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幕末 恋唄綴り
作:紫苑 りょう



第五話


 翌朝。

 近藤の私室に数名の副長助勤が集められた。
 全員・・・・・・でないのがここでは普通である。

 壬生浪士組という集まりであっても内部は二派に分かれている。
 近藤たち試衛館の流れを汲むものが近藤派。
 そして水戸藩出身の芹沢派である。 
 
 話は戻って、この朝集められたのは
 副長 山南敬助
 副長助勤 永倉新八
      原田左之助
      藤堂平助
 そして、井上源三郎の五人である。

 副長助勤の一人である斉藤一にも声を掛けたが、少し遅れるというので先に始めることにした。

 「今日から八木さんのところに入ることになったそうだ。一言挨拶したいってことだから集まってもらった」
 皆が集まったのを確認すると、土方があかねを紹介した。

 「皆様のお食事の支度を手伝うようにと、仰せつかりました。あかねと申します。以後宜しくお願い申し上げます」
 土方から目配せされると、あかねが頭を下げ挨拶をする。

 「こんな、カワイイ娘さんが俺たちのメシ作ってくれるとはありがてぇ。なぁ?左之?」
 ヒューッと口笛を吹いて永倉が隣の原田に同意を求める。

 「あぁ、このむさ苦しい男所帯にアンタみたいなのがいると張り合いが出るってぇもんだ。仲良くしような?」
 すかさず原田があかねの手を握るとニタっと笑う。

 「あっ、コラ!左之!ずるいぞっ俺も!これからは男の作るメシじゃなくて女の作るメシが食えるってだけでもありがてぇってもんだぜ」
 便乗するように永倉が反対の手を握った。

 「てめぇら、言っとくがこの女は女郎じょろうじゃねぇぞ!八木家の女中だっ!手ぇ出すんじゃねぇぞ!」
 そう言うと土方が二人の手を振り払うように叩く。

 「痛ぇなぁ。そんなの言われなくても解かってらぁ」
 叩かれた手をもう片方の手で擦りながら、原田は恨めしそうな目で土方を睨む。
 「そうだぜ、土方さんっ!俺たちがここの荒くれ者どもの魔の手から守ってやるから心配すんなって」
 原田とは対称的に永倉はいたって真面目に力説してみせた。
 「俺が心配してるのは、お前らのことだっ!!」
 まるで他人事のような口ぶりの永倉にたまらず土方が突っ込む。
 そのやりとりに総司は笑いそうになるのを必死でこらえる。

 「でも、ホント大丈夫なんですか?こんな男所帯に・・・・・・・八木さんも無茶なことを言いつけるんですね?」
 幹部の中では総司と同じく最年少の藤堂が、さも同情するように言う。

 「だからこそ、皆に宜しく頼むよって言ってるんだよ。少しでもマシなものを食べれるようにとの八木さんからのご好意なんだからね。ホントに頼むよ?彼女に何かあったら壬生浪士組の信用に関わるからね」
 近藤の一言に皆が気を引き締めるように「はい!」と返事した。

 こうなったのは、もちろん土方の考えだ。
 あかねを屯所に置く理由として一番自然な方法で、尚且つ最も怪しまれないと思ったからだ。もちろん八木家当主、八木源之丞には話を通してある。
 八木家の当主が断るハズもなく、昨夜のうちに話はトントン拍子に進み今に至っている。

 「あなたは京の方なのですか?」
 土方と同じ副長を務める山南があかねに問う。

 「は、はい・・・・・・・」
 「あ〜彼女、天涯孤独の身なのだそうですよ、ねぇ近藤さん?」
 あかねの代わりに総司が口を挟む。
 「あ、あぁ。そうなんだ・・・・・・・」
 近藤が答えようとすると、遅れてやってきた斉藤が顔を出した。

 「遅れて申し訳ありません・・・・・・あれ?君は確か昨日・・・・・・」
 斉藤はあかねの姿を見て首を傾げる。

 「そ、そうなんです。実は昨日わたしたちが道に迷ってしまって困っていたところ助けて貰ったんです。でもそのせいで、ホラっ、巻き込んでしまって・・・・・・」
 総司は動揺を隠しながらも必死に頭をフル回転させ、なんとかつじつまが合うよう説明をする。
 「あの場は斉藤くんが引き受けてくれたから、お詫びに家まで送ろうとしたんだけど、聞けば実家は火事で焼け同時に家族も失ったと聞かされてねぇ。それで、八木さんに話したら雇ってくれることになったって訳だ。なぁ、トシ?」
 総司の嘘に便乗して近藤がなんとか取り繕う。
 嘘八百な作り話を内心複雑な思いで聞きながらも、土方は深く頷いた。

 「それは、また・・・・・災難でしたね」
 まんまと騙された人のいい山南が同情するような発言をすると、その場にいた他の者も不幸な作り話を鵜呑みにした。

 藤堂にいたっては、ちょっと涙ぐんでいるようにも見えた。
 もちろん、井上以外だが・・・・・・・。
 (素直に騙されてくれて良かったな・・・・・・)
 土方はホッとする反面、簡単に騙される面々を見て大丈夫なのか?と不安に思ったりもしたがさすがに黙っていることにした。


 皆がそれぞれの隊務に出ると、部屋に残ったのは近藤、土方、総司そしてあかねの四人になった。

 「それにしても、母屋のほうの部屋を使わせて貰えるとは思いませんでしたね。八木さんになんて説明したんですか?」
 いくら人が良いとはいえ、母屋の一部屋をあてがってくれるのはさすがに予想外だ。
 総司が疑問に思うのも無理は無かった。

 「あぁ・・・・・・天涯孤独で帰る家が無いって言ったら八木さんも奥方もちょっと涙ぐんでたな・・・・・・・」
 言いにくそうに土方が言うと、その場にいた三人が目を丸くする。

 総司が頭をフル回転させてやっとついた嘘を、この男は昨夜のうちに使っていたのだ。

 「なぁんだじゃあわたし達、頭の中身は同じってことですね?」
 総司が満足そうに笑うと、土方は「一緒にするな!」とそっぽを向いた。

 「仕方ねぇだろ?他に思いつかなかったんだから・・・・・」
 だから言いたくなかったんだ、と土方はブツブツ言うが総司はケタケタと笑った。

 「けど、皆に言わなくて良かったのかな?なんだか騙しているみたいで気がひけるよ」
 「いいんだ、これで。第一、俺はまだ信用してねぇからな。総司の妹だって言えば皆無条件でお前を信じるだろうが、八木家の女中ってことにしておけば少なくとも無条件に信じるってことにはならねぇだろ?その上、女相手なら間者として潜り込んだ奴が気を抜いて尻尾を見せるかもしれねぇしな」
 そう言って土方は不敵な笑みを浮かべる。
 「まったく、お前って奴は・・・・・・・」
 それを聞いた近藤が溜息交じりに言う。

 総司は「さすが土方さんですねぇ」と呑気に笑い、隣にいるあかねにそっと耳打ちした。

 「心配しなくても大丈夫ですよ、あかねさん。あんなこと言ってますけど土方さんなりの愛情表現ですから」
 「え?」
 あかねが驚いた顔で総司を見ると、総司は懐かしそうに目を細めた。

 「わたしも幼い頃はよく土方さんに意地悪な事を言われたもんですよ。でも、ある時近藤先生が仰ったんです・・・・・・あれは土方さんなりの愛情表現なのだから許してやってくれって。不器用な男だからあんな物言いしか出来ないが、それは照れ隠しなんだって」
 そう言う総司の顔は笑いを必死にこらえているように見えた。

 「総司!てめぇ、何言いやがる!?・・・・・・近藤さんも笑い過ぎだろ!!・・・・・・違うっ、違うぞ!あかねっ!」
 必死に否定しようとする土方の顔が心なしか赤くなりつつあるのを見て、思わずあかねは吹き出してしまう。

 「あっ、コラ!あかねっ!お前まで何笑ってやがる!?」












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