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『モラトリアム』 ―僕達の戦争日記―
作:香音



Act.10 世界を敵に回した子供


俺はこの世界が大嫌いだ。
俺はこの世界が大好きだ。

昔、ある大人が言った。
暴力を暴力で返したところで何も得られない、と。
そんなことは分かっている。
けど肝心なのは、そんなことじゃない。
理性が納得していても、心が納得していない。

何故、俺達が虐げられなければならない?
何故、勝手な理屈で大切なものを奪い去った奴らを笑って許さなきゃいけない?

復讐、と言われればそんなものなのかもしれない。
守れなかったものへの自責の念が俺達を動かしているのも事実だ。
ただ一つだけ違うのは、俺達は今この時に生きていて共に笑いあえる仲間を守るために戦っているということだけだ。

俺は仲間が好きだ。
俺は仲間がいるこの世界が好きだ。
この世界は仲間を奪った。
俺の大切なものをみんな奪っていった。
俺はそんなこの世界が嫌いだ。

矛盾した二つの気持ち。
どっちかが本物で、どっちかが偽物なんてことは無い。
どちらも否定しようの無い心の叫びなんだから。
どちらかを選ばなきゃいけないなんて虚しすぎるじゃないか。

大義なんて無い。
正義なんて無い。
そんなもの必要ない。
これは単なる意地で我が儘だ。
世界は俺達から大切なものと子供である事を奪った。
同時に世界は俺達に永遠のモラトリアムを与えた。
だからこれくらいの我が儘は許されて然るべきなんだ。
何より俺には仲間を守る義務がある。
俺を頼る奴らの先頭に立つ義務が、どうしようもなく膨れ上がった怒りや憎しみの捌け口を見つけてやる義務がある。

だからこそ俺は『僕』になる。
だからこそ『僕』は世界の敵になる。












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