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幕末 恋唄綴り
作:紫苑 りょう



第十一話


 文久三年 六月三日 大阪

 「案外あっさり捕縛出来ましたね。こんなに早く下手人を見つけることが出来るなんて思いませんでしたよ?」
 心地よい風が総司の髪を揺らしていた。

 総司の言うとおり大阪に着いた翌日、つまりは今朝のことだが手配書の下手人と偶然出くわし無事捕縛に至った。
 おかげで、予定より早くに任務が完了した一行は町奉行に向かった近藤と井上を待つ間の時間を使って川へと涼みに来れたのだ。

 「そうじゃな、おかげで舟に乗ることも出来て幾分涼しくもなったわ。あとは新地辺りで一杯・・・・・・と行きたいところじゃな。なんなら2,3日ゆっくりしていくか?」
 芹沢は右手に持った鉄扇を広げパタパタ仰ぎながら、豪快に笑った。

 「ダメですよぉ。明日には京へ向けて出発すると近藤先生も仰ってましたし・・・・・・それにお酒なら舟の上で召し上がったではないですかぁ?」
 「あの程度の酒、飲んだうちに入るかっ!!!・・・・・・それにしても・・・・・・近藤は相変わらず固いのぉ。あやつもたまには息抜きさせて、もうちょっと頭を柔らかくせんと若い者が付いて来ぬわ、のぉ?野口?」
 総司の言葉につまらなそうな顔をすると、隣を歩いていた野口に同意を求める。
 「芹沢先生の仰るとおりですな、まったく」

 「でも、近藤先生が下手人を町奉行に引き渡しに行ってくださったおかげで、わたしたちはこうして舟を楽しめた訳ですし・・・・・・」
 総司が近藤を弁明フォローするかのように芹沢をなだめると、芹沢は「それもそうだ」とばかりに頷いた。

 「では、こうしよう。このまま新地に寄っていこう。行ってしまえばこっちのもんじゃ。そうじゃ!我ながら名案ではないか!ささ、皆ついて参れ!」
 自画自賛の芹沢が足取りも軽やかに歩き出すと、進路を遮る集団とぶつかってしまった。

 ぶつかった拍子に軽く飛ばされた芹沢の身体を総司が受け止める。
 「だ、大丈夫ですか!?」
 芹沢の背中を支えながら前を見ると、そこには力士の集団の姿があった。

 (さすがの芹沢さんも、力士にぶつかったら飛ばされるんだ・・・・・・・)
 などと呑気な総司が思っていると、芹沢が勢いよく立ち上がり力士に向き直ると大声で怒鳴った。

 「無礼ではないかっ!」
 「何を仰る。ぶつかってきたのはそちらではないか?」
 芹沢よりも軽くひとまわりは大きい力士が、見下ろす格好で芹沢を睨む。

 その態度に芹沢はさらに怒りを爆発させる。
 「なんじゃっ貴様!?武士に対してその態度はっ!!ええぃ、道を開けぬかっ!!憎々しい肉塊めがっ!!」

 (((アンタがそれを言うのか!?)))
 と、後ろにいた隊士は心の中で一斉に突っ込んだが本人に聞こえるハズも無かった。

 無理もない。
 芹沢自身も酒びたり生活の結果、力士ほどではないがそれなりにふくよかな身体をしているからだ。

 話は逸れたが。
 芹沢と力士は互いに睨み合い、どちらも道を譲ろうとしない。

 「こちらが道を譲らねばならぬ言われはありませんなっ」
 「なん、じゃとおぉっ!!」
 言うが早いか芹沢は腰の大刀を抜くと、一太刀で斬り捨てた。

 「「「!!!!!!」」」」

 「せ、芹沢さんっ!な、なんという事をっ!!!」
 青ざめた顔で山南が諌めようとするが芹沢はまったく聞く耳を持たない。

 「これは無礼討ちじゃっ!武士を愚弄ぐろうするからこうなったのだっっ!!文句があるならかかってこいっっ!!!まとめて斬り伏せてくれるわっっっ!!!!この肉塊どもめがっっっっ!!!!!」
 斬られた力士はその場に倒れこみ、周りにいた力士が抱き起こすが既に息はなかった。

 「熊川っ!しっかりせぇっ!」
 「貴様っ!!」
 力士たちが持っていた木刀を振り上げ、芹沢めがけて向かってくるのを見るや否や、総司と銀三ぎんぞうが芹沢の前に立ちはだかった。

 それと同時に他の隊士たちもおのおのが腰の刀に手をかける。

 「皆っ!!決して斬ってはなりませんっっ!!誰かわたしと一緒に芹沢先生を押さえててくださいっ!!」
 山南はジタバタする芹沢の右腕を掴み、その場にいた隊士に命令した。

 「まったく・・・・・・なんてことを・・・・・・」
 銀三ぎんぞうが鞘に収めたままの大刀を構えボヤくと
 「今度ばかりは、マズイことになりましたねぇ」
 さすがの総司も溜息をひとつ吐いた。

 「へへっ、拳でする喧嘩なら俺らの十八番おはこだぜっ!なぁ左之?」
 「おうっ」
 いつのまにか永倉と原田が総司たちの横に並ぶと、意気揚々拳を構え臨戦態勢に入っていた。

 「チクショーっ!!熊川を斬ったやつを出せっ!!何処へやったっ!!!」
 「うおーーーっ」
 「いてぇじゃねーかっ!?コノヤロー!!」

 殴ったり殴られたり・・・・・・ドタバタと乱闘を繰り広げているとどこかから役人の怒鳴る声が聞こえた。
 「貴様らっ何を騒いでいるっ!!!」

 それに初めに気付いた総司が叫ぶ。
 「マズイですよッ!斉藤さんっ!」
 「あぁ、皆っ散れっ!!逃げるぞっ!!」
 銀三ぎんぞうの一声でその場にいた壬生浪士組の面々だけではなく、力士も見物の野次馬も方々へと散って行った。



 ところ変わって京都 壬生村

 大阪での騒ぎなど知るハズもなく、こちらにはいつも通りの時間が流れていた。
 道場で稽古をする者。
 市中見回りの任務に出る者。
 屯所内でしばしの休憩を楽しむ者。

 あかねはというと、八木邸から譲って貰った野菜の山を抱え、台所のある方へと向かって歩いていた。
 だが、野菜の山がかなり重いせいで足元が少しフラつく。
 それを見かねたのか一人の隊士が駆け寄ってくる。

 「あかねさん、重そうですね?手伝いましょうか?」
 人懐っこい笑みを浮かべたその隊士は、あかねが抱えていた荷物をひょいっと持ち上げる。
 「あっ、ありがとう。楠さん、助かりました」
 あかねが隊士の顔を見ると、見覚えのある顔だった。

 楠小十郎。
 入ってまだ日は浅いが、壬生村の中でも噂になるほどの美男子だ。
 よく八木家の女中があかねに楠のことを尋ねたがるので、覚えていたのだ。

 「すごい量ですねぇ?一体、どうしたんですか?」
 楠が不思議がるのも無理はない。

 「八木さんが分けてくださったんですよ。助かりますよね」
 財政の苦しい現状では、本当に有難いことだった。
 これだけあれば暫くは食いつなげる。とあかねは上機嫌だった。


 「大阪に向かわれた近藤先生たちはどうされているのでしょう」
 野菜を洗い始めたあかねを手伝いながら楠が問うと、あかねはふと遠くを見るような目をする。

 「きっと今頃は下手人を探して街中を探索しておられるでしょう・・・・・・無事任務を終えられ一日も早くお戻りになることを願うばかりですね」
 「えぇ、そうですね。なんだか屯所が広く感じられて・・・・・・いつもより静かな気さえしますよ」
 「確かにそうですよね・・・・・・それに、折角こんなにたくさんのお野菜を頂いたのですから皆さんにも味わって貰いたかったですね」
 あかねは大根片手に、少し淋しそうに笑った。

 その様子に少し焦ったのか、楠は話題を変えようとする。
 「そ、そういえば、佐々木の話を知っていますか?」
 「?佐々木さんの?何ですか?」
 「なんでも、最近八百屋の娘さんに入れ込んでて毎日のように通っているとか・・・・・・わたしは相手の娘さんと会ったことはないのですが、なかなかの美人で気立ても良く恋敵も多いとか・・・・・・でも、土方副長には内緒ですよ?」
 そう言うと楠は自分の口元の前で人差し指を立て、「内緒」のポーズをする。

 「ふふっ、もちろんですよ。知られたら烈火の如く怒りそうですものね?たるんでるとかなんとか言って・・・・・・でも、佐々木さんも隅に置けませんよね?そんな方がいらっしゃるなんて・・・・・・」
 あかねは口に手を当てクスクス笑った。

 「俺がなんだ?」
 偶然、通りかかった土方がにゅっと顔を出す。

 「うわっ!?ふ、副長!?」
 驚いた楠が思わず声を上げると、土方は例によって眉間にシワを寄せた。

 「人の噂してるヒマがあったら、稽古でもしやがれっ」
 土方の威圧的な言葉に我に返ったのか、それまで固まっていた楠が勢いよく走り去る。

 「まったく、近藤さんがいないと思って気を抜きやがって・・・・・・」
 小言を言う姑のような口調でブツブツ言う土方を横目にあかねは

 (それはないでしょう・・・・・・副長が不在ならまだしも・・・・・・)
 と、心の中でボヤいていた。












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