Act.12 幌と襟巻き
風に混じる潮の香り。流れていく虚ろな景色。ガタゴトとトラックは揺れる。
疎らに繁る木々。果てしない蒼穹。くるりくるりとトンビは回る。
幌の張られた荷台。引越しのためのダンボールは堆く積みあがり、心地よい振動と共にぐらぐらと揺れている。
ダンボールの他にあるのは小さなクマのヌイグルミと、大多数の恐怖と僅かな好奇心に眼を輝かせた金髪の少女が二人。
そしてボクがいる。
「ねぇねぇ!」
とうとう我慢できなくなったのか、少女のうちの一人がボクに話しかけてきた。
「キミ、誰? 名前は何ていうの? 何歳なの? なんでマフラーしてるの? どこから来たの? どこに住んでたの? どうして一人なの? 一人で寂しくないの?」
次々と飛び出す質問に答える事ができず、ボクは曖昧に笑った。
「ちょっとエイミー! そういうことじゃないでしょ!!」
もう一人の少女が慌てて、彼女をボクから引き離した。
細く整った眉がつりあがり、気の強そうな印象を受ける青い目のその少女はイリアス=ラレンタンド。後々の自己紹介のときにそう名乗っていた記憶がある。
対してボクに矢継ぎ早に的外れな質問をしていた少女はアミリア=ラレンタンド。エイミーというのはその愛称だ。ちょうどイリアスの妹にあたる。
ここでボクが何故、走行中のトラックのダンボールの中にちょこんと座っていたのかを軽く説明しておこう。
ボクは旅人で記録者で詩人で放浪者だった。
自分の事をそうやって称するのはなんだか可笑しい気がするが、とにかくボクはそんな存在だったのだ。
ボクは旅人で記録者で詩人で放浪者。だから旅をするのは当然の事だ。
ところがボクにはお金も機会もない。当たり前だ。子供でしかも日本人のボクがまともに旅なんてできるはずがないのだ。
それでもボクは諦めずに考えに考え、そして名案を思いついた。
要は少しばかりズルをしてしまえばいいんだ。その辺に止めてあるトラックの荷台のダンボールの中にでも隠れてしまおう、と。
そういうわけでボクはこのトラックに乗っていた。簡単に言ってしまえば不法侵入中だったというわけだ。
「パ、パパ!! ママ!! なんか変な子がいる!!」
そう叫びながらイリアスは運転席の方へバタバタと慌しく駆けて行った。その後ろをアミリアが何度もボクを振り返りながら、とことことついていった。
ボクはそれをただ黙って見つめていた。そして、はてどうしたものか、とボクは考えた。
このままでは確実にこのトラックからは降ろされてしまうだろう。それどころか酷い目に遭うかもしれない。ボクのような『生き残り』を嫌っている人は山ほどいるのだから。しかも外の様子から推測するに目的地はまだまだ先らしい。
思考はぐるぐると回り続け、ボクはすっかり困ってしまった。
とりあえず死ぬのは嫌だな、とだけボクは思っていた。それでも日本人の生き残りとして、それ相応の仕打ちは覚悟していた。
ちょうどその時、上から降ってきたのは、ほんわかと空気が緩むようなふわふわとした声だった。
「あらあら。この大きな猫さんはどこから紛れ込んだのかしらね?」
ボクの事を大きな猫と呼んだその女の人は、ボクをひょいと抱き上げ、ボクの顔を覗き込んだ。
そしてそのまま、どこまでも真っ青な瞳でボクをじっと見つめていた。
その青を見つめ返しながら、ボクは動けずにいた。誰も喋るもののいない空間の中で、ボクの鼓動だけがやけに大きく響いていた。その時、どんなことも覚悟していたはずのボクの心の中では確実に恐怖のようなものがむくむくと顔を出していた。
殴られたらどうしよう。蹴られたらどうしよう。いや、もしかしたら、ナイフで刺されるかもしれない。走っているトラックから投げ落とされたりしたら……。
考えても考えても全て悪い方向の想像しか浮かばなかった。ボクを見つめ続ける一対の異国の瞳が怖くて仕方なかった。
「………か」
「?」
「可愛い!!!」
ボクに振り下ろされたのは罵倒でも暴力でもなく、その女の人の予想外の言葉と行動だった。
すなわちボクは、その細腕のどこにそんな力があるのか疑いたくなるほど強く、その豊満な胸の中に抱きしめられたのだ。
「坊や、どこから来たの? 名前は? 何歳なのかしら?」
後々に分かった事なのだが、彼女はイリアスとアミリアの母親、ナディア=ラレンタンドだった。
血は争えないといったところだろうか、アミリアのそれと似通った質問をされ、ボクは再び曖昧な笑顔を浮かべる羽目となった。
「ママ!!」
常識はずれの母の行動に痺れを切らしたのか、イリアスは肩を怒らせて叫んだ。どうやらイリアスは相当の苦労人らしい。まぁ、苦労をかける側にいるボクが言えたことではないが。
「で?坊やはどうしてここにいるのかしら?」
こういった状況に対する平常の質問がようやくボクに投げかけられた。だがボクはこの状況が気に食わず、黙り込んでいた。無論、機嫌がよかったとしても、ボクには答える手段は無いのだが。
なんともおかしな、もとい個性的な家族のトラックに乗ってしまったような気がするが、とりあえず最悪の事態は避けられたので、まぁ良かったとしよう。しかしこの扱いは何だ。これでは明らかに幼児扱いではないか。
年齢の割に伸び悩んでいるこの身長を加味したとしても、十歳児くらいには見えたはずだ。ボク個人の意見としては、もう四、五歳上乗せして欲しいものだが、今はそんなことはどうでもいい。とにかく、年相応に扱われなかったことに対して、ボクは腹を立てていたのだった。
まったく。なんて無礼で非常識な家族なのだろうと、赤の他人のトラックに無断で乗り込むという無礼で非常識極まりない行為を現在進行形で実行に移している自分を棚に上げてボクは思った。
「ねぇ、坊や。どうして答えてくれないの?」
そう言いながらボクの顔を覗き込んでくるナディアの目から逃げるように、ボクは顔を逸らし続けた。それはたしかに年相応に扱われず拗ねていたからでもあったのだが、理由はそれだけではない。文字通りボクはナディアの目から逃げていたのだ。明らかに日本人の、同郷のものではない彼女の青い瞳を、ボクはどうしても信用する事ができなかったのだ。
「……あ。もしかして英語わからないのかな?」
その言葉にボクは首を横に振って答えた。勿論、否定の意だ。
さすがにネイティブまでとはいかないが、日常会話程度の英語ならばマスターしている。それどころかボクは、旧日本語はもとより、英、仏、伊、独、はてはアラビア語まで話すことが可能なのだ。もっとも、ボクが「話す」などと表現するのは、多少の語弊があるのかもしれないが、それらの言語を理解できているのだから別に構わないだろう。ようは言葉のあやだ。
「だったら、どうして喋ってくれないの?」
どうして、と言われても困る、とボクは思った。なぜなら、こればかりはどうしようもないことだったからだ。
質問に答える事ができないことに対し、多少の自責心に似たものを感じたボクはしゅんとうなだれた。
すると、周囲の女性達は急に慌て始めたようだった。
「ママの馬鹿!! きっと、聞いちゃいけないことだったんだよ!!」
「聞いちゃダメなの〜?」
「あっ。ご、ごめんね、坊や。言えないことだってあるよね」
どうやら僕の行動が、あらぬ誤解を招いてしまったらしい。
だが、むしろボクにとっては好都合だった。なにかと詮索されるよりは放っておいてくれたほうが、ずっと楽だ。
そう考え、ボクはあえて否定しない事にした。
彼女たちが黙りこんでしまい、トラックの走行音しか聞こえなくなった荷台に、突然、ぎゅるるるるという音が響いた。
ボクの腹が食べ物を要求した音だった。
ああ、そういえば昨日、今日と何も食べていなかったな、とその時になってボクは思い出した。
「そうか! そうね!! お腹が空いてたのね!!」
「ママ〜。エイミーもお腹空ーいーたーー!!」
「そうね。そろそろお昼だものね。ごはんにしましょうか」
「わーーい!!!」
自分達だけで勝手に自己解決し、ナディアとアミリアは運転席のほうに去っていった。
荷台にはボクとイリアスだけが残された。
しばらくボク達は見つめ合っていたのだが、何を思ったのかイリアスは立ち上がり、荷物の合間から取り出したスケッチブックとクレヨンをボクに押し付けてきた。
「とりあえず、名前くらいは教えてくれるよね?」
ボクは首肯し、クレヨンを手に取った。そして自分の名前を書こうとし、そのままの姿勢で固まった。
暫し考えた後、ボクは赤のクレヨンで大きく、今の自分の名を書いた。
『KOTONOHA』と。
「……コトノハ? なんか呼びにくいから、コトでいい?」
ボクは首を縦に振って答えた。
しばらくして、トラックは止まった。
荷台から降りたボク達の目の前に広がったのは、見渡す限りの森林と、その中にちょこんと存在する小さな広場だった。戦前は恐らくバスの停留所か何かだったのだろう。ひび割れたアスファルトの片隅にぽつんと立つ錆び付いた時刻表が、初夏の涼しげな風に吹かれて哀しげに軋んでいた。
そしてその景観を遮るように、眼鏡をかけた神経質そうな男が仁王立ちでボクのことを睨みつけていた。
「で?」
「?」
「で? だけじゃ分かんないわよ!? せめて単語で喋りなさい、単語で!」
「そうだよ!パパ!!」
まったくもって、ナディアとアミリアの言う通りだ。トラックから降りて早々、何の言葉も無くただ睨みつけられていただけでは、何故怒っているのか分からないじゃないか、とボクは思った。
「……いや。そういうことじゃないと思うよ、二人とも」
「その通りだ!なんなんだ、そいつは!?」
何故かイリアスのみがぐったりとした様子で、二人の行動を否定していた。そして、それに追従するように男は声を張り上げた。
男の名はダンテ=ラレンタンド。先程から呼ばれているとおり、彼はイリアスとアミリアの父親であり、ナディアの夫である。
彼は『そいつ』と言いながら、ボクの事を指差してきた。どうやらダンテはボクが此処に居ることが気に入らなかったらしい。まぁ、当然といえば当然。むしろ今まで何故誰もそこに触れなかったのかが不思議でならなかったのだが。
しかし周囲の人間は正論を述べたダンテのことなど気にも留めなかったようだった。ナディアはアミリアと共にリュックを一つ、荷台から降ろしにかかっていた。残されたイリアスといえば、父親のフォローをするでもなく、おろおろとしているだけだ。
父親とは往々にして邪険に扱われるもの、というのはこのことを言うのだろう。そのことから推測するに、この家族は世間的常識は無くとも、ごくごく一般的な家庭環境にあるらしい。
そうしている間にもナディアたちの手によってテキパキと昼食の準備は進められ、シートに水筒にバスケットと、正しいピクニックスタイルが完成しつつあった。
「おい、お前」
そう言ったダンテの目はたしかにボクを捉えていた。
ボクは念のため自分の後ろに誰もいないことを確認した後、自分を指差し首を傾げた。
「そうだ。お前だ」
ぶっきらぼうに肯定したダンテの声には明らかに怒気が含まれていた。
「お前、どうしてウチのトラックに乗っていたんだ!?」
妻と実の娘に無視されて機嫌が悪いのは分かるが、いい大人が子供に八つ当たりは止して欲しい。怒るのなら本人達に怒ってくれ、とボクは思った。
たしかに常識的に考えて、ここで怒られるべきなのはボクなのだろうが、この家族には常識など通用しないのだから、この程度で怒るなとボクは言いたくて仕方なかった。
「パパ。怒んないで?」
ダンテの上着の裾を掴み、上目遣いに彼を見上げたアミリアの姿に、ダンテはたじろいだように見えた。
一見神経質な学者風のこの男もやはり、いっぱしの父親。娘との関係を悪くしたくないとの思いからか、慌ててアミリアに対して弁明を始めていた。
ま、無難な判断だな。父親が娘に一度嫌われたら、もう二度と口を聞いてもらえないことだってあるのだから、などと思いながら、ボクはそそくさとナディアたちのもとに向かった。
「はい、坊や」
ナディアはバスケットから取り出した一切れのパンを二つに割ると、ボクに差し出した。
「ごめんね。もうすぐ着くと思ってたから、あんまり食べ物が無くて」
ボクはそのパンを受け取ったが、すぐには口にしようとしなかった。成り行き上、昼食を頂くことになってはいるが、ボクはこの家族を信用したわけではないのだ。
勝手にトラックに乗り込んでいたボクを怒らないどころか、腹を空かせていたボクに対して食べ物までくれる。どこからどう見ても典型的な『いい人』だったのだが、それでもまだボクの信用を得るには及んでいなかった。
彼女達は確かに『いい人』だ。だが逆に言ってしまえば、そんな都合のいい人間がその辺に転がっているはずが無いのだ。見たところNGOでもIMPO関係者でも無い、ただの一般人が日本人に対してこれほど親切に接することがあるのか。いや、そんな事あるはずがない。一般人がボクのような浮浪児に手を差し伸べたところで利益も何も得られないのに。
信用するな、とボクは自分に言い聞かせた。と同時に目の前のパンにかぶりついてしまいたいという欲求を、文字通り歯を食いしばって必死に押し込めていた。
「どうしたの? …食べないの?」
イリアスが心配そうに眉を寄せ、固まっているボクを覗き込んできた。お腹が空いているんじゃないのか、と問いたげな目だった。
無論、腹は空いている。一刻も早く空腹を満たしたいという欲求に負けてしまいそうになるほどに。
だが信用してはいけないのだ。彼女達は日本人ではない。ボクに毒を盛る可能性だって無いわけではない。
余所者を信用するのは、馬鹿のすることだ。
「えー。これだけしかないのー?」
「さっきみんなに隠れてパン食べちゃったのは誰だったかしらね〜?」
「うー。だってぇ……」
「あと、もうちょっとで着くから、今はこれでガマンできるわよね?」
「……は〜〜い」
駄々をこねるアミリアにナディアが手渡したパンは、ボクに渡されたものの片割れだった。
アミリアはそのパンをそのまま口に運び、噛み付き、呑み込んだ。そして彼女には、これといった変化は訪れなかった。
ボクは張り詰めていた息を緊張と共に一気に吐き出した。
どうやらボクの考えすぎだったようだ。アミリアがほおばっているあのパンにも、ボクが手にしているこのパンにも妙な細工はされていないらしい。
毒物の線が消えた今、ボクの腹の底から湧き上がって来る2日分の食欲を抑えるものは、もはやどこにも無かった。
「あらあら。そんなに急がなくても、パンは逃げたりしないわよ?」
驚き半分呆れ半分といった具合のナディアの声に顔を上げると、貪るように小さなパンにかぶりつくボクの姿を唖然と見つめる視線があった。
なるほどたしかにその時のボクの行動は、常軌を逸していたのかもしれない。それまで一言も発せずにいた子供が、いきなり目の色を変えてパンを貪り始めたのだ。彼女達には、さながら飢えた獰猛な獣が久々の獲物を逃がすまいとするようにでも見えたのだろう。
ボクは他人の前でそのような醜態を晒してしまったことを深く恥じ、居心地悪そうに肩を竦めた。
針のむしろで刺されるような感覚を肌で感じる長い沈黙の後、ナディアはボクに何かを差し出した。
「はい、これ」
「?」
差し出されたそれは、先程までナディアが食べようとしていたパンだった。
「それだけじゃあ、足りないでしょう?」
警戒心と食欲の間でひとしきり揺れた後、ボクはそれを素直に受け取った。今までのことを踏まえ、僕の中である結論が出たからだ。
曰く、この家族は安全だ、と。
「ずるいっ!!!」
アミリアがボクの手からパンを取り上げたのはその時だった。
「ダメでしょ、エイミー!!」
そして、即座にイリアスの手によってアミリアから取り上げられ、パンは再びボクの手の中に戻ってきた。
「だってずるいもん!! エイミーも食べたいの!!」
「ママはコトにあげたんだよ!! ガマンしなさい!!」
「やだやだやだぁ! エイミーも食べる〜!!」
アミリアは、ばたばたと手足をバタつかせ、駄々をこねた。ボクはその様子をただ見つめているだけだったが、自分に責がないと考えているわけではなかった。
ボクがこの家族のトラックに乗り込んでさえいなければ、今ボクの手の中にあるこのパンはアミリアのものであったに違いない。この場においてイレギュラーな存在は、ボクなのだから。
ボクは一度手元のパンに視線を落とした。ボクに割り当てられた分だけでは、腹の虫を黙らせるには到底足りてはいなかった。しかしボクは、あやうく握り締めそうになっていたパンを押し付けるようにアミリアに渡した。
アミリアは一瞬、きょとんとしたが、すぐに首をかしげボクに確認してきた。
「いいの?」
ボクは渋々、首肯で返した。
アミリアの顔がパッとほころんだ。
「ありがとー!!」
「ごめんね。エイミーがワガママ言って……」
当然のことをしたまでだ。ボクのほうが年上なのだから、とボクは思っていた。
見た目だけの年齢では負けていても、精神面では負ける気はしない。いや、負けてはいけないのだ。そして、そんなことはボクのプライドが許せないのだ。
「坊やは偉いわね〜」
そう言いながら、ナディアはボクの頭を撫でてきた。ボクは何か屈辱的なものを感じたが、唇を噛んでじっと耐えた。
彼女達はボクが何歳であるのか知らないのだ。ワザとではないのだ。ただ見た目の年齢で判断しているだけなのだ。そして、一切れのパンとはいえ一飯の恩のある相手なのだ。だから我慢しろ、と自分に言い聞かせた。
「どうしたの? お腹でも痛いの?」
「……」
「じゃあ抱きしめてあげるわ!」
「!?」
「ちょっと、ママ!!」
「エイミーもー!!」
「もう〜。二人とも…」
そんなやり取りを遠くに聞きながら、それにしてもよく笑う家族だ、とボクは思っていた。
きっと、彼女達は命の危機だとかに遭遇した事さえないのだろう。だから、こんなにも純粋で、こんなにも無防備なのだ。
ボクはそれをとても羨ましく感じると同時に、彼女達の事を心配せざるを得なかった。
連邦軍が統治しているとはいえ、まだまだこの国は治安のいい場所などではない。いや、むしろ連邦軍が統治しているからこそ、今現在のこの混乱はあるのだろうとボクは考えていた。
彼らは、大人達がいなくなり子供達だけの国となった日本国にいきなりやってきたかと思えば、力をもってして新しい規則に従わせようとしている。それは未開の地に、一方的な価値観と規則を押し付けるにも等しい行為だ。いや、実際にその通りなのだろうが。
しかも真に王たる者がいないこの国では、上に立つ者達が表でも裏でもやりたい放題をしている。これでは治安も悪くなって当然だ。
特に、この国では子供が連れ去られ、売り買いされるなんて日常茶飯事なのだ。
ダンテは腹に一物持っていそうだが、彼以外は見るからに平和ボケしている。このまま目的地へ行っても、彼女達が幸せになれるとは到底思えなかった。
一体どうして、こんな所に来てしまったんだろうか。
そんな僕の心配を他所に、アミリアは1人、拳を振り上げ、雄たけびを上げていた。
「いくぞー!!」
「行くって、どこに? あんまり危ないことしちゃダメだよ」
うずうずしているアミリアとは対照的に、いたって冷静にイリアスは嗜めた。
「大丈夫だもん。ただの探検だもん!」
「探検って……。ちょっと待ちなさい! エイミー!!」
言うが早いかアミリアの姿は、藪の向こう側へと消えていった。それを追って、イリアスもまた藪の向こう側へと駆けて行った。
そして、気付くとボクは広場の真ん中にぽつんと1人、残されることになっていた。
大人達2人は、トラックへ向かったまま戻ってくる気配も無い。
他に行く当てもなかったボクは、藪を掻き分け奥へ奥へと進んでいってしまった二人の後を着いて行ってみることにした。
ボクは彼女達が進んでいった方向へ歩みを進め始めたが、そこに二人の姿は無かった。見渡す限りに、木と藪と緩やかに傾斜のついた坂道が広がっているだけだった。
しかし、その内追いつくだろうと高をくくったボクは、ずんずんと森の奥深くへと進んでいってしまった。
後々から考えれば、その行動こそが間違いでもあり、また正解でもあったのだ。
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