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試作第3号 作者:やぽー
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第一話 地球・日本・T県某所にて

---side アカリ---
 閑静な住宅街に建つ我が家の庭で、六本の腕を持つ少女が笑っている。

 彼女は純白の貫頭衣を着ていて、足は裸足だ。衣服から伸びる二対の手足は透けるように白く、太陽の光がきらきらと反射して目に眩しい。身長は多分、かなり低い。あどけない顔立ちで、無邪気に笑っている。それだけを見れば、ただの可愛らしい女の子だ。
 彼女が異形たる所以は、もう一対の”腕”だ。それは何とも言いようのない形をしている。背中の肩甲骨のあたりから垂直に、白くて、横側から押しつぶされたような平べったい腕が生えている。腕の縦幅は根元からだんだん広くなり、彼女の肩幅と同じくらいの長さで一番広くなる。そこから下方に折れ曲がって徐々に狭くなり、彼女の膝くらいの高さで幅が尽きる。腕の先端は尖っていて、手も指もついていない。
 どんな物にも似ていない異形の美しさを、私は呆けたように見ている。

 『何、ぼーっとしてるの?』

と彼女は言う。幼い私は、そのへんなおててを見てたの、と返す。

 『変なおてて……これのこと?。これはおててじゃなくて、”羽”って言うの。これを使って空を”飛ぶ”の』

 私にはその言葉の意味がよく理解できない。よほど変な顔をしていたのだろうか、彼女は可笑しげに笑った。

 『こうするんだよ。案外、簡単だよ?』

 彼女はそう言って”羽”を大きく開き、跳ねた。しかし彼女の体は、地上から数十センチの場所に留まったままだった。彼女はそのまま家の庭を一周してみせた。

 『わ、すごい、すごい!』

と私は言う。

 『へへん。もっともっと高い所にも飛べるんだよ!』

 そういったものの、どれだけねだっても彼女は”もっと高い所”に”飛んで”くれはしなかった。それどころか、私が興奮してたくさんの質問を投げかけても、黙りこくっている。

 『どうして……黙ってるの?私、怒らせちゃった?』

 私の問いかけに、彼女は困ったような顔をして……彼女は……。


***


 『……という夢を見たんだ』

 『アンタまだ寝ぼけてるの?もうお昼だよ?』
 イヤ、確かに今まで寝てたけど、そんなにバッサリ切らなくてもいいじゃないか。
 時刻は午後一時過ぎ、自宅で気だるげな昼下がりを過ごしておりまーす。私は歯磨きをしゃかしゃかやりながら、目に入れたコンタクト(Augmented Contact display)で友達とチャットを交わしている。
 ”コンタクト”はAR技術の隆盛期である21世紀の後半に開発され、22世紀に入った今ではポピュラーなコミュニケーションとして全世界で使用されている。ネット、個人認証、お金の出納その他あらゆる分野とリンクしているデバイスなのだが、いかんせん対応しているのは視覚ARのみだ。ヘッドセットがなくては音声通話ができないのである。だから私が歯ブラシを咥えて仮想キーボードを叩いているのは横着ではなく必然である。Q.E.D.。
 『アカリ、また変なこと考えてるでしょ。いい加減にしないとログアウトするよ?』
 『ちょ、お慈悲、お慈悲をー!』
 私とチャット中の、この冷血漢はレイ。幼年施設時代からの幼馴染で、数少ない同性の友人だ。しかしどこで道を違えたのか、私がこんなにつましく奥ゆかしく育ったというのに、ヤツはかなり口が悪い。しかも胸も男と区別がつかないくらいで……。
 『今、何か無性にイラッとしたんだけど』
 ギクッ。
 『ナ、ナンノコトカナー』
 『言っとくけど、私はまだ成長途中ですから。後、アンタも結構図々しい性格してるわよ』
 付き合いの長い私の考えなどお見通しだったらしい。
 『それで?何の用?』
 『ご飯なくなったから、買い出し行って来てー』
 『自分で行け』

---<ユーザー:レイ が退出しました>---

 どさくさで頼んでみたけど、やはりダメだったか。

 買い出しに行く前に、学校に出席しておくことにする。ネットから学校の生徒用ページにログインし、課題のアップロード、小テスト受験、新しい教材と課題のダウンロード……と一通り済ませる。
 面倒だが、義務教育なので仕方ない。一昔前はもっと煩雑な手続きがあったと言うし、それに比べたらマシなのだろう。
 今日の学校のトピックには「集団誘拐事件への注意喚起」というリンクが貼ってあった。雑務的な連絡は珍しい。ニュースで話題になっていれば流石の私でも気づくだろうし、あまり深刻な事件ではないのだろう。

 さて、買い物に行きましょうかね。準備はコンタクトと電動カートだけで十分。玄関から空を見上げると、どんよりと鉛色の雲がかかっていた。カートにホロはあるが、傘も持って行った方がいいかもしれない。
 ふと、見上げた空に何かが横切った気がした。私の夢でもあるまいし、”飛ぶ”物なんてただの空想のはずだ。でも私はどうしても気になってしまった。そのまま家を離れていれば、あるいは私の命運も違っていたかもしれないのに。
 私は妙にドキドキしてコンタクトのカメラ機能を起動する。そして、当てもなく空をズームで見た。

 その瞬間、コンタクト越しに目が合った。

 次の瞬間、私は物凄い勢いで吹っ飛ばされた。薄れゆく意識の中で、外に出ただけで死亡フラグが立つとか、もう一生ヒキコモリになってしまおうか……と割と呑気に考えながら。


***

---side ???---
 私は”支配者”から受け取った情報が正しかったことを心の底から喜び、地上の何処かにいます神に感謝を捧げていた。
 T県の上空3000メートルの高さで私は羽を広げてホバリングし、新たに地球に来訪した化け物を迎え撃った。
 「警告します。貴殿は世界の境界を侵犯し、我らの法を犯しています」
 その化け物は奇怪な出で立ちをしていた。元は五体があり直立する生物であったのだろうか、しかし今は肌から無数の機械部品のようなものが飛び出し、不恰好に体を覆っている。部品群はでたらめに突き出しているようにも見え、理解不能な巨大機械を形作っているようにも見える。見たこともない金属で出来た、ジェネレーターのような大きな部品を4個背に背負っている。
 「こちらに来た以上、退去は不可能であることを先にお伝えしておきます」
 『BRR、BOOMBAM、BRRRRRRR!』
 異形はおそらく知的生命体であったと考えられるが、今も知性を保っているという保証はない。あるいは言葉が通じていない可能性もある。実は相手が一方的に自分の意志を伝えるだけなら可能なのだが、成り立てと思しきこの渡航者には無理だろう。
 「貴殿がこの世界において重大な脅威と成り得る存在であることをご理解ください。もし貴殿が幾つかの条件を……」
 『BRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!』
 ダメ元で話しかけてはいたが、どうやら私には運がなかったらしい。意図的なものか単なる暴走なのかは分からないが、”力”の異様な高まりを感じる。
 異形がいきなりこちらに突っ込んっできた。交渉は失敗だ。まあこんなこともあるだろう。異世界の生物たる渡航者がこの世界の価値観に適応できるとは限らない。
 「”現れよ、我が神具”」
 キーワードに従い、私の体内で超常の武具が構築される。生み出すのは何をも踏破できる長靴、セブンリーグブーツ。使い慣れたそれは一瞬で具現化し、足の肌をメリメリと破って着装された。
 『BRRR、BOOM!BOOM!』
 ひねりのない突進を躱しざまに拳を叩き込む。物理的な感触は硬いが、力への干渉は簡単に徹る。
 「この感触は……暴走、ですか。ならば対処は簡単です」
 制御の甘い力を乗っ取って、異形から剥ぎ取ってしまえばいい。簡単な仕事だ。
 『BRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!』
 異形はかなりの高速で飛び回りながら、狂ったように光線を乱射しだした。私はそれを見て、わずかに眉を顰める。光線が攻性の力のみで顕現しているのではなく、異形独自の世界法則に従って構築されていたからだ。この攻撃は迂闊に食らえない。
 問題はまだある。長射程攻撃を有するということは、おそらく飛行生物が存在する世界の出身だということだ。
 「ッちっ、面倒ですね……!ならば……!」
 消耗は避け切れないと判断。ブーツに力を流し込み、超常の能力を解放する。特性<踏破>は移動補助ではなく、何物をも絶対の足場とする異能。その力をもって異形に追随する。
 『BRRR、BRRRRRR』
 熱線を強引に道として往く。熱の余波で肌がちりちりと焦げるが気にしない。自分に直撃する攻撃を踏み潰し、幾条もの光線を飛び移る。
 「シャッ……!」
 異形に追い縋り上段から掌底の一撃を叩き込み、保有する神力を削る。そこから得意の連続攻撃を……。

 「……あれ?何で??」
 異形は吹っ飛ばされた。しかも今まで飛んでいたのが嘘のように落ちていく。それはまるで、空に輝く流星のように……。
 「……ってちょっとーーー!何を急に力尽きちゃってるんですかーーー!!まだ力残ってるでしょう!あなたの存在が消滅するまで戦わなくちゃダメじゃないですか!?」
 私はそんな本音を口走るが異形の落下は止まらず……。

 地上にいた誰かに着弾して家屋ごと吹っ飛ばした。

 「…………あ…………」
 巨大な体躯を持つ異形の落下は小さなクレーターを作り出し、周囲を衝撃波で蹂躙した。窓ガラスは割れ、壁は歪み、街灯は曲がった。そして訪れる静寂と大混乱。


 「あーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!???」


 曇天の情けない悲鳴は、誰かさんの耳に聞きとがめられた。
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