか!?」
話を聞いていた湯楽が、静莉を押しのけ木場店長に迫り寄った。
「おお、キミ良い目をしているね! ならば教えよう! それはね……敵だよ敵! 悪だよ悪! この世に悪がはびこるからこそ正義のヒーローが求められるんだよ! 助けを呼ぶ声が聞こえるんだよ! 悪なくして正義なし! ヒールなくしてヒーローなしなんだよ! わかる!? わかるよねキミなら! 君たちなら!」
そう言いながら湯楽の肩にガシっと手をかけ、ガクガクと揺する木場店長。
「わわわわわかりますすすすす」
「だからね、是非ともおじさんにパピヨンジャーと戦う悪の怪人役をやらせてほしいんだ! 頼むよ! この通り!」
湯楽の肩から手を離すと、木場店長はその場で勢いよく土下座をした。
「いやいやいやいや!? そ、そんな、頭を下げられても困るよねぇ、みんな!?」
まさかの土下座に動揺しながら、周りにいる仲間たちに助けを求める湯楽。
だが、瑠璃、静莉、寧々は湯楽以上に動揺していた。
「はわわわわー!? どど、どうしようお姉ちゃん!?」
「あたしだってわかんないし! どーするのよ静莉!?」
「ははは……ど……どうしましょう……」
うろたえる少女たちの姿を見て、なぜか急に血相を変えて慌てふためく木場店長。
「かかか、勘違いしないでくれよ! 女子高生、ましてや女子中学生に蹴られたり殴られたりしたいからなどという、よこしまな気持で言ってるんじゃないんだ! おじさんもね、ずっとずーっと前からこの町にローカルヒーローを誕生させたいって、そう思ってたんだ!」
なぜ急にそんな弁明を始めたのかは謎であるが、身振り手振り必死に説明をする木場店長の姿から、本気さだけは伝わってきた。
湯楽たちがどう返答したものかと困った顔をしていると、そこへまた一人、別のおじさんが現れる。
「木場さんだけずるいですよ! それならパピヨンジャーロボの制作と中の人は、この俺、小室工務店の二代目、小室智哉に任せてもらいましょうか!」
その申し出に、湯楽がドングリ眼をキラキラと輝かせる。
「パピヨンジャーロボ、作ってくれるんですか!?」
するとまた別の、今度はおじさんではなく、おばさんが会話にカットインしてきた。
「ちょっと待ちなさい! 可愛い女の子たちが来てくれたからって、男たちばかりで盛り上がらないでちょうだい!」
そこへ別のおばさんも加わる。
「おばちゃんたちもアイドル……パピヨンユニットだったわよね? そっちの衣装作りでもなんでも手伝うからね! 遠慮なく言ってちょうだいよ!」
さらに『ワハハハハ! 男たちばかりにいい格好させたとあっちゃ、蝶々商工会女性部の名折れだからね!』と、鷲鼻の魔女のような顔をしたおばさんが加わった。
「でもまあ宣伝と応援の方は、美羽ちゃん私設ファンクラブの会長でもある藤森さんに任せた方がいいかもしれないね!」
おばさんがそういうと、ドっと笑いが巻き起こった。
「わははは、任せて下さい! コール本の制作配布からサイリウム配りまでバッチリ勤めさせて頂きますよ!」
大爆笑する実行委員会メンバーに向かって、かっこよくVサインを決める藤森会長。
そして会長は、このプレゼンを聴いて心に芽生えた夢と希望を込めて四人に向かって言った。
「そうだ、もしかするとこの町から美羽ちゃんに続くアイドルが誕生するかもしれない! これは急いでパピユニのファンクラブもつくりませんとな! わはははは!」
「わたしたちの……」
「ファンクラブ……」
そう言って四人は顔を見合わせると、あまりの気の早さに思わず吹き出してしまった。

こうしてパピヨンジャー計画(プロジェクト)は動き出した。
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