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義勇艦隊奮戦録
作:山口多聞



第二次日本海海戦 中


 空戦が始まると、ソ連太平洋艦隊の直掩戦闘機であるF6F戦闘機は、義勇海軍攻撃隊の護衛戦闘機「炎龍」との空戦に手一杯の状態となってしまった。

 これはF6F戦闘機の性能が「炎龍」よりも格下であったことに加えて、パイロットの腕も問題だった。

 ソ連海軍のパイロット達は、F6Fが購入された2年前から操縦してきてた者ばかりであったが、燃料の不足から訓練時間が不足していた。また、F6Fの持ち味である強力なエンジンと馬力を物に言わせての急降下一撃離脱戦法や、編隊による集団戦闘に関する研究も訓練もほとんど行っていなかった。

 このため、数ではほぼ同数で行なわれたこの空中戦は義勇艦隊側の一方的な物となり、最終的に「炎龍」の犠牲が5機であったのに対し、F6Fは43機を失っている。

 結局、ソ連戦闘機隊は奮戦したものの、艦隊を守るどころか自分たちの戦力の70%以上を失うという結果になってしまった。

 その防衛網を、義勇艦隊の艦爆と艦攻は易々と突破し、ソ連太平洋艦隊に襲い掛かった。もちろん、それに対して艦隊の対空砲火が一斉に火を噴いた。

 駆逐艦から戦艦に至るまで、全ての艦艇があらゆる武器を上空に向けて撃ち放った。しかし、ここでも練度の不足が露呈してしまった。

 ソ連艦隊には実戦経験がなく、さらに低空で飛ぶ雷撃機や急降下爆撃機への対空訓練に掛けた時間も著しく少なかった。また、使用する対空火器もVT信管を内蔵しておらず、旧式の時限信管であった。

 これはアメリカ製の艦も同様であった。さすがに最新兵器を売るほどアメリカ人は甘くなかった。さらに、対空射撃指揮装置も一世代古い物だった。そのため、高速で飛ぶ「彗星」や「天山」を追尾できなかった。

 まず最初に犠牲となったのは、2隻の空母「レーニン」と「スターリン」であった。この2隻には800kg爆弾で爆装した「彗星」が襲い掛かった。

 2隻は必死に回避運動を行なったが、最高速力が20ノットも出ない貨物船改造空母の動きは鈍く、さらに対空砲火も「彗星」に命中弾を与えられず、「レーニン」が2発、「スターリン」が3発の直撃弾を受けた。

 ただでさえペラペラの装甲しか持たない護衛空母に、特大級の爆弾が立て続けに命中して無事に済むはずが無い。まず「スターリン」が大爆発を起こし轟沈し、さらに「レーニン」も機関停止し、30分後には「スターリン」の後を追った。

 2隻の空母が被弾した数分後に命中弾を受けたのが、巡洋艦「カリ−ニン」だった。同艦は6機の艦爆と4機の艦攻に狙われ、投弾後上昇中の艦爆1機を撃墜したが、魚雷2本と爆弾4発を喰らって大破し、航行不能となった。

 さらに、同型艦の「ガガノヴィッチ」も10分後には被弾し炎上している。この2艦はソ連製で対空砲火が薄く、良い的となってしまった。

 さらにアメリカ製の重巡「ポルタワ」も狙われた。同艦は元「ポートランド」で、40mm機関砲や5インチ対空砲など、それなりの武装を備えていたため、撃墜機こそ少なかったが、多数の敵機を撃退している。それでも、爆弾2発を後部に受け、速力が半減した。

 さらに残る2隻の重巡も戦闘開始30分後にはなんらかの損害を受けていた。

 また、3隻の軽巡洋艦も1隻が撃沈され、1隻が大破し、この航空攻撃の終了後戦闘可能な状態で残っていたのは1隻のみと言う状態であった。

 駆逐艦に至っては出港前に国境警戒任務に就いていた艦まで編入し18隻いたにもかかわらず、実に7隻が撃沈され、2隻が戦闘不能となっていた。

 それに比べて、2隻の戦艦は最低限の被害で済んでいる。わずかに「ウラジオストク」の3番砲塔に爆弾が一発命中し使用不能となっただけであった。

 最終的に義勇艦隊航空隊の攻撃は40分ほどで終わり、軽空母2、重巡2、軽巡1、駆逐艦7隻が撃沈され、重巡1、軽巡1、駆逐艦2隻が戦闘不能のダメージを負ってしまった。

 艦隊の6割が撃沈されるか戦闘不能に陥ってしまったことになる。さらに、上空掩護の戦闘機隊もウラジオストックへ向かうか不時着水し全滅した。これは普通ならこれ以上の戦闘がとても続行できないほどの被害であった。

 しかし、艦隊司令官のマリコフ中将は強気だった。

「確かに大きな打撃を被ったが、2隻の戦艦はほとんど被害を受けていない。義勇艦隊には戦艦は無く、一番大型の船でも軽巡クラスのはずだ。だから、このまま砲戦に持ち込めば勝機はある。」

 この時、マリコフ中将にとっての不幸は、義勇艦隊が戦艦を手に入れていることを知らなかったことにある。もしその情報を得ていれば、さすがに艦隊決戦を躊躇ったであろう。なぜなら彼らの乗る戦艦は36cm砲で、対36cm防御であり、義勇艦隊の「長門」級に対してスペック面で大きく劣っていたからだ。

 しかし、彼はそれを知らず、ウラジオストックに護衛戦闘機の発進を要請し、戦闘不能艦に同地への回航を支持すると、義勇艦隊目掛けて突進を開始した。

 もっとも、護衛戦闘機は満州方面の機材消耗の激しさから派遣してもらえなかったが、これは義勇艦隊からの第2次攻撃がなかったので幸いにも、それが原因で被害を受ける事はなかった。

 一方、義勇艦隊が第2次攻撃を出さなかったのは、投入できる全ての機体を第1次攻撃に使用したからだ。

 パイロット達は再度の攻撃を行えるよう意見具申したが、被弾機の数が予想以上に大きく、また帰還予定時刻が夜間になることから、結局断念せざる得なかった。

 白根は航空部隊に後方へ下がるよう命じると、ソ連太平洋艦隊との艦隊決戦を行なう事を決めた。

「こちらの戦艦は40cm搭載艦であるし、乗員も歴戦の兵士ばかりである。また、巡洋艦や駆逐艦の数も勝っている。負ける要素は何も無い。」

 白根は自信に満ちてそう言いきった。参謀たちや「長門」の早川艦長らもその意見に賛同し、義勇艦隊は敵艦隊との決戦を求め、北上を開始した。敵艦隊との接触まで6時間と見積もられていた。

 白根は、考えていた。

(これまで多くの人間を、俺は戦場へと送り込んだ。しかし自分にはまだその経験がない。俺は一度身をもって、彼らが体験した戦場に赴く必要がある。)


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