渤海海戦 下
先に発砲したのはなんと張学良軍の砲艦であった。こちらの停戦要求を不当と考えたようだが、反論も一切なしで力に抵抗を行ってきた。
「先に撃っただと!!」
さすがに大貫も驚きを隠さない。
そして敵弾が着弾するが。それは見当違いの位置であった。
それを見て、大貫は新たな命令をだす。
「どうやら敵の練度も低いようだな。よし先任士官、「彗星」に打電。貴艦は敵輸送船を追跡し拿捕せよと信号を送れ。敵砲艦は我が艦のみで仕留める。」
「了解です。」
黄上尉がすぐに信号所に命令を出す。
その間に、敵は第二射を行ったが、またしても遠弾であった。これは張学良軍の艦艇の練度不足を物語っていた。
「こちらも砲撃準備完了しています。距離は既に7200.」
「よろしい。撃ち方始め!!」
大貫の命令が発令された数秒後、「流星」のカノン砲が初弾を発射した。そしてしばらくしてその砲弾が海面上に水柱を立てたのが確認された。
「遠弾です!!」
見張り所からの報告である。それに対し、大貫と黄は渋い顔をする。
「艦長。」
「やはり練度不足か・・・・それに砲自体も陸軍の砲だからな。海上で撃つことなど配慮されておらんだろうし。」
続く第二射は先程より敵に近いところで着弾したが、有効弾にはほど遠かった。
「貴様ら、もっとちゃんと撃たんか!!」
「は!!」
カノン砲では、砲術長が砲術員に活を入れるが、どんなにがんばろうと精神力だけでは練度の不足はどうにもならない。何せ彼らはこの砲の実射訓練を一度だけ、しかも陸上目標にしか撃ったことがないのだ。また、射撃指揮装置も計算尺に毛の生えたような代物しかない。
「距離6800!!」
さらに敵との距離は詰まる。その間に両艦とも発砲し続けるが、どちらも未だに有効弾を得ていない。しかし、砲艦の方は12cmクラスの砲を前後2箇所に載せているらしく、飛来する砲弾は敵の方が圧倒的に多い。
「クソ!!門数では敵のほうが有利だ。せめて魚雷があれば。」
いくら言っても無い物ねだりである。そして、その言葉に罰を与えるか如く、敵の砲弾の一発が至近弾となった。
衝撃が艦を揺さぶる。
「どこをやられた?被害対策班はただちに作業にかかれ!!」
元来、駆逐艦というのはブリキ缶とか車引きと言われるように、敵の攻撃を受けたら沈みやすい。「流星」も一応機関をシフト配置にするなどの被害対策を行ってはいるが、装甲は全く無い。だから一発の砲弾でも打ち所が悪ければ致命的な打撃になりかねない。
「ただいまの砲弾は至近弾。艦体への被害はなし。ただし破片により2名が軽傷。」
どうやら大きな被害を出さずに済んだようだ。人的被害も最小限で済んだ。
「距離5500!!」
「後部機銃群は有効射程に入り次第撃ち方始めよ。」
門数で劣る以上、ありとあらゆる方法をとらねばならない。
と、そこへ明るいニュースが入る。
「こちらの砲弾も至近弾を得ました。」
「ようし、その調子だ!!みんながんばれ!!」
その言葉が通じたのかわからないが、ついに命中弾が出た。敵艦の煙突にパッと爆発の炎が確認できた。
「命中弾1!!」
その途端、艦内各所で歓声が上がる。
「ようし、もう一息だ!!」
そして、機銃の射程にも入り、2基の40mm機関砲がそれぞれ火を噴いた。
機関砲といえど、40mmというのは対戦車砲なみの口径である。防御力の弱い小型艦には大きな脅威となる。
案の定、煙突への命中弾で動きが鈍った敵艦は、40mm機関砲弾が命中するとさらに動きが鈍り、速力を減じていく。それとともに、こちらのカノン砲弾も命中しだす。そして、5発目を受けたところで,燃料庫か弾薬庫に引火したのか、敵砲艦は大爆発を起こした。
「よし、撃ち方やめ!!敵艦の生存者救助を行う。」
ついさっきまで殺し合いをおこなっていた相手を助ける。何か矛盾しているようだが、それが戦争であり、戦いを行う上での矜持だった。
「流星」は速度を落とし、内火艇を降ろす。
最終的に、沈没のスピードが速かったため、生存者はわずか13名であった。
「生存者に対しては国際法に則った扱いを行うように。」
こうして、「流星」の初戦闘は終わったが、その結果は敵砲艦1を撃沈したものの、予想以上の弾薬と時間の浪費を招き、さらには命中弾2発、至近弾3発を受けた。さいわい命中弾が不発で済んだからよかったが、炸裂していればこちらも相応の打撃を受けていた。
「まだまだ課題は多いな。」
「ですね。」
大貫と黄がしみじみと語ったところで、「彗星」から入電が入る。
「我敵輸送船拿捕に成功せり。」
彼らは一応の作戦目標を達成した瞬間であった。
「では帰るか。これより本艦は「彗星」と合流し、旅順に帰還する。」
「了解!!」
こうして彼らの初戦闘は終わった。
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