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義勇艦隊奮戦録
作:山口多聞



ウェーク島沖海戦 上


 緒戦から日本軍に押されっぱなしで良い所のなかった米軍であるが、いよいよ本格的な反撃開始の狼煙を上げる時が来た。時に昭和18年の9月の事である。

 ガダルカナル方面での戦いで戦艦や巡洋艦に消耗が発生したために、米軍の中部太平洋方面での反撃は4ヶ月以上遅れる事となったが、それでもついに米海軍にとってこれまでの恨みを晴らす戦いであるので、全軍の士気は高かった。

 この時までに米軍は戦艦では最新鋭の「サウス・ダコタ」級戦艦3隻、アイオワ級4隻を竣工させていた。ただし、この内アイオワ級は4隻すべてが大西洋にいた。慣熟訓練が終わっていないためや、フランス海軍を取り込んで増強された枢軸海軍に対抗しなければならなかったからだ。

 この世界では、緒戦のマーシャル沖海戦が艦隊決戦であったため、米海軍は完全に艦隊決戦主義から抜けていなかった。そのため、正規空母の建造は10隻で打ち止めとなり、代わりにモンタナ級戦艦4隻と、46cm3連装砲4基を持つ「フロリダ」級戦艦4隻が起工されている。

 そのため空母では、生き残った「ホーネット」に加えて搭載機100機、排水量27000tを誇る「エセックス」級空母3、巡洋艦改造の搭載機45機の「インディペンディンス」級空母を2隻のみであるが、それでも艦載機500機を誇る。それら空母を揃えて太平洋艦隊は機動部隊を復活させていた。

 この新太平洋艦隊とも言える大艦隊は8月終わりに次々と真珠湾を出港し、西へと出撃していった。

 この艦隊の動きに、潜水艦の報告から気付いた日本海軍は直ちに各方面に警報を出して、米機動部隊の襲撃に備えた。

 そして9月1日、ついに米機動部隊はその牙を日本軍に向けてきた。その最初の標的になったのがウェーク島であった。

 ウェーク島は緒戦に日本軍によって占領され、大鳥島と改名されていた。ただし、島自体は小さなサンゴ礁に浮かぶ島で、水も出ないし起伏も余りない島であった。ミッドウェー島とそれは良く似ていた。

 戦前派太平洋横断旅客機の給油用飛行場であったが、この時点では潜水艦による日本軍のハワイ方面偵察の基地となっていた。基地と言っても、特設潜水母艦を浮かべているに過ぎなかったが、それでも丘が在る無しでは天と地ほどの差があった。

 その日、それに気付いたのは新設されたばかりのレーダーであった。まだレーダー員も不慣れで、潮風にモロに当たるために故障も多かったが、この日は正常に動いていた。そのスコープ上にこれまでにないほど巨大な波形が現れた。

「て、敵の大群だ!!」

 直ちにレーダー兵の報告が基地司令にもたらされ、戦闘配備命令が下された。

 もしこの時、敵機動部隊出撃すの警報がなかったら、基地上層部は信頼性の低いレーダーの報告を無視、あるいは軽視した可能性がある。しかし、この時は非常にスムーズに警報を出すことに成功した。

 島内の各所に設置された機銃や対空砲に次々と兵員が取り付く。本土から運ばれてきた物資のおかげで、弾薬は充分であり将兵は指揮旺盛であった。

 地上部隊にあわせる様に、同地に派遣されていた零戦隊が動き始めた。この時ウェーク島には30機の零戦54型が配備されていた。この内稼動する29機にパイロットが乗り込み、次々とスクランブル発進していった。

 また、偵察部隊の零式陸偵6機空中待避する。

 そんな中で、丁度この時ウェーク島に物資を運んできていた船団と、さらに潜水艦の補給用に派遣されていた特設潜水母艦「靖国丸」が次々と錨を上げて礁湖内から出港する。ただし、もともと出港予定がなかった「靖国丸」はボイラーの圧力が充分ではなく、すぐには出港できなかった。

 この時船団は貨物船6隻と護衛艦4隻で、貨物船はいずれも5000t級の船で、同型船で固められていた。そして護衛艦は義勇海軍のフリゲート「旅順」と「新京」、そして日本の海上護衛総隊の海防艦(フリゲート)である「有珠」と「礼文」であった。

 この船団でも、船上では水兵や船員たちが動き回って戦闘に備えていた。海防艦は日満混合編成であるがいずれも同型船だ。最高速力は24ノットと遅めではあるが、高角砲改造の両用砲を主砲に備え、対空機関砲や爆雷、ソナーといった装備が忠実した対潜対空護衛艦であった。

 また、貨物船は全て大亜細亜通運所属の船で戦時急造船であった。船としての造りは平時の物より若干劣るが、戦場での取りまわしがしやすくなっていた。また、船首、船尾、そして船橋横に設けられた機銃や両用砲は簡易ながら射撃指揮装置を備えたために、普通の商船よりかは高い戦闘力を持っていた。

 船団指揮官兼日本海上護衛総隊海防艦「有珠」艦長の佐竹少佐は敵機が現れるはずの北東の空を凝視していた。

「電探からの報告が正しければ、もうそろそろ見えるはず。」

 船団は既にウェーク島から6km程離れているが、この距離ならば飛行機にとってはほんの数分で飛べる距離である。

 そして、数十秒後には北東の空にゴマ粒のような塊が現れた。

「来た来た!」

 表情が強張る佐竹。しかし、その大編隊は船団にはまだ気付いていない様で、そのままウェーク島への攻撃を開始した。

 この時来襲したのは戦爆連合98機。内戦闘機が42機であった。この大編隊を29機の零戦で止めるなど不可能であった。零戦隊奮闘し、戦闘機7機に艦爆5機、そして艦攻1機を撃墜したものの全機撃墜されている。内搭乗員13名はパラシュート降下してなんとか生還できた。

 基地の対空陣地も奮戦した。とりわけ、配備されたばかりの2基の40mmボ式対空機関砲は高い破壊力と射程で低空を機銃掃射しようとしたF6F2機を立て続けに撃墜した。その代わり、これが仇となり敵の集中攻撃を受け、その3分後には破壊されてしまった。

 また、その他の陣地も3機ほど敵機を撃墜したが3分の1が破壊されてしまった。滑走路にも次々と被弾する。さらに出港が遅れた「靖国丸」は一機も撃墜できないまま、3発を被弾して大破着底した。

 そして、ついに敵攻撃隊は船団に気付いた。20機ほどが船団へ向けて向かって来る。

「来たぞ!!対空戦闘用意!!」

 主砲と対空砲が、敵攻撃隊にむけて指向する。まず敵機は主砲の射程に入った。

「撃ち方始め!!」

 ウェーク島空襲開始から10分後、まず海防艦「有珠」が初弾を発砲した。


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