挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
パピヨンジャープロジェクト 作者:南兎カナル
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

4/8

よし、頑張ろう!

「裏切り者……」
次の日。まだ朝のホームルームが始まる前の教室で、静莉は不機嫌そうにそう言った。
「ていうかホラ、そういう流れだったっていうかさー、湯楽のおばあちゃんがね……」
静莉の辛辣な言葉に瑠璃は必死になって弁明を試みたが……
「『絶対に無理』って言ってましたよね! 『恥ずかしくて死ぬ』とも言ってました!」
静莉は断固として聞く耳を持たないという姿勢を崩そうとはしなかった。

そう……瑠璃は朝、静莉と顔を合わせてすぐに昨日銭湯であったことを伝えたのだった……

「裏切り者……」とジト目で静莉。
「うっ……」っと口元が引きつる瑠璃。
「だから、湯楽のお婆ちゃんだけじゃなくて、肉屋のおばちゃんとか……他にもきっとお祭りを楽しみにしてる人たちがさ……大勢いるっていうか……」
「その気持ちは……分かりますけど……」
するとそこへ、二人よりも遅れて登校してきた湯楽がやってきた。
「おはよう静莉ちゃん! 聞いて! 聞いて!」
「パピヨンブルーとか絶対にやりませんからね!」
元気よく笑顔で挨拶してきた湯楽に、静莉が仏頂面で言い放つ。
「あはは……ってもう聞いてるみたいだね」
湯楽は静莉の一言で、今の状況をほぼ察した。

「じゃあ、ヒーローはひとまず置いといてアイドルの話しない?」
瑠璃がなんとか話の流れを変えようと試みる。
「えー!? なんで-! せっかく四人目の戦士が誕生する大事な話なのに!」
だが残念なことに、この場にいる唯一の味方には、その機転を理解する頭がなかった。
仕方なく瑠璃は『ヒーローとアイドル、どっちもやるんだよね?』と笑顔で言いながら、さりげなく湯楽を肘でつつく。
すると湯楽はようやく瑠璃の考えに気が付き『あ! うっ……うん』と答えた。
しかし、そのやりとりをジト目で見ていた静莉には、二人の考えは筒抜けだった。
「アイドルの話をしても結果は同じです!」
「そもそも私はアイドルファンなのではありません! アイドル小紫美羽のファンなんです!」
それを聞いて瑠璃は『……でも元から好きだったよね? アイドル』と食い下がる。
「そうだよ! 幼稚園の時アイドルごっこやろう! ってみんなを誘ってたの静莉ちゃんだった!」と湯楽も瑠璃に続いた。
二人の言葉に、たじろぐ静莉。
「それは子供の時のことです! それに……」
そこで静莉は一呼吸置いてから、深く息を吐き出すように言った。
「それに私、美羽や瑠璃みたいに可愛くないですし、湯楽のように運動神経が良いわけでもありませから……」
「運動神経?」
『なぜここで運動神経が出てくるの』と、ポカン顔の湯楽。
そんな湯楽に静莉は自分の言った言葉の意味をやけくそ気味に説明する。
「アイドルとしてダンスや、その……ヒーローとしてアクションをこなすことが出来ないと言ってるのです!」
「でもでも静莉ちゃん! 巫女さんの舞とか凄く上手じゃん!」
「あれは物心がついた頃から、毎日お稽古して身につけたもので、それとこれとは話が別です!」
言い争う二人。
するとその様子を見ていた瑠璃が、サイドポニーに縛った髪を指でクルクルといじりながら言った。
「うーん。髪型とかチョイチョイっていじったら、めちゃ可愛くなると思うんだけどなー」
「か、かわ、可愛く……!?」
瑠璃の言葉に顔を真っ赤にする静莉。
そこに湯楽が追い打ちをかける。
「そうだよ! 静莉ちゃん美人さんだし!」
「びじ、美人さん……!?」
「静莉なら絶対アイドルいけるって!」
「やろう静莉ちゃん! いや蒼穹の風パピヨンブルー!」
勢い任せに言いくるめようと迫る二人に向かって、静莉は悲鳴を上げるように叫んだ。
「ともかく無理です! 不可能でーす!」

結局話がもつれたまま下校の時間となり、帰りの道すがらの延長戦でも決着は付かず、それぞれ自宅に戻ることとなった。

茜色に染まる空をカーカーとカラスが山へ帰って行く。
(今日は本当につかれました……)
溜息をつきながら、巫女の装いで社務所から出てきたのは、ここ蝶々神社の娘、藍場静莉だった。
竹ぼうきを手に境内の掃き掃除に向かうその足取りは重く、今朝からの強風で大量に散り積もった桜の花びらの上を歩く姿はとても憂鬱げだ。
(アイドルか……)
静莉は慣れた手つきで桜の花びらを掃き集めながら、今朝、湯楽と瑠璃から言われたことを思い出していた。
『……でも元から好きだったよね? アイドル』
『そうだよ! 幼稚園の時アイドルごっこやろう! ってみんなを誘ってたの静莉ちゃん
だった!』
「……」
(……そう、そうですよ……そうですとも! 私はずっとずっと前からアイドルに憧れてますよ!)
そう心の中でふてくされ気味に文句を言いながら、静莉は無意識に鼻歌を歌い始めていた。
「ふふふーん、ふふーん」
(今だってアイドルが大好きだし、出来ることならその……アイドルになりたいって……そう思っていますよ!)
「ふーん、ふふふーふふーふーん!」
静莉自信も気が付かないうちに、鼻歌の音量がどんどん大きくなっていく……
(でも自分じゃ絶対になれないって……そんなの……美羽を見てれば嫌でも分かります!)
「ふふふふふふーん! ふふふふふふふふーん! ふふふふふふふふーん!」
そしていつの間にか、手に持った竹ぼうきをマイクスタンドに見立ててポーズまでとりはじめた。
(あの可愛さ! あの輝き! そんなの……自分は持ってない!)
心の中でそう叫んだ時、鼻歌は静莉の親友にして国民的美少女アイドル小紫美羽のヒットソングへと変わっていた。
「サナギだった昨日にBye Bye! I Can Fly! You Can Fly! 羽を広げて! I Can Fly! You Can Fly! 夢を信じて!」
ノリノリで腕を振り上げる静莉。バっと巫女装束の長い袂がひるがえる。

「おや、静莉ちゃんも歌の練習かい?」

「!?」
突如背中から声をかけられた静莉は、口から心臓が飛び出すほど驚いた。
足はガタガタと震え、顔から冷や汗がダラダラと流れ落ちる。
そんな静莉が恐る恐る振り返ると、そこには見知った老婦、湯楽のお婆ちゃんが立っていた。
「ゆ、ゆ、湯楽の……お、おば、おば、お婆さま!?」
「すまないねー、静莉ちゃんまで巻き込んじゃって」
「……い、いえ! ま、巻き込むって、何をですか?」
完全にパニック状態の静莉。
「昨日はね、瑠璃ちゃんと寧々ちゃんと三人で、遅い時間まで変身ポーズだの歌の振り付けだの色々頑張ってやってたのよー」
湯楽たちのことをニコニコと楽しそうに話すお婆ちゃん。
そんなお婆ちゃんを見て静莉はやっと冷静さを取り戻し、話の流れを理解した。
(そうか、巻き込むって……お婆さまは私が歌っているのを見て、瑠璃や寧々ちゃんと同様に湯楽に協力して練習していたと勘違いしたんだ……)
気が付き、心がザワザワする静莉。
「あ、あの……お婆さまは……今日はどうなされたのですか?」
「近くまで来たからね、湯楽ちゃんたち四人の成功を、お稲荷さまにお祈りしとこうと思ってね」
静莉はとりあえず当たり障りのない話から……と思って尋ねたのだが、思いもよらぬ心に刺さる答えが返ってきてしまった。
(湯楽ちゃんたち四人の成功をお祈りに……か……)
その言葉を聞いて、静莉は正直に今の自分のことを話そうと決意した。
「あのね、お婆さま……ゴメンなさい! 私、湯楽に……協力は出来ないって……言ったんです」
うつむいてそう告げる静莉の姿を、じっと見つめる湯楽のお婆ちゃん。
「私……湯楽のように運動神経が良いわけでもないですし、美羽や瑠璃みたいに可愛くもない……」
「ヒーローとか、その……アイドルとか! ……やれる自信が全然ないんです! こんな……こんな私じゃ湯楽の力になってあげられません!」
そう言って顔を上げた静莉の目は涙で潤んでいた。
「静莉ちゃん……」
その目を見て湯楽のお婆ちゃんは、堅くぎゅっと握られた手をそっと握りしめる。
すると静莉の涙は堰を切ったようにポロポロと溢れて止まらなくなった。
「私だって蝶々祭りが大好きです! 無くなってほしくありません! 湯楽のためにも、みんなのためにも何か……何かしたいんです!」
「うん、うん。そうだね、そうだね静莉ちゃん」
静莉の話を聞きながら湯楽のお婆ちゃんは、取り出したハンカチで優しく涙をぬぐった。
「ご、ゴメンなさい。私……」
どうやら静莉は、溜まっていたものを吐き出せたお陰で、少し冷静さを取り戻せた様子だ。
「いいんだよ、静莉ちゃん」
湯楽のお婆ちゃんは、静莉が落ち着くのを待って話を続けた。
「婆ちゃんね、静莉ちゃん抜きじゃ、きっと湯楽ちゃんたち大失敗すると思うのよ」
静莉の目をジっと見ながらな話すお婆ちゃん。
「ど、どうして……ですか?」
「あの子たちね、自分たちが頑張って歌って踊ってみせれば、それだけで成功すると思っているもの」
「それだけで……」
「そう、それだけでよ。イベントを成功させるのに必要なことって、歌えるとか、踊れるとか、そうそう可愛いとか……それだけじゃないでしょ?」
「……!」
その時、静莉はお婆ちゃんが自分に何を言いたいのか理解した。
「しっかり者の静莉ちゃんじゃなければ出来ない事が、あるんじゃないのかい?」
(そうだ、私じゃなければ出来ない事……私がやらなきゃいけないことがあったんだ!)
「ありがとう! お婆さま!」
そう感謝の気持ちを伝える静莉の表情には、すっかり笑顔が戻っていた。
「いいのよ、いいのよ。みんなのために何かしたいって気持ち、それが一番大切なの。若い人は何事もチャレンジよ!」
そう言うとお婆ちゃんは『頑張ってね』と言い残し境内を後にした。
その背中を見送った後、静莉は周りに誰もいないこをしっかりとよく確認してから気合いを入れて再び美羽のヒットソングを歌い出した。
「よし、頑張ろう! You Can Fly! I Can Fly! 羽を広げて! You Can Fly! I Can Fly!」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ