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パピヨンジャープロジェクト 作者:南兎カナル
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5/8

つ、ついに完成しました!

翌朝。
昨日と同じように教室で顔をつきあわせる湯楽、瑠璃、静莉の三人。
まず口を開いたのは、なぜかは分からないが既に半べそをかいている湯楽だった。
「うっ……静莉ちゃん……昨日あの後、瑠璃ちゃんと話し合ったんだけど……」
しかし湯楽はそこで口ごもってしまい『でも……やっぱり』とか『考え直さない?』とかゴニョゴニョと小声で言い出した。
そんな湯楽の背中を、瑠璃がポンと押して言う。
「ほら、もう決めたんだからー、パパっと言っちゃいなよ!」
「うーっ、やっぱり無理だよ! ヒーローあきらめるなんてボクには出来ないよ!」
そう言ってガックリとうなだれてしまった湯楽。
そんな彼女に代わって瑠璃は話しを続けた。
「あの後さー、湯楽と色々話し合ったんだよー。でね、静莉がアクションとか出来ないの気にしてるみたいだし、ヒーローショーはやめてアイドルライブだけにしようって」
瑠璃がそう言い終わると同時に、湯楽はダバーっと涙を流しながら静莉にしがみつく。
「うっ……うっ……ボク……ヒーローやるの……あきらめるよ……だからね、静莉ちゃんも一緒にやろー!」
泣きすがる湯楽。
だが返ってきた返事は非情なものだった。
「駄目です」
冷たくキッパリと言い放つ静莉。
その態度に、いつも軽口ばかりたたいている瑠璃が珍しく声を荒げる。
「静莉あんた……あの三途の川よりヒーロー大好きな湯楽が、ここまで言ってるんだよ!?」
そんな瑠璃を見て、静莉は軽く溜息をつくと自嘲の笑みを浮かべて言った。
「まあ勘違いされても仕方有りませんよね……言い直します。と、その前に……三途の川ではなくて三度の飯です」
そこで一つ『オホンっ』咳払いする静莉。
「では改めて言い直します……私は、ヒーローとアイドル、両方やらなければ駄目だと言ってるんです」
「だからそれだと静莉が……って、え?」
一瞬、反論しかかった瑠璃だが言ってる途中で違和感を感じ、困惑した顔を静莉に向ける。
そんな瑠璃に静莉は話しを続けた。
「それなら心配いりません。……たとえ当日、ヒーローショーで上手くアクションをこなせなかったとしても、それは大した問題ではありません」
そう言われても……という表情の二人を見て、静莉は一呼吸置いてから尋ねた。
「二人ともいいですか? ……そもそもヒーローショーとアイドルライブをやろうという目的はなんです?」
「そりゃー、あたしらでお祭りを盛り上げることでしょ?」と瑠璃。
「えっと……蝶々祭りの中止を……中止させることだよね?」と湯楽。
二人の答えを聞いて静莉が言う。
「半分は正解です。正確には、お祭りに大勢の人を呼ぶことです」
「そりゃあまあ……」
「そうだけど……」
そう言って顔を見合わせる湯楽と瑠璃。
そこで静莉は一気にまくしたてた。
「ですから、ぶっちゃけて言いますと本番でアクションがこなせなくたっていいんですよ!大切なのは、当日のパフォーマンスよりもお祭りが始まるまでに、どれだけの人に祭り会場に足を運びたいと思わせることが出来るかなんです! そのための宣伝や話題作りこそが最も重要で、これから一番力を入れて頑張らなくちゃいけない事柄なんですっ!」
長い説明を言い切り、足りなくなった酸素を得るため大きく空気を吸い込む静莉。
すると納得のいかなそうな顔で湯楽が言った。
「えー!? でも、ヒーローにとってアクションシーンは大切だし、カッコよくやらないと見に来てくれた人がガッカリしちゃうじゃん!」
「湯楽はちょっと黙ってて! うんうん、それでそれで?」
静莉の言うことに不満げな湯楽を制して、瑠璃は話しを続けさせる。
「つまりです……昨今、現役女子高生がローカルアイドルをやることなど珍しいことではありません。ですから……私たちがアイドルライブをやるというだけではインパクトに欠けるのです! ですが……アイドルとヒーロー両方やるということであれば……まだやられている方も少ないので、上手くいけばですが話題になるかもしれません」
静莉はやや恥ずかしそうに頬を赤らめながら、説明を締めくくった。
それを聞いた湯楽がドングリ眼を輝かせながら言った。
「え!? そ、それじゃあヒーローやってもいいんだ! ……っていうか今、静莉ちゃん『私たちが』って言った!? 言ったよね!?」
「はい、言いましたよ」と照れながら静莉。
「やったよ瑠璃ちゃん! 静莉ちゃん、一緒にやってくれるよ!」
そう言ってピョンピョンと飛び跳ねる湯楽をみながら、なにやら感慨深そうに瑠璃は呟いた。
「……って言うか、いるんだ……アイドルとヒーロー両方やってる人たち……」

その日の放課後。いつもと同じ帰り道を歩く三人……
「で、これからどうするんだっけ?」と瑠璃。
「人の話を聞いていなかったのですか?」と呆れる静莉。
「そうだよ! これからボクん家に集まって、パピヨンジャーロボを呼ぶかけ声を考えようって決めたじゃん!」と湯楽。
「そうそう『いでよ! パピヨンジャーロボ!』……って違います! そうじゃなくて、これから私の部屋に集まって、美羽にこの件について連絡をするんです!」
静莉は自分勝手な話をする湯楽に対して、いつもの《ツッコミ》ではなく珍しい《ノリツッコミ》を入れた。
「でもさー、意外だったよー。あたしはてっきり『美羽が大切なライブに集中できなくなると困りますから、この件については秘密にしておきます』……とか言うと思ってた」
途中、声色を変えたりしながら言う瑠璃。
そんな瑠璃をジト目で見る静莉。
「私のマネをして喋るのはやめて下さい。それに……」
「それに?」
「……内緒にしておいて後から知れたら、きっと絶交待ったなしです!」
そう言って静莉は苦笑した。
そんな静莉に瑠璃は『アハハ、じゃあ妹にもこっち来るように連絡入れとくねー』と言ってウィンクを飛ばした。

そして三人は蝶々神社の境内内にある静莉の自宅へとやってきた。
「おじゃましまーす!」と元気に家に上がり込む湯楽。
「実はさー、あたしらが静莉の家に遊びに来るのって結構久しぶりじゃない?」
そう言いながら湯楽が玄関に脱ぎ飛ばした靴をキチっと揃える瑠璃。
ギャルっぽい見た目ではあるが、行動の端々に《育ちの良さ》が垣間見える。
「……ですね。高校生になってからは……初めてかもしれません。では、こっちです」
廊下の先を指さして自分の部屋へと案内する静莉。
「アハハ、流石に部屋の場所とか忘れてないし」
だが二人が向かったのとは反対側の廊下から、真っ先に家に上がり込んだ湯楽の声が響いた。
「アレ、静莉ちゃんの部屋こっちじゃなかったっけ?」

扉を開けるとそこは……とても女子高生の自室とは思えない、何の飾りっ気もない殺風景な部屋であった。
「い、意外だねー。あたしはてっきり壁一面ぱぴこのポスターで埋め尽くされてて、机やテーブル、いたる所にグッズが並んでる……そんな感じになってると思ってた」
……実は昨日までは、まさに瑠璃の言う通りの状況だった。
だが今日二人に来てもらおうと考えた静莉は、一晩かけて部屋中にある美羽のグッズを納屋へとしまい隠したのだ。
「ま、まさか。いくら私でもそこまでは……」
(くっ……グッズを全て片付けてしまったのは愚策でした。かえって不自然になってしまったかもしれません……)
静莉はそう思いながら、ポスターの一枚ぐらいは残しておけばよかったと後悔した。

……そうこうしていると家のチャイムが鳴り、瑠璃の妹、寧々がやってきた。
玄関へと出迎えに行く静莉。
「ご無沙汰しております静莉さん。今日はお世話になります。これ、つまらないものですがどうぞ皆さんでお召し上がりください」
そう言って寧々は、持ってきた手提げ袋を静莉に手渡した。
「ありがとう、寧々ちゃん」
そんな礼儀正しい立ち振る舞いが板に付いていてる様に、静莉は(寧々ちゃんって、この間まで小学生でしたよね……)と内心、少々たじろいだ。

「そろいましたね」
寧々が加わり、これで湯楽が言い出した提案に協力しようという仲間が全員集まった。
「それでは、ちょっとだけ待って下さい……」
壁掛け時計をチラリと見た静莉が、机の椅子に座る。
そしてパソコンを起動すると、ビデオ通話が出来るソフトを立ち上げた。
静莉がこれから何をしようとしているのか……三人の視線がモニターに注がれる。
静寂の中『プープープー』という呼び出し音が鳴り響く。
そして……そこに映し出されたのは国民的美少女アイドル小紫美羽の顔だった。

「キャー!? 本当にみんなそろってるじゃない! うわー、会いたかったよー!」

画面の中、最高に可愛らしい笑顔で手を振る国民的美少女アイドル小紫美羽。

それを見て……

「これってテレビ? 今やってるの?」と湯楽。
「いやDVDでしょ? あ、違うか……この前Blu-ray買うとか言ってたソレじゃない?」と瑠璃。
「違うよお姉ちゃん。これはミタミタ動画だよ!」と寧々。

……そんな状況を全く理解出来ていない三人に静莉が説明する。

「これはビデオ通話です! だからみんなの姿も美羽に見えてますし、声も届いてます!」
それを聞いて三人は一斉に『えー!? ウソー!』と叫んだ。

そこからしばらくは、久しぶりの再開を果たした女子特有のハイテンションな会話が続いた……

「わ-、ぱぴこちゃん久しぶり-! って、アレ? スマホのチャットとかいつもしてるし久しぶりじゃないのか?」
「そうだねーって、湯楽もしかして全然背伸びてない!?」
「もがーっ! 酷ーい! 牛乳も毎朝欠かさず飲んでるし、グングン伸びてるよ!」
「あーっ! もしかして後ろにいるのって寧々ちゃん!? 寧々ちゃんは大きくなったねー!」
「はわわわわー!? ……そんなに大きくなってますか? って、なってますよね……ふぇーん、あまり嬉しくないんですけどー!」
「ぱぴこ久しぶりー! アイドルのお仕事は? 今日はお休み?」
「おぉ、さすがは瑠璃お嬢様! 良い質問です……実は花粉症が酷くて、いい加減病院に行って診てもらえという社長からの命令が出まして。半日ばかり休暇を頂いたのですよ!」
「アハハ、この前のクシャミは酷かったもんね! それで、病院は?」
「うん、もう行って鼻に薬ブシューってやってきた! だから今は絶好調だよ!」
「えー!? それじゃあボクが送った竹酢液、アレじゃダメだったのー!?」
「あぁ。アレはアレで効いた……と思う」
「でね、病院ついでに買い物してきちゃったんだけど……ジャーン! みてよこのリボン!」
「おー! わいいじゃん! あ、そっちのペンダントもイイね! どこで買ったの?」
「やはり瑠璃お嬢様はお目が高いですなー! これは渋谷のね……」

……二十分ほどたってもキャッキャウフフな会話は全く終わる気配がなかった。

そんな中、一人押し黙って様子を見ていたいた静莉が口を開く。
「あの……とても楽しそうなところ申し訳ありません。そろそろ本題に入りませんか?」
それを聞いた美羽は、ややおどおどした表情で尋ねた。
「あ……もしかして、静莉さん怒っます?」
「べ、べつに……怒ってなんかいません!」
「まあまあまあ、静莉とはいつもこうして話ししてるんだし! ネ、ネ、許しておくれよ!」
するとその話を聞いていた湯楽が両手を上げて叫んだ。
「えー! いつもこうやって顔見て話ししてるのー!?  静莉ちゃんだけズルイよー!」
そして『ていうか、いつからこうしてたの!?』『ボクも顔見て話ししたいー!』などとブーブー文句を言い出した。
そう、静莉以外はスマホのコミュニケーションアプリを使って文字のやりとりはしているが、ビデオ通話はしたことがないのだ。
そんな湯楽に静莉は困った顔で言った。
「び、ビデオ通話をするのはその……個人の自由ですから……構わないと思います」
「……ですが、プライベートな会話を盗み見られたり盗聴などされ……もし万が一それがスキャンダルに発展し……美羽のアイドル生命を……美羽の……あの美羽のアイドル生命を脅かすような事にでもなったら!?」
「そ、そうならないためにも私のようにセキュリティーを完璧にして、決してスマホで人目につくような場所ではなく、自宅のパソコンを使って……それから……それから……」
途中から気が動転したのか、思いつめた表情でブツブツと言い出す静莉。
そんな静莉の肩を瑠璃はポンポンと叩いて言った。
「ハイハイ、ぱぴこと顔見て話したい時には、静莉の部屋にお邪魔するって事で大丈夫だよね! だからそんな顔しないの!」
それを聞いて安心したのか、静莉はいつもの調子で『あ、ありがとうございます……』と顔を赤らめながらお礼を言った。
湯楽も『難しい事とか分かんないし、ボクもそうするかー』などと言いっているので瑠璃の案に同意したようである。
そして、一悶着終わったその時、モニターの中の人が再び波乱を招くような事を口にした。
「それにしても部屋の中、随分さっぱりしちゃったね。所狭しと飾ってあった私のグッズはどこ行っちゃったの?」
「!? わ、ワ、ワターシノグッズ? ソレッテナンーノコートデースカ?」
親友による突然の暴露攻撃に、静莉は謎のあやしい外国人喋りで誤魔化そうとした。
いや、思わずそうしてしまった。
だが『ねぇねぇ、グッズって何々!?』と興味津々な顔で迫る湯楽と、その後ろで必死に笑うのをこらえている瑠璃の姿を見て、怒りのゲージが一気に沸点を超えてしまった。
「もうそんな事はどうだっていいんですっ! いい加減本題に入りますよ!」
静莉の一喝で脱線していた会話は、ようやく美羽にこれまでの経緯を説明をするという本線へと戻った。

「ずるーい! 私もみんなと一緒にパピヨンジャーやりたいー!」

一通りの説明を聞いた後の、美羽の第一声がこれである。
「え……いきなりソレですか?」
静莉が口元を引きつらせながら言った。
「だって楽しそうだもんパピヨンジャー! うぬぅー、どーしてライブとバッティングするかなー!?」
本気で悔しさを滲ませながら言う美羽。
その言葉に目をキラキラさせながら湯楽が食いつく。
「でしょでしょー! 楽しそうでしょーパピヨンジャー!」
「ちなみにボクは燃える正義のアカタテハ! パピヨンレッドだよ!」
そう言ってWEBカメラに向かい意気揚々とポーズを決める湯楽。
「いいねー、カッコイイね! それで、他のみんなは?」
「えっとねー、瑠璃ちゃんがブラックでクロアゲハ、寧々ちゃんはイエローでキアゲハ!」
「おぉっ! なるほど、そう来ましたかー。すると静莉は……」
「静莉ちゃんはブルーだよ! パピヨンブルー! 蒼穹の風パピヨ」
湯楽がそう言いかけたところで、静莉が両手をブンブンと交差させ話を遮った。
「あー、もうその話はいいですっ! それよりも先に話しておかななければいけない事が」
「そっかー。やっぱり静莉がブルーかー。蒼穹の風……いいなーパピヨンブルー」
しかし美羽は、まだまだこの話をする気満々であった。
「それじゃあ、ぱぴこちゃんは小紫美羽だから、パピヨン……パープル、パピヨンパープルでどう!?」
なんの捻りもないネーミングであるが、本人的には会心の出来らしくドヤ顔で言う湯楽。
「パピヨンパープル! ……いいね、いいんじゃない! パピヨンパープル!」
「でしょでしょー! いいでしょ! パピヨンパープル!」
「I am パピヨンパープル!」
「Yes! パピヨンパープル!」
「We are パピヨンピープル!」
「ピープルパープルー!」
盛り上がる二人。
端から見て、もう誰にも止められない状態である。
その様を静莉はただ呆然と見つめていた……
「パピヨンパープル……パピヨンパープル……むむっ!? 思いついたかも!」
そう言って、三歩ほどカメラから離れる美羽。
そして……
「紫炎をまといし優美なるオオムラサキ! パピヨンパープル!」
新体操でよく目にする上体を前屈させるのと同時に片足を後ろに跳ね上げ、そのままクルっと一回転させて元の姿勢に戻る技……
美羽は、この俗に《もぐり》と呼ばれる技から、プロのスーツアクター顔負けのポーズを決めてみせた。
「こんな感じでどう? 本番とかいけちゃう!?」
「凄い! 凄いよぱぴこちゃん! これなら見に来てくれた人も大盛り上がり間違いなしだよ!」
そこで、別世界に意識が飛んでいた静莉が我に返って言った。
「だから、そもそも美羽が当日来れないうえに、事務所の方針で宣伝も出来ないから私たちで何とかしようという事になってるんじゃないですか!」
「そうなんだよねー。ほんと静莉の言う通り、事務所の社長が『イメージ戦略の一環として……』とか言って、地元に関する発言一切禁止なんだよねー」
美羽がそう言うと、さっきまでの明るいムードから一転しどんよりとした雰囲気になってしまった。
「でも、きっと何か協力できる事があるはずです! ……美羽じゃなきゃ出来ない何かが!」
そんな暗くなった雰囲気を払いのけるように静莉が言う。
「静莉……」
「美羽だって蝶々祭りが大好きでしょうし、みんなのために何かしたいはず……そう思ったからこうして連絡したんです!」
静莉の言葉を聞いて、みんなの表情がやる気に満ち溢れていく。
「まずは、蝶々祭り実行委員会に新規プログラム追加申請として企画案を提出し、検討、承認してもらうところからです!」
それを聞いた湯楽が目をまんまるにして驚く。
「えー!? 当日ステージに飛び入りで上がってやるんじゃ駄目なの!?」
静莉は(お婆さまのおっしゃる通りでした……これは私がいなければ大失敗間違いなしです!)と心の中で嘆いた。

するとそれまで、姉たちの様子を見ていた寧々が口を開いた。
「あの静莉さん……その企画案って書類で提出するんですか?」
「どういう事?」
「その……プレゼンとか、やらないのかなと思って……」
大きな体をモジモジさせながら言う寧々。
そこで再び湯楽が驚きの声を上げた。
「え!? 何かプレゼントするの?」
「あぁ! もしかして時代劇でやる『お主も悪よのー』ってやつ!?」
ボケにボケを被せる瑠璃。
「それはプレゼントじゃなくて賄賂です! 袖の下です! 山吹色のお菓子です!」
二人のボケにきっちりとツッコミを入れる静莉。
「お姉ちゃん、プレゼンはプレゼンテーションの略だよ」
「ぷ、プレゼン……テーションでしょ? それくらい知ってるし!」
「プレゼンテーションは相手に自分たちの企画とかをパソコンとかプロジェクターとかを使って、興味を持ってもらえるように上手く発表することだよ」
「アハハ、だから知ってるって! じ、自分たちの企画をパソコンとか……ぷ、プロレスラーとか使って、上手く発表することでしょ!」
流石にもうツッコミを入れる気力が尽きたらしく、静莉は瑠璃をスルーして言った。
「プレゼンをした方が、企画を通してもらえる可能性もグンと上がると思うのですが……」
腕組みをし、何か思案している様子の静莉に寧々が尋ねる。
「その……問題とかあるんですか?」
「ゴメン……あのね私……人前で話すのが……大の苦手で……」
そう言って申し訳なさそうにうなだれる静莉。
「あたしもそういうの苦手だからパース!」
聞いてもないのに自己申告する瑠璃。
だがここに、なぜか自信満々で名乗りを上げる少女がいた。
「ハイハイハイ! じゃあボクがやるよ!」
そんな湯楽をガン無視して瑠璃が言う。
「アハハ、やっぱり書類で出すしかないんじゃないかなー?」
「もがーっ! 何でだよー! あっ……そうだ! 寧々ちゃんにやってもらえばいいんだよ!」
何か思い当たる節でもあるかのか、湯楽は自信たっぷりにそう言った。
「まあ確かに、この中じゃ寧々が一番大人っぽいし説得力あるかもねー」
「酷いよお姉ちゃん! 私が一番年下なんだよ!?」
「あー、そうじゃなくて……」
どうやら湯楽が寧々を推薦した理由は、ソレとは違うようだ……
「あのね、うちの婆ちゃんが弟の授業参観に行った時、寧々ちゃんの発表がめちゃくちゃ上手だったて褒めてたんだよ!」
それを聞いてビックリする寧々。
ちなみに寧々と湯楽の弟、有馬くんとは同級生である。そして有馬くんは他の同級生男子がそうであるように国民的美少女アイドル小紫美羽の大ファンであった。
「え!? ほ、本当に?」
「うん! まるでプロの仕事ぶりを紹介する番組で見た、凄腕のビジネスマンみたいだったって凄く感激してた!」
すると言われた寧々の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
突然の涙に『どうしたの!?』と驚く湯楽。
そんな湯楽に寧々は涙を拭いながら答えた。
「あの時は……家庭教師さんとの血の滲むような自由研究の発表……いえ、プレゼンの特訓を来る日も来る日もやって……だから上手くいったのが本当に嬉しかったの……ゴメン……思い出したら泣けてきちゃった」
「おお、そっかー。でもね本当に婆ちゃん、寧々ちゃんは凄い凄いって、有馬が『しつこいよ!』って呆れるぐらい言ってたんだよ!」
それを聞いた寧々は、泣き顔から一変、凜とした顔つきで言った。
「そうだよね……湯楽ちゃんのお婆ちゃんのためにも、お祭り存続させなきゃ! うん、プレゼンは私にまかせて!」
その決意に感動した瑠璃が妹に飛びつく。
「寧々-! あんたは我が妹ながら本当にいい子だなー!」
「やめてよお姉ちゃん、恥ずかしいよー!」
勢いよくほおずりしてくる姉に、寧々は困った顔をしながらそう言った。

「それでは、何はともあれ企画書作りですね! 目的……は、はっきりしていますし、コンセプト、スケジュール、予算……どの辺りから話をしていきましょうか?」
なんとなくな流れで寧々がプレゼン発表を担当することに決まったところで、話し合いを進めるべく静莉が切り出した。
それに対してモニター越しに美羽が力強く即答する。
「まずは歌よ! ステージで発表する歌をどうするか考えましょう!」
「おー、さすがはアイドル!」
やんやとはやし立てる湯楽と瑠璃。
「さすがじゃありません! いきなりそんな細かいところから話を始めては、まとまるものもまとまりません!」
文句を言う静莉に、美羽は不適な笑みを浮かべる。
「甘いわね、静莉……」
そして人差し指をピっと立てると質問を投げかけた。
「イベントを成功させるのに、一番大切なものって何かしら?」
「一番大切なもの……」
「そう、一番大切なものよ!」
「それは……」
「それは?」
「それは……事前の下調べとか、マーケティング」
そう言いかけた時ふと、あの日境内で湯楽のお婆ちゃんに言われた言葉が静莉の脳裏をよぎった。
『いいのよ、いいのよ。みんなのために何かしたいって気持ち、それが一番大切なの。若い
人は何事もチャレンジよ!』
「じゃなくて……」
「じゃなくて?」
「やっぱり、気持ち……何かしたいっていう気持ちが大切なんじゃないの……かな?」
「……さっすが、マイベストフレンド! 大正解!」
そう言って、爽やかな笑顔でサムズアップをする美羽。
「だからモチベーションを下げるような小難しい話よりも、まず最初は士気を高めるために、みんなが一番盛り上がるお題から話し合うべきなのよ!」
力強く言う美羽を『おー、さすがはアイドル!』と、またまた湯楽と瑠璃がやんやとはやし立てた。
「……それで、歌に関して何から話をすればいいんです?」
口をとがらせ言う静莉に、美羽はおっかなびっくり尋ねる。
「あれ? せ、静莉……ちゃん、もしかして怒ってる?」
「怒ってません! だから、ちゃんとみんなの士気が高まるように話を盛り上げて下さい!」
そう言うと静莉は自嘲気味に笑った。
美羽はそんな静莉の表情を見てホッと胸をなで下ろすと、気持ちを切り替え歌の話を始めた。
「そうだね、まずはどんな歌にしたいのか! って話しからかな。で、大体のイメージが固まったら次は作詞、作曲、編曲をどうするか……」
そこで湯楽が『ハイハイ先生!』とWEBカメラに向かって手を上げる。
「作詞と作曲は分かるんですが、編曲ってなんですか?」
「おぉ、湯楽くん。良い質問だね……アレンジャーさんといって……って小難しい話しはとりあえず後回しにしようか!」
「あっ! さっき言ってた『モチベーション下げる』ってやつか。それならボクはパピヨンジャーの話が一番ヤル気出るよ!」
「あたしは衣装の話がいいかなー。ほら、ぱぴこが着てるみたいな可愛いアイドル衣装とか! みんなも着てみたくない!?」
話の流れを気にすることなく、好き勝手言い出す湯楽と瑠璃。
「み、美羽みたいなアイドル衣装を、わ、私たちが……」
そう言うと静莉は顔を真っ赤にしながら『2ndライブの時のキュートなのもいいのですが、3rdライブの時に着たエレガントなのも捨てがたいですね……』と一人ブツブツと呟きだす。
「……そ、それじゃあ衣装の話からする?」と美羽。
「前々回のベストミュージックステージの時の衣装、アレ凄く可愛かったと思うんだけど!」と瑠璃。
「お姉ちゃん、テレビ見ながら可愛い可愛いって連発してたもんね!」と寧々。
「衣装なら、ヒーロースーツの話がいいよー!」と湯楽。
そして……
「ぜ、前々回美羽が着ていた衣装というとあのゴスロリメイド風のアレですか!? あ、あれを、わ、私たちで……」
耳まで真っ赤にして完全にフリーズしてしまう静莉。

そんなこんなで初日の話し合いでは、ほとんど何も決まらなかったのだが……

それから、二週間後……
発表の前日、ギリギリになってようやく企画書が完成した。

「つ、ついに完成しました!」
「うん、出来たね! パピヨンジャー計画(プロジェクト)!」
「本当にこの企画案、そのタイトルでいいの? ねえ、お姉ちゃん!」
「アハハ、まあ湯楽が言い出した事だからね-」
「みんな、私の分まで発表頑張ってきてね!」

最後の最後まで難航したのがアイドルグループのネーミングであったが、もめにもめた末それも無事に《パピヨンユニット》略して《パピユニ》に決定した。
疲れ切った顔ではあるが、五人の表情にはやりとげたという達成感が滲み出ていた……
+注意+
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