幕末 恋唄綴り(2/77)縦書き表示RDF


幕末 恋唄綴り
作:紫苑 りょう



第一話


 「つまり・・・・・・だ。総司には双子の兄弟がいたってことか?」
 少し落ち着きを取り戻した土方が二人を見比べながら誰に対する訳でもなく問いかける。

 「はい、双子の兄妹です」
 「?だから兄弟だろ?」
 「はい、兄妹です」

 「??」
 ピタリとくっつくように総司の隣に座った少女が答える。
 「私は初耳ですが・・・・・・・」
 困惑顔の総司は溜息まじりに呟いた。
 そんな二人の様子を横目に土方は腕を組み直すと、近藤の方に目をやった。
 近藤の方は何か引っかかることがあるらしく首をかしげて考え込んでいた。

 「かっちゃんは何か知っているのか?」
 普段は「近藤さん」と呼んでいる土方が、思わず昔の呼び方をしてしまうほど動揺しているようだった。
 「いや昔、総司がうちに来たころおミツさんがそんなことを言っていたような・・・・・でも確かあれは妹だと言っていたと思うんだが・・・・・・・」
 近藤は遠い記憶の糸を手繰るように天井を仰ぐ。

 「・・・・・・・あの、妹なんですけど・・・・・だから兄妹って、さっきから・・・・・・」
 さも申し訳なさそうな顔で少女が言う。
 「「「えっ!?」」」
 またしても、三人の声が揃う。

 「お前、女だったのか!?」
 土方が驚いて声をあげるのと同時に総司は「あぁ、やっぱり」と呟いた。
 総司の言葉に土方はさらに声を荒げる。

 「なんでやっぱりなんだ!?やっぱりってなんだよ!?」
 「いや、だって。さっき抱きつかれたときに・・・・・・なんとなく、そんな気がして・・・・・・ねぇ?」
 「ねぇ?・・・・・・じゃねぇよ!この野郎っ」
 少し顔を赤らめて答える総司に、土方がゴツンとゲンコツを喰らわせる。

 「いったぁぁ。何するんですかぁ」
 少し涙目になりながら総司は頭を擦る。

 そんな二人の様子を見慣れているのか、近藤は構う事なく
 「総司は本当に何も聞かされてなかったのか?」
 と問うが、総司は首を縦に振るだけだった。

 「でも、君は総司がここにいることを知っていて訪ねてきたんだよね?誰に聞いたんだい?」
 今度は井上が少女に聞いた。

 少女はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに懐から一通のふみを取り出すと、井上の方に差し出した。

 「おミツ姉さまからは時々こうしてふみを頂いていたので、兄さまのことは姉さまから聞いていました」
 井上は受け取ったふみをそのまま近藤に手渡す。

 近藤は「読んでいいのかい?」と少女に断ってからそれに目を通した。
 その間、皆の視線は近藤に集中する。
 「確かに、総司のことが書いてあるよ。それに君と会いたいというような趣旨の内容だな。君の名はあかね君というんだね」
 読んだふみを土方に手渡すと、近藤は優しい眼差しを少女に向けた。

 「あっ、はい!申し遅れました。あかねと申します」
 名乗り遅れたことを詫びるかのように、あかねは深々と頭を下げた。
 それにつられるように近藤が皆を紹介する。

 「こっちが源さんこと、井上源三郎さん。そっちで総司に掴みかかっているのが土方歳三。そして私が近藤勇だ」
 井上は宜しくとでも言うように軽く会釈をして初めと同じような人のいい笑みを浮かべた。
 土方はというと、不機嫌そうに総司から手を離すとフンッと鼻をならし座りなおした。


 気を遣ったのか井上はお茶を淹れると言い席を外すと、しばらく考え込んでいた総司がポンッと手を打つと
 「そういえば試衛館を経つ時、おミツ姉さんが『京に行けば驚くことが待ってるわよ』って言ってたけど・・・・・・・きっとこのことだったんですねぇ、あはは」
 まるで謎が解けたとでも言わんばかりに呑気に笑った。
 あまりの呑気さに怒る気にもならないのか、土方は「はぁ〜」と深い溜息をついた。
 「ところであかね君。君はどうしてそんな格好をしてるんだい?」
 近藤の問いに興味があるのか、土方や総司それに茶を運んできた井上もあかねの方に注目していた。

 「これは・・・・・・」
 あかねは話し辛そうに近藤から視線をはずす。
 「ここには男の人しかいないと聞いていたもので・・・・・・」
 その言葉に全て読み取ったのか、近藤は笑い飛ばした。
 「あははは。そうか、狼の群れに飛び込むために狼の皮をかぶったってことかい?」
 「あっ!なるほど!」
 近藤の言葉に総司はウンウンと頷いて見せた。
 そんな二人とは対照的にあかねは申し訳なさそうに縮こまる。

 「でも、まさかそのせいで総司に間違われるなんて思いもしなかっただろうね?いやぁ、悪かったね」
 井上はポリポリ頭を掻いて詫びる。
 「あっ、いえ・・・・・・・わたしも総司兄さまに似ているなんて思わなかったので、混乱させてしまって・・・・・・すみませんでした」
 「じゃあ、改めて・・・・・・・コホン・・・・・・よく来たね。あかね君。今日はゆっくりしていきなさい。総司と積もる話もあるだろうからね」
 近藤がそう言うとそれに続くようにずっと黙っていた土方が口を開く。
 「但し、ここにいる間はそのままの格好でいろ。それから部屋以外では絶対に二人で一緒にいないこと。他の奴には見つかるなよ?これは混乱を避けるための副長命令だからな」
 何かを企むような目で、総司に言い聞かせるように言う。


 「何を考えてるんだ?」
 総司やあかね、井上が出て行ったのを確認すると近藤が問いかける。

 「あぁ、もしかするといい駒になってくれると思ってな・・・・・・・」
 「駒?・・・・・・・どういう意味だい?」
 土方の考えが読めないとでも言いたげな顔で近藤は首を傾げる。

 「いや、まだ使えるかはわからんが・・・・・・・」
 「・・・・・・・・トシ。仮にも総司の妹だぞ?あまり巻き込むのは・・・・・・・」
 なにかを察したのか近藤は眉間にシワを寄せる。

 「俺はな、近藤さん。京の町にも詳しいのなら、監察方として使えないかと思ったんだ。どう思う?」
 土方の言葉に近藤も考え込む。

 「確かに・・・・・トシの言うように監察方として動いてもらうのは良い考えかもしれないな。まぁ彼女次第だが」
 「だろ?しかも女だ。山崎でも入り込めないところから情報を得れるかもしれねぇ。女ならではの使い方があるってことさ」

 その時の土方の顔はまるで鬼か悪魔が降臨したかのようだった。
 

 そんな会話がなされているなど思いもよらない総司とあかねは、総司の部屋で今までの空白を埋めようと話しこんでいた。
 「今はどこで暮らしているんですか?」
 「鞍馬です。家があるのは山の中なので町に出るときはいつもこの格好をしていたんですけど、これからは辞めないといけないですね。もし町中でバッタリなんてことになったら大変ですし・・・・・・」
 「あはははは、それは面白いですねぇ。きっとまわりがビックリするでしょうね・・・・・・・でもどうして男姿を?」
 「動きやすいのもあるのですが、山道での女子おなごの一人歩きは危ないからとキツク養父に言われているので・・・・・・」
 「なるほど、確かに言えてますね」
 すっかり納得顔の総司がウンウン頷いた。

 「でも、訪ねてきてくれてありがとうございます。こんなに嬉しい驚きは初めてでしたよ」
 総司は心底嬉しそうな顔で笑う。
 (兄さま・・・・・・・)
 あかねにとってはそれが何よりも幸せだった。
 












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう