第四話
最後の一人が倒れるのを見届けた総司が初めに声をあげた。
「すごいっ」
総司の興奮したような声で近藤は我に返った。
こちらに戻ってくるあかねの姿は返り血ひとつ付いていない。
改めて、その手際に感心する。
「お前、いったい・・・・・・・?」
目の前の出来事を理解しきれないのか土方の顔は強張っていた。
(敵か?それとも、本当に味方なのか?)
近藤たちの前まで来ると、あかねは地面に片膝をつけ深々と頭を下げた。
「出すぎた真似をして、申し訳ありませんっ!!」
一瞬、自分の刀に手をかけた土方を近藤が制する。
見れば、総司もあかねの後ろで刀に手をかけていた。
近藤は総司にも刀から手を離すように目で合図する。
「あかねくん・・・・・・・君は一体何者なんだ?」
「・・・・・・・・はい・・・・・・お話しします・・・・・・」
そう言いながら顔をあげるとあかねは自分を引き取った里親のことを話し始めた。
「私を育ててくれた里親は江戸城で代々御庭番として仕える一族なんです」
「「御庭番!?」」
予想外の話に近藤と総司が声を揃えて聞き返す。
「はい。忍びと言ったほうがわかりやすいかもしれませんが・・・・・・・」
「忍び!?・・・・・・・って戦国の世では戦を左右したとも言われている、あの!?」
「はい」
「「「・・・・・・・・」」」
あかねの言葉を瞬時に理解できるものはいなかった。
ただ、驚くばかりだった。
「生まれてすぐ預けられた私は、当たり前のように共に育った仲間たちとの修行に明け暮れて育ちました」
「修行・・・・・・・」
それまで黙っていた土方が呟く。
修行。
と、一言であかねは済ませたが、それはおそらく生半可なものではないだろうと土方は思っていた。
それは先程のあかねを見れば容易に想像がつく。
まして、将軍家に仕える一族ならばなおさらのことだ。
自分たちが道場で木刀を振り回していたのとは次元が違う。
「御庭番ってのは、将軍を守るためにあるのか?それとも城を守るためか?」
「徳川の世を守るため、です」
土方の問いに迷うことなく答えたあかねの姿は凛と輝いて見えた。
(なるほど・・・・・・・肝が据わっているのも道理というわけか・・・・・・・)
「要するに、我々と志しは同じってことになるわけだ」
誰に問うわけでもなく近藤が言う。
「いやぁ、でも驚きましたねぇ・・・・・・もしかしてさっきの人達が付いて来てるのにも気付いてたんですか?」
「あっ、はい。あれだけの殺気を感じれば・・・・・・」
「あの人達も、まさか女子に斬られるとは思わなかったでしょうね・・・・・・」
言いながらも総司は動かなくなった刺客たちにチラっと目をやった。
「本来であれば、初めにお話すべき事柄だったのでしょうが・・・・・・・なにぶん自分の正体を明かすことなど今までになかったもので・・・・・・・結果的にこのような形になってしまい申し訳ございません」
「・・・・・・・・・信用出来ねぇな」
土方が鋭い眼差しをあかねに向ける。
「お、おい、トシ・・・・・・・」
「だって、そうじゃねぇか?・・・・・・・コイツが間者じゃねぇって言い切れるのか?大体、総司の妹だって話が真の事だと何故言える?」
疑いだしたらキリがないとでも言いたげな口調だ。
「けど・・・・・・今だってわたしたちを助けてくれたじゃないですか?それにおミツ姉さんの文も持っていたし・・・・・・・」
総司が助け舟を出すが、土方は納得しない。
「そんなもの、俺たちを信用させるために用意しただけかもしれねぇだろ?忍びだって話が真だとしたら、簡単に手に入れられるかもしれねぇしな」
疑い深い土方がそう易々と信じるハズはない。
それは長い付き合いの中で近藤も総司も知っていた。
「あかねくん・・・・・・・ひとつ聞かせてくれるかい?・・・・・・・どうして刀を抜いたんだい?」
近藤はあかねの顔を覗き込み尋ねる。
「もちろん総司兄さまと、総司兄さまが大切に思う方を守るためです」
その目に嘘偽りがあるとは到底思えない。
「俺たちがやられると?」
「いえ、滅相もございません。ただ降りかかる火の粉があって、私が払える量ならばお手を煩わせることはないと思っただけです」
「なるほど・・・・・・・・」
フムフムとでも言うかのように頷くと、あかねの頭にポンッと手を置いた。
「トシ。俺は彼女を信じるよ」
土方に背中を向けたまま近藤が言う。
総司は二人のやり取りをただ黙って見守るしか出来なかった。
あかねのことを信じられない訳ではないが、土方が言うのも一理ある。
そして土方も疑う気持ちはあるが、信じられると思わない訳ではない。
だが、どちらにしろ確証はない。
「・・・・・・・・・」
土方がどう答えるべきかと悩んでいるとバタバタと何人かが走ってくる足音が聞こえ、駆け込んでくる者があった。
思わず刀に手を掛ける。
「大丈夫ですかっ!?」
あかね以外の三人には聞き覚えのある声だった。
「斉藤さんでしたか・・・・・・・見てのとおり、大事ありませんよ。でも、ちょうど良かったです。後のことお願いしてもいいですか?」
斉藤は近藤たちの姿を確認すると、ホッとした顔で「心得た」と頷くがあかねの姿に一瞬視線が止まった。が、すぐに部下たちに指示を出す。
四人はその場を斉藤に任せると、屯所へ帰るため来た道を戻り始めた。
その道中、土方は近藤の隣を黙ったまま歩く。
「お前はホント、昔から変わらないなぁ。頑固なことろは特に・・・・・・・」
「・・・・・・・頑固は余計だ・・・・・」
腕を組んだままの土方がボソッと答える。
「でも、単純にスゴイと思わないか?彼女のこと」
「剣の腕は確かだな。女にしておくのはもったいない」
「まぁ・・・・・・それもそうだけど、それ以上に命知らずなところが、ね?」
「・・・・・・・・・・」
「信じてみてもいいんじゃないか?トシ?」
その言い方はまるで子供に言い聞かせるような口調だった。
「近藤さんがそう決めたなら、俺はそれに従うだけだ」
フイッと顔を横に背けた土方を見て、近藤は笑った。
「まったく、素直じゃないなぁ。ホントは仲間になって欲しいって顔に書いてあるぜ?」
近藤がからかうように言うと土方は動揺して顔を赤らめる。
「んなわけねぇだろ!?俺は、俺はただ・・・・・・・敵にまわられたらやっかいだと思って!」
「はいはい、わかったわかった」
慌てて言い訳する土方の姿が可笑しく、まるで昔と変わらないと近藤は笑った。
知り合った頃から、土方は頑固者で素直じゃなかった。
が、それと同じくらい情に厚く仲間思いなことも知っている。
それに本音を言い当てられると、いつも心とは裏腹なことを言って誤魔化そうとするのも昔から変わらない。
要するに、天邪鬼なのだ。
そんな人間味のある土方の姿を知るのは隊内でも限られている。
近藤は内心、土方を理解する者がまた一人増えてくれることを期待していた。
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