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拍手ログ その1

 ■ 弟子はまだ要らない  ――『皇帝直属歴史学者兼宰相』アオイ


 いつものように城の書庫にいたアオイは、背後でひょこひょこと動くその気配に小さくため息と笑みをこぼした。数日前から付きまとってくる、弟子志願の魔法使いの少女だ。

「ルニー、いい加減私に付きまとうのはやめたまえよ」

「ひっ」

「私はね、流れ者なんだ。今は皇帝の温情でここにいるが、ゆえに弟子はとらんよ」

 流れ者とは、その場にとどまることをしないものだとアオイは教えられた。

 様々なやっかみなどに、何度も出ればなんとなく意味も予想がつく。彼らは若き皇帝陛下を敬愛している。ゆえに、その彼が身元不詳の冒険者上がりの学者をそばに置くのが許せない。

 要するに嫉妬だ、見苦しい。

 まぁ、それくらいはいいのだが、たまに貴族の小太りな下卑た男が、やれ娘を蹴落とすつもりかなどと言ってくるから、十回くらいあの皇帝の顔に靴跡をツケても許される気がする。

 しかし以下に腹が立とうともそんなことは言えないしできるわけもないので、アオイはわざと低い声色で脅しあげるだけだが。だいたい、それで黙って下がっていくから楽だ。

 唯一、聞いてくれないのはルニーという名の少女。

「ししょーが流れ者でもいいです! あたしは、ししょーの弟子になるです!」

「……はぁ」

 ぱたぱたぱた、とおとなしそうなほど上下する猫のような獣耳。

 面倒だ、何もかも面倒だ。弟子にするのも下手に断って泣かれてなだめることも、それを知ったあの腹黒い皇帝にくすくすと笑われることも、何から何まで気に入らないし気分が悪い。

 弟子として、四六時中一緒にいると思うと気分が滅入る。

 だからアオイは、簡潔にお断りを告げる。

 ――それがルニーという少女に通じたことは、今のところ無い。






 ■ 長めの耳を、得意気にぴくぴくする特権  ――『メイド』リルチェリー


 ある日気づいたら剣と魔法が当たり前の異世界でした、とか、バカバカの上にもう一つバカをつけるような、子どもじみた下らなさマックスの『妄想』だとずっと思っていた。

 まだ宝くじで一億あたったら、とか、ある日王子様に見初められて、とか。

 そういうやつの方がまだ、かろうじて多少は起こりうる可能性があるだけマシだと。

 黒のロングワンピースに白のエプロンを付け、頭にフリル付きカチューシャを身につけ、箒を握るリルチェリーは、俗にいうエルフの『魔法使い』そのものになるまで考えていた。

 リルチェリーと名乗る彼女の、その中身は人間だった。

 平凡な家庭に生まれた、ごく普通の。

 強いて言うなら、周囲の人より少しだけゲーム好き。

 周りがスマホのアプリでちょこちょこしているのと違って、兄や弟に混じってコントローラーを握りしめてぎゃあぎゃあ騒ぐのが好き。なお、だいたいリアルファイトになるが。

 そんな普通にありふれていた高校生が、なんでメイドやってるんだろうか。

 そもそも、なんでとんがり耳なエルフの『魔法使い』なのか、まずそこから突っ込んでいくべきだろうと思う。だけどリルチェリーは、自分でも認める程度に賢くない。

 だから、死ぬほど安直に『ネトゲの中にネトゲで使ってたキャラになって入った』とまでしか理解できなかった。なぜなにどうして、という疑問は抱いた瞬間キャパを超えた。

 今となってはどうでもいいことだ。どうせ初めて間もない低レベル、何もできやしないのは目に見えている。現に入ってた初心者歓迎ギルドからは、即効叩きだされたし。

 そして拾われたのが、この貴族のお屋敷だ。エルフ族の貴族で、よくあるエルフの設定を順守するように多種族を嫌っていらっしゃる。エルフでよかった、エルフばんざい。






 ■ 冒険者組合は仕事しろ  ――『ヤブ医者以下の医者(自称)』ニーフェル


 第三都市ストラ。

 ここは冒険者が多く集まる、冒険者の都だ。

 こと冒険者に関する生業に関しては、帝都すらも超える。複数の冒険者組合の支部、その事務所があり、周辺には大小含めて百近い数のダンジョンがある。

 元よりそのために作られた都市であるために、街の区画も整理されていた。例えば武器は武器、防具は防具、とある程度まとめられて店を構えるのが義務となる。

 各種アイテムも同様だ。そうすることでわかりやすく、そして切磋琢磨を促す。

 そんな都市の、中央から少し奥まった場所にその医院はあった。

「貴様ら、ここは病院であって、貴様らのたまり場ではないぞ」

 赤毛の女が、不機嫌そうにロビーを眺めて言う。彼女がこの医院の主のニーフェル。元『錬金術師』で、飽きたという理由で『治療術師』になった変わり者だ。問題は変わって間もないので各種スキルが貧弱。ぶっちゃけ、医者としてはヤブよりまだひどい状態である。

 にもかかわらず、彼女の医院は常に満員御礼だ。

 まず売られている薬が手頃、かつ効能が確実であること。

 そして主だった大手ギルドと取引があり、とにかく人脈が広いのだ。直接つながっているのはギルドマスターか副マスターぐらいなのだが、大手ならそこに百人単位でついてくる。

 よって。

「せんせーせんせー、俺の探し人見つかった? なぁ、俺のー」

「うるさいぞ小僧。貴様の彼女ならどこぞの冒険者と好い仲だそうだ。低レベルや生産職で集まった、小規模ギルドでやっているらしい。よって見捨てた貴様に居場所はない、逝ね」

「あ、あのね、先生……」

「小娘、お前が探している妹なら第四都市の喫茶店でアルバイト中だ。水門側のカフェテリアだからすぐわかるだろう。あとは直接そこまでいって探すがいい。お前が探している、ということは知っているぞ。……これに懲りたら、姉妹といえどフレンド登録しておくことだ」

 このように、人探しなどの仲介事務所状態になっているのである。

 壁のコルクボードには人探しなどの情報がずらり。

 そんな彼女の願いはただ一つ――全体チャット早く復活しろこのやろう、である。






 ■ 鬼神降臨  ――『シロネコ運送』の四人


 その日、アイシャという『格闘家』にして『治療術師』である、本人曰く気功師的ななんかすごいっぽい職業である彼女は、とてつもなく不機嫌だった。

 夢見が、非常によくなかったのである。

 出てくる男という男、上司に同僚に後輩にセクハラされた記憶を纏めて思い出す、という誰も嬉しくない何かをプレゼントされたのだ。気分は最悪だ、むしろどん底といっていい。

 いつもならばベッドに行われる八つ当たりは、あまりすっきりしない。しないよりはマシと言う程度である。しかしこの世界だと合法的にボコボコにして構わない存在が、いた。

「ふっざけんじゃないわよあのハゲじじぃいいいい!」

 ぼかーん、といい音を立てて吹き飛んでいく魔物A。

「貴様のための尻でも胸でもないわあああああ!」

 どかーん、とさらにいい音を立てて地面へとめり込んでいく魔物B。

 そこは彼女の、アイシャの独壇場だった。わずかに怯えつつも襲い掛かる魔物を、捕まえては大木に叩きつけてすりつぶし、かと思えば足を高く上げてからのかかと落としで粉砕。

 次兄の宴と、弟のハヤイの前で彼女は暴れまくる。ちなみに長兄のトキは、今日はギルドの用事があって一緒ではない。一緒だったとしても二人のように、見守るだけだっただろうが。

 ちなみに彼女の種族設定はエルフである。

 くりかえす、アイシャは長い耳が特徴的な『あの』エルフである。

 そんな彼女は周囲の魔物十数匹をたった一人で、軽々と叩き伏せた。だが遠巻きにまだ十匹ほどの魔物がいる。かわいそうに、彼らには逃げるという選択肢がないのだろう。

 そんな姉に無謀にも、ちょいちょいと近寄って声をかける弟が一匹。

「ねーちゃん、ねーちゃん。オンナわすれちゃただのメスだぜ、つかイケメン逃げるぜ。肉食系女子ってりゅーこーらしーけどさ、ぶっちゃけ今のねーちゃんグリズリーかヒグマ――」

「……」

「ひっ。ウタにぃ、ねーちゃんコワイ! オレを食おうとした!」

「ああなったアイには近づかない方がいい、食べられないから安心しなさい」

 弟の頭を撫でる宴。その視線の先には、鬼神と化して荒れ狂う妹がいる。部長に課長に係長に社長に取引先の相手その他もろもろ、ありとあらゆる役職を上げつつ魔物を倒す。

「……ねーちゃん、そーとーストレスたまってるんだな。自分が回復担当って、あれ忘れてるんじゃね? べっつにいいけどさー、オレら、みんなそうそうダメージくらわねぇからー」

「OLは大変なんだよ。そっとしてやりな」

「ふーん」

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