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義勇艦隊奮戦録
作:山口多聞



改装空母


 日本と米国との関係の悪化は、昭和16年の10月に米政府が日系人強制移住を決定したことによって、ついに取り返しのつかない物となった。

 これにより、日本国内の世論も反米一色に染まってしまった。また米国世論の反日感情にも拍車がかかった。

 そして同年10月10日。外務大臣から日本の来栖大使に対し、米国へのテロ謝罪を行わない場合、12月8日をもって日本帝国、ならびにその保護国(朝鮮、満州帝国)に対し宣戦布告を行う通知がなされた。俗に言うハルノートである。

 こうして、日本とアメリカの戦争は避けえない物となった。

 そんな状況下で、既に日米両軍は戦闘準備に入っていた。

 アメリカ軍はミッドウエーやウェーキといった島々の航空隊を増強し、さらに太平洋艦隊に40cm砲を搭載した最新鋭戦艦の「ノース・カロライナ」と「ワシントン」を配備し、日本連合艦隊に対し、砲戦力で優位に立とうとした。

 また、開戦したならば真っ先に最前線となるフィリピンには最新鋭戦闘機のP40や最新鋭爆撃機のB17に加えて、限定旋回可能なM3リー戦車を続々と投入し、日本軍の侵攻に備えた。

 一方の日本海軍は、6月に竣工した「瑞鶴」とその姉妹艦である「翔鶴」で組む第五航空戦隊や9月に竣工した46cm搭載艦の「大和」と、潜水母艦を改装した軽空母「祥鳳」を戦力化し、米太平洋艦隊に対し航空戦力ではやや優位。砲戦力でもほぼ同等の戦力を有すまでに戦力を強化していた。

 そして、我らが義勇艦隊も対米戦への準備を進めつつあった。

 
 


 9月下旬。旅順港、大亜細亜造船の3万t大型ドッグでは、昼夜兼行での突貫工事が行われていた。


 そのドッグに、新たに新設される第一航空護衛戦隊司令官の八島文幸少将がやってきた。彼は今年32歳という若い将軍である。15歳から8年間日本海軍で働き、パイロットとして活躍していたが、事故で部下を3人失ってしまい辞職。しかし、空と海への憧れを捨てられずに義勇艦隊に入っている。入隊時の階級は兵曹長であったが、その半年後には昇進テストをパスして少尉。さらには、航空部隊での高い働きとその後の昇進テストによって、去年暮れには大佐となり、そして1週間前に現職の拝命とともに昇進した、まさにエリートである。

「改装の具合はどうかね?」

 彼は技師詰め所までやってくると、主任設計士である高良明技術中佐に声をかけた。

「あ、八島少将。順調です。予定では後2日で工事が終了。異常がなければ、その3日後にはドックから出せます。」

 その報告に、八島は満足そうな顔をする。

「それは結構だ。しかし、わずか3ヶ月でここまで立派な空母に仕立て上げられるとは思わなかったぞ。」

 そう言いながら、八島はドッグ内の船を見る。

 その船は最上甲板に一切の構造物がない、平甲板を有していた。そしてその甲板にはカタパルトとエレベーターが設置されている。そう、この船は航空母艦であった。

「元々が空母への改装を前提に設計されていましたから。それに加えて、スポンソンや格納庫側面、無線塔等は我が社お得意のブロック工法が行えるよう、あらかじめ陸の工場で作ってありました。それをたんに上部構造物を取っ払って、積み木よろしく組み上げたにすぎません。」

 高良が自慢顔で説明した。

 彼らの目の前にある空母は、アメリカやイギリスの「護衛空母」、そして日本の「大鷹」級と同じ貨物船改造空母であった。もととなったのは大亜細亜通運の「白虎」級貨物船である。

 改装が終了し、義勇艦隊に編入される時も、そのまま貨物船時代の名前が受け継がれる予定となっている。全長約200m、飛行甲板長190m。武装は88mm連装高角砲4基に、40mm連装機銃4基、25mm連装機銃10基。そして搭載機は36機プラス予備機6機で、最高速力は25,2ノットである。

 上記の性能だけ見れば、後の日本海軍の「準鷹」級に若干劣る程度で、かなり有力な艦に見える。しかし、カタログデータだけで全てを判断してはいけない。

 例えば、先ほど高良が言ったとおり、この艦は3ヶ月で改装されている。これは米護衛空母の改装時間とほぼ同レベルであり、日本の改装空母の半分ほどである。つまり、日本空母のようにかなり大規模な改装を施したわけではなく、アメリカ空母のように、比較的簡便な改装ですましたということだ。

 そのため、防御力は無きに等しいから、1発の爆弾で戦闘不能になる。その代わりに、容易に修理できるように設計されていた。また、ダメージコントロールにも気を遣った設計となっていた。

 加えて魚雷搭載庫に魚雷調整室も設けられていたが、その搭載本数は6本(後に10本)と少なく、あまり対艦戦闘を考えていない設計であることがわかる。

 しかし、艦隊戦での価値は低いが、船団護衛には充分すぎるほどの戦闘能力を持っていた。これには、ある思惑があったからである。その思惑は、いずれ分かる事となるだろう。

「しかし、船団護衛用に設計されたのに、まさかこの艦の初陣予定が攻撃任務とは、なんたる皮肉かな。」

「そうですね。」

 八島と高良がそんな会話をしたことを聞いている者はいなかった。


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