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幕末 恋唄綴り
作:紫苑 りょう



第四十九話


 文久3年 9月25日
   島原 「角屋」

 「やっぱり永倉くんだったのか・・・・・・いや、偶然だねぇ?」
 突然現れた訪問者たちの姿に、永倉は内心ホッと胸を撫で下ろしていた。

 「屯所に居ないと思ったら・・・・・こんなところに居やがったのか!?話があるって言ったの忘れたのか?」
 近藤の隣に立つ土方の表情が険しくなっているのに気づき、胸を撫で下ろしたのも束の間。
 永倉は苦笑いを浮かべ頭を掻く。

 「わ、忘れてなんかねぇよ!?い、今から戻ろうと思ってたところだっ、なぁ?」
 永倉は隣に座る越後三郎えちごさぶろうに同意を求めようと視線を移したが、当の本人は思わぬ訪問者たちの姿に口を開け絶句していた。

 それもそのはずだ。
 永倉を暗殺するために、わざわざここまで来たというのに。
 近藤ひとりならまだしも、隣には土方が仁王立ちで立っていてその後ろには新撰組随一の腕利きとも言われる二人の剣客。
 沖田総司、斉藤一の姿まである。
 そして、何故かその後ろにはあかねの姿まであった。

 「永倉君が屯所に居ないもんだから・・・・・・たぶんここじゃないかと思ってね?ついでにあかね君の快気祝いでもしようかと思って」
 ははは、と笑って頭に手をやる仕草に永倉は力が抜ける思いだった。

 ついさっきまでの緊張感がまるで嘘のように。
 その場に流れる空気が一遍する。
 5対1のつもりが、5対4ではさすがに分が悪い。
 それどころか・・・・・・。
 この4人相手となれば、自分たちの命の方が危ないと思ったのだろう。
 5人からは殺気の「さ」の字も感じられなくなっていた。


 「さて、と・・・・・・お楽しみのところ悪いが・・・・・・俺達は永倉に話がある。お前達は席を外してくれるか?」
 鬼の副長、土方歳三にそう言われて反論する隊士などいないだろう。
 5人は慌てた様子で立ち上がると、バタバタと部屋から出て行った。

 それを見届けた土方が無言のまま斉藤に合図を送る。
 斉藤はそれに小さく頷くと、5人の後を追うように部屋を出て行った。


 「助かったぜ・・・・・・近藤さん」
 永倉が安堵の表情を浮かべると、土方がギロッと睨みつけた。
 「わかっているなら手間をかけさせるな・・・・・・これで奴らにも気づかれたのは間違いない。今夜立ち向かってくるか・・・・・・それとも脱走を試みるか・・・・・・どちらにせよ規則違反には変わらんな」
 顎に手をあて考え込む仕草をする土方に、隣にいた総司が頷いた。

 「そうですねぇ。屯所には源さんと藤堂さんが残ってくれてますが・・・・・・このまま屯所に戻らないということもありますし・・・・・・斉藤さんひとりでは、さすがに手におえないでしょうね?」
 自分にも行かせろ、とでも言いたげな総司の言葉。
 それに気づかぬ土方歳三ではない。

 「なら、斉藤のあとを追ってやれ」
 「承知」
 いつになく真剣な面持ちで総司が部屋を出て行くと、永倉も後を追おうと立ち上がった。

 「・・・・・・待て、お前は俺が一緒に行く。理由はわからんが今回狙われたのはお前だからな。ひとりではマズイだろう?」
 「へ?で、でも、大将を護らなくていいのか?」
 土方の申し出に、当の永倉は目を丸くしていた。

 (あっ・・・・・・コイツが知らないのを忘れてた・・・・・)
 永倉の言葉に固まる土方。
 それを見ていた近藤とあかねは顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。

 永倉と土方が一緒に行けば、当然残るのは近藤とあかねだけだ。
 土方としてはあかねも戦力として数えていたから当然の判断だろう。
 ただ。
 あかねの正体を知らない永倉の意見は、当然といえば当然だ。

 「そうだったな・・・・・・なら、近藤さんと行け」
 「トシさんにしては珍しいなぁ?疲れてるんじゃねぇのか?」
 ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべる永倉に土方の鋭い眼差しが突き刺さる。

 「うるさいっ!元はと言えば、誰のせいでこんなことになったと思ってやがるんだっ?」
 土方の凄みのある眼差しに射抜かれた永倉が、小さな悲鳴をあげた。
 「ぎゃぁ、こ、こ、近藤さんっ!早く行こうぜっ!?」

 (ヤバいって、睨まれただけで死ぬかと思ったぜっ!?あの5人から受けてた殺気より、今のが一番怖かった・・・・・・)
 ある意味、殺気を感じた永倉が飛びつくように近藤の腕を取った。


 顔を引き攣らせて青ざめる永倉が、近藤の手を取り慌てて部屋を出ようとした時。
 廊下をこちらに向かって走ってくる足音が聞こえた。
 それもひとつではない。

 永倉は入り口から距離を取ると、腰に差した脇差に手をかけた。
 と、同時に近藤や土方もそちらに意識を集中させいつでも抜刀出来る態勢と整える。
 それはあかねも同じだ。


 ― スパッッン ―


 だが、その緊張感漂う部屋に飛び込んで来たのはひとりの遊女だった。
 「へっ?」
 「なっ?」
 「えっ?」

 開け放たれた襖の向こうに立っているおんなの姿にポカンと口を開ける3人。
 そんな男たちに目もくれず、そのおんなは真っ直ぐにあかねの方へと走り寄ると、しがみ付くかのようにあかねの首に自分の腕を巻きつけた。

 「あかねはんっ!!お会いしたかったっ!!」
 うっすら涙を浮かべるおんなを抱きとめたあかねは、驚いたように目を見開く。
 「!?・・・・・・お、お雪・・・・・ちゃん!?」
 「へぇ。やっと逢えましたなぁ!覚えててくれはったんどすかっ!?」

 嬉しそうに満面の笑みを浮かべるお雪と、驚きを隠せない様子のあかね。
 そして。
 抱き合う2人の様子を唖然と見つめる3人の男。


 「明里はんには顔見せはるのに、うちには全然見せてくれはらへんと・・・・・・もぉ嫌われてるんとちゃうやろか、て思ぉてましたんえ?」
 少し瞳を潤ませるお雪に、あかねは困ったように天井を仰いだ。

 「いや、そんなつもりは・・・・・・」
 「ちょっとまてぇいっ!!」
 お雪をなだめようとしたあかねの言葉をさえぎったのは、永倉だった。

 「おまっ、女だよなっ!?なのに、何っ!?なんで、馴染み客みたいな扱いされてんのっ!?っつうか、誰っ!?そのベッピンさんは?」
 一気にまくし立てる永倉の迫力に驚いたのか、お雪がギュゥッとあかねに巻きつけた腕に力を入れる。

 「何っ!?その羨ましい光景っ!!オレでもそんなイイ思いしたことないぞっ!?こんなイイ男なのによぉ」
 何故か嫉妬の眼差しを向ける永倉に、あかねは顔を引き攣らせる。

 「えっと、こちらはお雪ちゃんです」
 「あ、ドウモ。ハジメマシテ・・・・・・じゃねぇっ!!なんで、お前が遊女と知り合いなのかを聞いてんだっ!」
 ドスンドスンと足音をさせながら近づいてくる永倉の姿に、思わず後退りをするあかねとお雪。

 そんな永倉の背中を押しのけて部屋に入ってきたのは、お雪を預る置屋の女将だった。
 「ぅおっ!?」
 「深雪はんっ!お座敷抜けて、こないなところでなにしてはりますのっ!?・・・・・・もうすぐ太夫になろかいうお人がっ!!下に示しがつかへんやないのっ!!ほらっ、戻りますえっ?」
 「お、女将おかあはんっ!?」

 鬼のような形相をした女将に、無理矢理引きずられるようにして出て行くお雪の姿を4人がただただ呆然ぼうぜんとした表情で見送ったのは・・・・・・言うまでもない。



 「永倉?・・・・・・・なぁ〜がぁ〜くぅ〜らぁぁっ!」
 女将に押しのけられた拍子で畳の上に転がっていた永倉の耳を掴み、土方が大声で呼ぶ。
 「ぅぎゃぁっ!・・・・・・び、びっくりした・・・・・・」
 あまりの大声に自分の耳を押さえた永倉が、土方に視線を向ける。

 「いつまで転がってるつもりだっ!?お前がいつまでも騒ぐから遅くなっちまったじゃねぇかっ!?」
 眉間にシワを寄せる土方の表情に、永倉は飛び上がった。
 「えっ!?オレのせいっ!?」

 「グダグダ言ってねぇで・・・・・・ほらっ、行くぞっ!!・・・・・・俺たちも一緒に出る。お前のせいで遅れを取ったからなっ!」
 永倉をひと睨みした土方は、早々に部屋を出て行こうとする。

 「えぇ〜っ!?やっぱりオレのせいになってんのっ!?なんでっ!?」
 不満そうに口を尖らせた永倉の表情を背中越しに読み取ったのか、土方はピタリと足を止めて振り返った。
 
 「総司たちに何かあったら・・・・・・お前、切腹な?」
 ニヤリ。と不敵な笑みを浮かべ歩き出した土方に、永倉は冷や汗を流しながらも慌てて後を追う。
 「えぇぇぇっっ!、ちょ、マジでっ!?そりゃ無いだろうよぉ〜、トシさぁぁん」
 「うるさいっ、さっさと来いっ!」

 足早に廊下を行く土方の周りを、まとわりつくように追いかける永倉の姿はまるで仔犬のようだ。
 そんな2人の後姿を見ながら昔のことでも思い出したのか、近藤は柔らかい表情を浮かべながらあかねと共に歩き出した。
 












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